第9話 ドラゴンスレイヤー、或いは天才魔導士。ー②

「私たちは現勇者である異世界人のカケル様に使え、ここまで来ました。カケル様と直属の兵士たちが橋を渡りきると、ここまでだと言い、私たちが渡る前に橋を落としたのです。そのとたん、ドラゴンに襲われたのです」


 兵士は、膝を落とし、地面を見ながら俺に伝えた。足はすくんでおり、目からは光が消え戦意喪失している。

 俺とアリアで逃げることは簡単だが、このまま放っておけば国軍兵士たちは死んでしまうだろう。ここで、あのドラゴンを倒すしかない。


 口を光らせ、ドラゴンは火を噴こうとしている。魔力が集中するにつれて、あたりは熱くなる。この攻撃をまともに食らってしまえば、多くの犠牲者が出るだろう。

「アリア、なにかないか」

 俺では、広範囲に繰り出される魔法を止めることは出来ない。自分だけ対処することは出来ても、兵士全員を助ける手段はない。しかし、アリアなら。

「一度だけ、火炎攻撃をそっくりそのままドラゴンに返すことが出来ます」

「なら頼む」

 叫ぶようにアリアに言った。

「しかし、そうすると私は魔力を使い切って動けなくなります」

「ああ、分かった。大丈夫だ、あとは俺に任せろ」

 ドラゴンが口を開けると太陽のような輝きが目に入る。どれだけの魔力量を詰めればこうなるんだよ。

 アリアは、杖をドラゴンに向ける。

「ソウル・テラ・フィールド(術よ返れ)」

 単純なカウンター魔法を改良した、アリア特性の術だ。


 俺は、アリアが時間を稼いでくれている間に、剣術魔法を繰り出す準備をする。昔、伝説級のドラゴンを討伐した剣士が作り出した、対ドラゴン剣術魔法。しかし、連撃数の多さと、途中で攻撃モーションを止めることが出来ないため、勇心の眼を使用し、未来を読みながら使ってもカウンター攻撃を食らってしまう。あまりにもリスクが大きいため、この剣術魔法は勇心の眼を持つものでも使わない術となった。

 しかし、今はリスクなど考えていられない。使わなければ犠牲者がでる。


 ドラゴンの口から放たれた業火は、あたり一帯を目も開けられないほどまぶしく照らした。火炎の高さは十メートル程になり、まともにくらえばひとたまりもない。その攻撃をアリアが跳ね返す。圧倒的な魔力量の攻撃に、アリアは杖を持っている手を震わせながらも一心に耐える。


 ドラゴンがすべての炎を吐き出し、アリアはそれを全て返した。ドラゴンの後ろの木々は燃え、ぬかるんでいた地面は一瞬で水分が蒸発していた。

 魔力を使い切ったアリアは、体から力が抜けていた。


 勇心の眼で見るとドラゴンの方も弱っているのがわかる。俺は、次のアクションを起こさせないために、すぐに攻撃を行った。

 対ドラゴンのための魔法。十六連撃剣術魔法〈ソニック・スレイ・ギータ〉

 剣は赤く輝き、魔力がみなぎっている。

「うぉぉぉぉ―――」

 叫びながら、走り出す。一撃目が腹にあたり、ドラゴンが「グァァ」と低い声で吠える。

 剣術魔法の型通り、間髪入れずに二撃目を繰り出す。

 ドラゴンが爪で受けギンという鈍い音が響く。剣術魔法のモーションに入っているため、今度は後ろに吹き飛ばされずに済んだ。

 三撃目入れようとした瞬間、ドラゴンは両爪をクロスさせるように俺に攻撃してきた。勇心の眼で見切り、三撃目の攻撃を軌道修正して受ける。しかし、片方の攻撃しか受けることができない。左からくる攻撃を俺は体に受けてしまった。魔力を攻撃された箇所に集中させ、出血を止める。


 落ち着け、俺は元とは言え勇者だ。冷静になれ、傷を負ったところでこの程度なら死ぬことは無い。それに、アリアだっている。回復魔法をかけてもらえはもう少し無理をしても大丈夫だ。


 一層集中し、俺は残りの連撃をドラゴンに撃ち込む。勇心の眼で回避できる攻撃は避け、仕方のないカウンターは魔力で対処する。

「ぜぇりゃぁぁぁぁ」

 攻撃を受け、うなだれたドラゴンの首に最後の一撃を食らわせる。

 ドラゴンは最期「グァァァァァ」と断末魔の叫びを繰り出し、ドスンと地面に倒れた。


「はぁはぁはぁ……やったのか」

 息は乱れ、魔力も底を尽き、視界が乱れる。立っていられないほどにあちこちが痛い。しかし、大規模レイドでやっとのドラゴンをほとんど俺とアリアで倒したのだ。これだけで済んだのはむしろ幸いかもしれない。


 次第に意識が遠のき、俺はその場で倒れてしまった。

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