第30話 探索終了後、ギルドへ帰還
ピクシスの町へと戻った俺達は、ギルドへダンジョン探索結果の報告をした。
「――つまりこの地図を頼りに地下神殿の隠し部屋を発見し、この手紙を回収してきた、と言う事ですね」
元・神官長の手紙と、参考として提出したメリーの地図を手に、受付嬢さんが確認を取ってくる。
内容はあんなだが、貴重な歴史資料ではある。木箱ごと持ち帰っておいた。
このように、ダンジョンで回収した物品はいったんギルドへ提出するのがルールである。学術的に大きな価値のある品ではないか、危険なものではないか……と言った確認をするためだ。
確認して問題がなければ冒険者へ返却される。ダンジョンから持ち帰った物品
は、原則として発見者に所有権が与えられるのである。
まあ、この手紙はそのままギルドに預けるつもりだ。いらないから。
「はい」
「その前に、アースエレメントが大型化したうえで魔族化する珍しい場面にも立ち会っているんですよね。ついでに倒しているんですよね」
「はい」
「……ノルさん達は駆け出しの冒険者パーティーのはずですよね。ですのになぜ短期間のうちに並みの冒険者以上に濃密な経験してるんですか……」
受付嬢さんが呆れたような口調で言った。
そんな言われても困る。おおむね濃密体験の方から押し寄せてくるんだから、俺達にはどうしようもない。
「……おい。またあの新人達だ。例のファイアボールしか使えないって魔術師と、チェーンソー使ってるエルフの一味だ」
「……またか。今度はなにをやらかした」
「目の前で魔族化したアースエレメントを倒したらしい。あとダンジョン内の隠し部屋を発見して、大昔の神殿長が残した手紙を持ち帰った」
「……そうか」
「こいつ、すっかり達観した目をしやがって……」
「まあ分かるぞ。そもそも魔族自体、そう頻繁に見るもんじゃない。一度も出会わず冒険者人生を終えるベテランだって珍しくはないからな」
「ダンジョンの未発見区域だって、そんな頻繁にある事じゃないものね。安全度の高い場所はたいてい調べつくされてるし、調査が十分でない場所は危険度の高い場所だから」
「あいつら、どんな幸運の持ち主なんだよ……。いや、思わぬ強敵と遭遇してるって意味では不運か……?」
「……ただ最近、本来の活動場所から外れたところで魔物と遭遇するって話をしばしば耳にするんだよなぁ。洞窟の中で活動しているはず魔物が、外をうろついていたりとかさ。俺らも他人事じゃいられないのかもな」
「それ本当ですか? うわ、怖いなぁ……」
「『ま、俺ならたとえ遭遇しても軽く返り討ちにしてやるんだけどな』みたいな雰囲気
「そんなどうでもいい事を考えてる余裕はないわね。私は今『もし魔物と予期せぬ遭遇をしたら』と考えてビビってる最中なのよ。だって、私は基本ヘタレなんだから」
……毎度のごとく野次馬は無視。
「……まあ、ご活躍なさっているようでなによりです。本日はお疲れ様でした」
そう言って受付嬢さんは、預けた地図をこちらへ手渡してきた。
「いやー、残念だったねー!」
ギルドロビーの一角にあるテーブルに着くなり、メリーは快活に口を開いた。内容とは裏腹にちっとも残念そうではなかった。
「結局、財宝なかったねー。でもみんなのおかげで探索は楽しかったよ!」
「メリーってば。結構大変な目に遭ったって言うのに元気ねぇ」
「うん、あの時はごめんね。でも楽しかったのは本当だもん」
「そうですね。私達も貴重な体験をしました。それに魔石も高く売れましたので、収入の面でも実入りは多かったです。エレメント達の魔石は比較的マナ量が多いですし、大型アースエレメントの魔石まで手に入りましたから」
「先日倒したワイルドボアとかゴブリンロードとかの報酬もあるし、なんだかんだ言って順調に資金が貯まっているのよね。終わりよければすべてよし、って事で喜んでおきましょうか。ねえノル?」
「………………そうだな……」
「……テーブルに着いた瞬間にこの有様だものね……」
天板に突っ伏す俺を
「財宝が見つからなかったのは残念ですが……なにもそんな露骨に落ち込まなくてもいいじゃないですか……」
「……だってさ。楽して一攫千金の夢が絶たれたんだもん。働かずにのんべんだらりと過ごす日々が遠ざかったんだもん。これじゃ、正攻法でジジイに認められなきゃならないじゃんか……」
「じゃ、正攻法でがんばりなさいよ」
エストの言葉が、俺の傷心へと塩のように染み渡る。こいつには俺を甘やかそうって気持ちはないのか。
「だいたいね。いくらなんでも財宝に入れ込みすぎでしょ。最初は疑ってたくせ
に」
「最初は最初、今は今だ。……それと、珍しくやる気出した反動が今になって返ってきてんだよ……」
今の俺はいわば
「……えーっと、もしかしてあたしのせい?」
「全面的にノルのせいだから気にしちゃダメよ。……それよりノル。どう思う?」
「なにがだ?」
「忘れたの? 地下神殿へ出かけたもうひとつの理由よ。メリーの実力を確かめてから、パーティーに加えるかどうか決めようって話」
「ああ」
そう言えばそうだった。
「……いんじゃね?」
「超テキトーな答えね……」
だって腑抜けモードだし。
「つってもな。実力的にも人格的にも問題はないし、断る理由なんてないぞ?」
「ま、そうよね。私も問題なし。メリーには今後も私達の盾役として働いてもらいたいわ」
「私もです。彼女からは高い素質を感じます。今後も妹系としての役割を一身に担ってくれる事でしょう」
「……あたしには、セイナちゃんがなに言ってるのか分かんないんだけど……」
「無視してもいいからね。メリーはどうかしら? 私達は頼りになるかしら?」
エストが尋ねると、メリーは『にぱー』っと笑顔を浮かべた。
「うん! みんなすっごく頼りになるよ! ……特にノル君!」
「……俺?」
「ノル君のファイアボール、とってもすごかった! ビックリしたよ! 魔術をあんなに器用に扱うのもそうだし、威力も高いし!」
「そうかー……」
「もー、せっかく褒めてるんだからやる気出してよー」
繰り返すが、今の俺は腑抜けモードのやる気ゼロ状態なのだ。そんな俺にやる気を出せとは、まるで困窮する領民から税を取り立てる悪徳領主みたいな発言である。
堪忍して下さい。
「……ま、そう言う訳で」
改めてメリーが口を開く。
「みんな、これからもよろしくね!」
「ああ」
「こっちこそよろしく」
「よろしくお願いしますね」
和やかな雰囲気の中、俺達はそれぞれにうなずき合う。
「それじゃー今日のところはゆっくり休んで、また明日からがんばろー!」
元気のあり余っている様子のメリーに対し、
「……ちょっといいか?」
俺は挙手し、意見を述べる。
「……ゆっくり休んだ程度じゃやる気回復しそうにないし、明日は一日中ダラけて英気を養いたいんだが、どうだ?」
「「「却下」」」
三人から即答された。
……明日からまた、ジジイに認められるよう正攻法でがんばらなきゃいけないのか。
正攻法やだよぅ。おうち帰りたいよぅ。
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