第6話 グルメ、或いはゲテモノ。ー②
俺は目を閉じ、魔力を集中させた。
東の国はどうだか分からないが、俺はケルベロスの核がどこにあるかなんて知らない。であれば、見えるようにするしかない。
目に集中させた魔力を、しっかりと留める。まぶたが少し熱を帯び、熱くなるのがわかる。
そうして目を開けると、俺の目は真紅に輝いていた。
《勇心の眼》
これは俺が勇者になれた、最大の理由と言っていいだろう。
魔法使い、いや歴代勇者の中でも数人しか開眼させていない魔眼。真の勇者のみが開眼できるとされている。
この眼で対象を見ると、人であれ、魔物であれ、魔力の流れを可視化することができる。魔力の流れを読むことは、すなわち相手の次の行動を読むことに繋がる。
簡易的にではあるが、未来を見ることが出来るのだ。
さらに、魔力の流れを見ることが出来るという事は、魔力の根源、すなわち魔物の核を見つけることが出来る。
「右の頭か、真ん中じゃ無いんだな」
ケルベロスの核からは、心臓から血液が流れるように、魔力が全身に流れている。
「アリア、俺の剣術魔法で仕留めると核を狙っても外傷がついてしまうぞ。何か策はあるのか?」
「はい!あります。なので、とりあえずはケルベロスの魔力が空になるまで、攻撃を全て受けてください」
「攻撃を全部受ける必要はあるのか?バカ舌って言った事怒ってる?」
「そんなことで怒りません。私は心が広いですからね。いいから私を信用してください」
人差し指を立て、俺に詰め寄ってくる。やはり少し怒っているのかもしれない。
「わかった。とりあえず攻撃を受けきればいいんだな」
アリアの味覚は信用ならないが、魔法の腕は確かだ。小柄な体格からは考えられないほど強力な魔法に幾度となく助けられてきた。
ケルベロスは高さ3メートル、尻尾から頭までは5メートル程あり、ゴブリンと比べると結構大きい。魔物は体内に魔力をため込むため、魔力量と体の大きさは比例する。
ケロべロスに近づき、剣を抜く。
俺に気が付いた様で、3つの頭がこちらを向いた。
「がんばってくださいね」と言って、アリアは浮遊魔法で森にまぎれた。
「さぁこい!受けきってやるよ」
左の頭にある核から、真ん中の頭に魔力が流れている。魔力の放出による単純な攻撃だろう。
剣を魔力で
予想通り、真ん中の頭の口が光り魔力光線が放出された。正面から向かい、攻撃を斬る。ケルベロスの光線と剣をまとう魔力がぶつかり合い、オレンジ色の火花が散る。俺を中心に左右に光線が分かれ、地面がえぐれる。振動は森を揺らし、鳥たちが飛び立った。
眼を凝らし、ケルベロスの魔力量を確認する。魔力量は4分の1程削れていた。今の攻撃を後3回受ければ魔力を空にさせることが出来る。
ケルベロスは俺との距離を縮め、轟くような声を上げながら爪を振りかざした。魔力による高速移動〈ソル〉で攻撃をかわす。
一定の距離をとらないと魔力光線を打たないのであれば、魔力を消費させることが出来ない。後方へ走り、ケルベロスと距離をとった。
再び核が活性化する。今度は3つの頭すべてに魔力が集中している。全力の攻撃を撃ってくるのだろう。
剣に対してさらに魔力を流し込む。輝きが、青白色から黄色い輝きに変わり、魔力を高密度にした時特有の、キーンという高周波な音が鳴る。これで、ケルベロスの魔力すべてを受けきっても剣は壊れないだろう。
再び、真ん中の顔から魔力光線が飛んでくる。今度も同じように正面から斬る。
正面からの魔力光線が続く中、左右の頭から一発ずつ「ダン」と魔弾が撃ち出された。打ち出された魔力の弾はカーブし、受けている魔法光線の90度横から飛んでくる。
真ん中の頭からの光線を対処している状態では、横からくる魔弾を剣で受けることは出来ない。
剣の側面に魔力を集中させ、魔力光線に対しての角度を右に少し変え反射させた。右からくる魔弾と、光線がぶつかり合い相殺される。次に左の魔弾に対処するため、正面の光線に対して剣術魔法〈テイルスピナ〉を発動する。剣を大きく前で回し、正面に魔力の盾を張る。
〈テイルスピナ〉は剣術魔法で数少ない防御魔法だ。一瞬で繰り出すことが出来るが、その分大きな攻撃を長時間受けきることは出来ない。ケルベロスの魔力光線に対して5秒ほどしか持たないだろう。
しかし、元勇者の俺にとって5秒もあれば十分だ。
正面の攻撃を5秒止めているスキに、3連撃剣術魔法〈ブートトライアングル〉を左の魔弾に向かって繰り出す。3回の連撃はすべてあたり、魔弾は威力を無くして消えた。
左右の攻撃を対処した俺は、正面の攻撃も受けきり、ケルベロスの魔力は底を尽きた。
「アリア、尽きたぞ」
おそらく上空で見守っているアリアに対して俺は一言合図を送った。
魔族と、人族やエルフ、ドワーフには魔法の使い方に関してかなり明確な違いがある。魔族は自然にあふれる周囲のエネルギーから魔力を吸い取り自身のものにする。そのため、魔族が多く住む場所では緑豊かな自然は存在しない。一方、人族やエルフ、ドワーフは自身の魔力で自然エネルギーに命令を与え、魔法を発動させる。そのため、例え魔法を使っても自然が無くなることは無い。
自然から魔力を吸い取るケルベロスは、核を開き周囲のエネルギーを吸い取ろうとする。
俺の合図が聞こえたのか、上空からアリアが素早く現れ、核があるケルベロスの右頭で止まった。
アリアは、杖をケルベロスに向け呪文を唱えた。
「アスクタール(閉じるな)」
さらに続けて、アリスは杖を頭の上で大きく一周させ、ケルベロスに向けた。
その瞬間、周囲の自然エネルギーが一気にケルベロスの核へ向かった。アリスの魔法で一定時間閉じることが出来なくなった核は大量の魔力を取り込む。
一瞬で大量の魔力を取り込んだケルベロスの核は、オーバーフローし限界を超えた。核は、全身に魔力を送る機能を失いケルベロスはその場で倒れた。
「やりましたねハル!」
空中から降り、アリアは笑顔で俺のもとまでかけてきた。
「で、核だけ壊して倒すことは成功したけど、こいつどうやって調理するんだ?」
「それは、私に任せてください」
アリアは自信ありげに、ケルベロスに近づこうとする。
俺は、アリアが着ているローブのフードをつかみ制止する。
「ケルベロスを食べることには承諾したが、アリアに調理を任せるとは言っていない!」
「な、何でですか、きっと私はうまくできますよ!」
魔法の腕は確かだが、アリアは結構ポンコツだ。
「だめだ、俺が調理する」
「あのぅ、私が調理するので、少し肉を分けてくれませんか?」
突然木の陰から、か細い声がした。
「誰だ」
俺とアリアは、声がした木の方を覗いた。
そこには、白い肌に銀の髪、人族より少し長い耳を持ったエルフ族の少女がいた。
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