デスゲーム 裏切り

仲仁へび(旧:離久)

第1話




「○○さん、もし今の仕事が終わったら、結婚してくれるかな」

「嬉しい私も貴方と一緒に生きていきたいと思ったの」

「詳しくは言えないけれど、必ず今の仕事をやめてくるよ。だかれそれまでは」

「ええ、しばらく会えないのね、さみしくなるわ」





 俺達はデスゲームを実行する人間だ。


 監視ルームの一室。


 ここには、巻き込まれた人間達が震えるのを見て愉悦にひたるような、そんな趣味の連中ばかりがあつめられている。


 このデスゲームでは裏切りが、見どころになる。


 監視カメラの先に集められた、哀れな子羊たちを見てにやりと笑った。


 疑心暗鬼になっている者達は、互いを探り合い、貶め合う。


 その光景を見て、心が震えた。


 なんて楽しいのだろう。


 展開はつぎつぎに変わっていき、おっとりしていた少年や大人しかった老人など、予想外の人間が裏切りを見せ始めている。


 デスゲームの醍醐味の一つだ。


 人間の本性がむきだしになる、この瞬間がたまらない。


 同僚達もその瞬間に歓声をあげている。


 ん?


 一人だけ手が止まっているやつがいるな、注意しなければ。


「まさか、彼女が。こんなところにいるはずが」


 なにかぶつぶつ呟いている。


 最近彼女ができたとかいって浮かれているやつだ。


 仕事の合間に手をつないだとか、デートしたとかのろけだす。


 正直うっとおしい。


 他の人間とは違って、金に困ってこの仕事を始めたようだから、感性は他の人間と同じらしい。


 だから、デスゲームの最中に青ざめたり、吐き気をこらえたりしている事もある。


 この間なんて、攫って来たカップルに同情していた。


「なんてかわいそうなんだ」とか言っていた。


 でも、まさかこの職をやめたりする事はないだろう。

 

 俺達の体には特殊なチップがうめこまれていて、二十四時間監視されているのだから。


 どこにいても居場所が特定されてしまう。


 逃げられやしないんだ。


 まあ、そんな奴の事はどうでもいい。


 カメラに視線を戻した。


 さて、次はだれが裏切りを見せてくれるのか。


 心を弾ませながらカメラを見つめていると、後頭部に固いものがつききけられた。


 銃だ。


「もうこりごりだ! こんな事はやってられない。俺は自首するからな!」


 銃声が聞こえた。


 倒れた。けれど、意識があった。


 あたりどころが良かったのか、奇跡的に一命をとりとめていた。


 しかし床から、動くことができない。


 慌てる他の人間の声と、走り去っていく誰かの足音。


 さすがにこれは予想外だった。







 ここから逃げたあいつがカメラの向こうで、女と何か話をしている。


 もしかしてさらわれた女が、付き合っている彼女だったのか?


 よく聞こえないが「愛している」とか「君が一番大切だ」とかそんな事を言っているのだろう。


 他の人間がいるなかで、抱擁したりキスしたりもしている。


 つきあいたてのカップルでもそこまでしないというほどの、熱愛具合だった。


 やがて二人は手をとりあって、画面の外へ走っていった。


 どうせ、逃げられやしないのに。


 まあ、それでも運が良ければ、デスゲーム期間以上は生き延びられるかもしれない。


 一秒でも長く、好いた人間には生きてほしいとかそういう心理だったんだろう。


 人格的に破綻している俺には理解できないが。


 そう。だから予想できなかったのかもしれない。


 まさかデスゲームの外で、こんな所で裏切りが起きるだなんてな。



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デスゲーム 裏切り 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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