第7話 グルメ、或いはゲテモノ。ー③

 そこには、白い肌に銀の髪、人族より少し長い耳を持ったエルフ族の少女がいた。

 十歳くらいの見た目の彼女は、腰に白いレイピアを下げている。


「お嬢ちゃんこんなところで何してるの?」

「道に迷っているのです。帰れなくなったのです」

「へぇ、エルフでも道に迷うんですね」

 エルフとは森で戦うな。という言葉があるくらいエルフは森に詳しいはずだ。アリアもそこに疑問をいだいたのだろう。


「私は、ハーフエルフなのです。純血のエルフじゃないのですごく道に迷います」

 ハーフエルフだからと言って、森で迷うなんて、そんな話は聞いたことがない。さてはこいつもポンコツか?

「そんな自慢気に言われても……で、お嬢ちゃんはケルベロス調理できるの?」

「うん。出来るです。1か月前まで東の国にいたのでケルベロスたくさん食べたです。あとちなみに私120歳だからお嬢ちゃんじゃないです。ソフィアと呼ぶです」

 驚きすぎた余り「ひゃぇ」という変な声が出てしまった。今まで大人の姿エルフにしか出会ったことが無いため、気にしたことがなかったが、やっぱりエルフの年齢は人族のものさしでは測れない。


「えーっと、なんだっけ。ソフィアさん。年齢と容姿のギャップに驚きすぎたんだけど、ケルベロス本当に料理出来るんだ」

「そう言っているです。おいしく料理するんで、少し分けてくれです。もう3日ほど森で迷子なのでろくなもの食べてないです」

 先ほどから、彼女はグーグーおなかを鳴らしている。

「もちろんいいぞ。ちゃんと美味しくしてくれるなら任せる」

「任せろです。早速つくりますです」

 ソフィアは、腰元からナイフを取り出しケルベロスの近くへテクテク歩いて行く。

「私も手伝います!」

「だめだぞアリア。俺らはおとなしく見とくんだぞ」

 むすっとした顔で俺をにらんでくる。


 ソフィアは、慣れた手つきでケルベロスを解体する。

「手際いいな」

「本当は、吊るして解体した方がいいんですけど、このナイフ、エルフ特性の魔法がかかっているのでまぁ吊るさなくても大丈夫です」



 ほんの10分ほどで、ケルベロスは肉の塊になった。

「こう見ると、豚や牛と変わらないですね」

 アリアは、解体されたケルベロスの肉をまじまじと見ている。

「どうやって調理するんだ?」

「これ使うです」

 ソフィアは、後ろに背負っているバッグから組み立て式の鉄板を出した。

「いつもそんなの持ち歩いているのか」

「エルフは森の民、狩りをして食べるので必須です」

 森の民なのに迷子になるのか。という言葉はいったん飲み込む。

 ケルベロスの解体を待っている間に集めておいてくれと言われ、俺とアリアで拾い集めた木の枝をくべ、火を起こす。

「この部分が一番おいしいです」

 解体した背中部分の肉を持ち、ソフィアは、鉄板の上に置いた。

 ジューという心地よい音が鳴り、3人の腹が一気に鳴った。目の前の肉を目にして、抑えていた空腹感が一気に押し寄せる。

「もう強火で一気に焼きましょう」

 アリアは、木の枝を一気に入れようと手につかんだ。

「だめです。ケルベロスの肉は、脂が少ないです。なのでじっくりと弱火で焼いて肉が固くならないようにするです」

 正直俺も味なんて気にせず、今すぐに食べたいが、なんせケルベロスの肉だ、ちゃんと調理しないと不味さに下限がなさそうなのでソフィアのいう事をしっかりと聞く。


 数分して、「もういけますよ」とソフィアが皿に肉をおいてくれた。

 俺とアリアは、餌を目の前に出され「待て」と言われている犬のように一心に肉を見つめる。

「あと、これをかければ最高です」

 ソフィアは、バッグの中から調味料を取り出した。

「東の国から持ってきた特性のスパイスです」

 3振り程スパイスをかけると、香りが一気に付き、ますます空腹になる。

 今、目の前にあるのがケルベロスだとは到底思えなくなってきた。

「もう食べていいですか?」

 アリアは、よだれを垂らして目の前の肉に釘付けになっている。

「はい、もう食べれるです」

 ソフィアの合図で3人は一斉に手を合わせる。

「「「いただきます」」」

 俺は、一気にむさぼりついた。

 噛んだ瞬間に、肉汁がジュワジュワ出てくる。脂身が少なく、赤身肉の味わいが口の中で広がり、噛めば噛むほどに美味しい。

 ケルベロスの見た目からは想像できないほど臭みも無く、牛や鳥、豚とそれほど変わらない。


 お腹がペコペコだった俺たちはすぐにケルベロスを食べきった。

「ハルさん、まだここの部位がありますです」

 ソフィアは、両手にケルベロスの頭を持っていた。

「え……頭も食べるの?」

「はい、東の国ではケルベロスの頭は男性の力を強めると言われています。食べますよね!」

 焼かれてアツアツの頭は、少しも食欲が湧かなかった。けれど、ソフィアはニコニコで俺に渡してくる。

「こ、このまま食べるの」

 頭の原型が残っており、ちょっとというか、かなりグロイ。

「はい、かぶりついてくださいです」

 本当に悪気の無い笑顔だから断りずらい。

「マ、マジ……アリアいる?」

「いいえ、これは男性が食べるものらしいですよ。とっても食べたいですけど今回はお譲りします」


「わかったよ、食べればいいんだな」

 目を瞑り、頭にかぶりつく。ああ、なんとも言えない味だ。見た目がグロすぎて、もはや味なんてどうでもいいかも。

「おいしいだろです」

「うん、おいしいよ……ありがとう」

 もう俺はケルベロスを食べるために、倒さないと誓った。



「で、ソフィアは目的地はどこなんだ?」

 鉄板や調理器具を片付けながら尋ねた。

 一番近いエルフの里は俺たちの目的地である〈リズシア〉だ。きっとこいつもそこへ向かっているんだろう。

「私が暮らす里リズシアです」

 やっぱり。

「一緒に行きますかソフィアさん」

 アリアも同じ考えのようで、ソフィアに誘いかけた。

「いいんです?」

「ああ、もちろん。迷子なんだろ。俺たちもそこへ行くからな、ついでだよ」

「分かりました。私が里まで案内するです」

「だからお前、迷子だろ」

 こうして、俺たちのパーティに、エルフなのに森で迷子になるポンコツハーフエルフが増えた。



 数日後、俺たちは、エルフの里リズシアが異世界勇者によって火の海にさせられている光景を目の当たりにする。

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