第49話『決勝戦』
午前10時半。
スタジアム上空に浮遊するメインモニターには既に、その後11時から開始予定である決勝の対戦カードが表示されている。その周囲のサブモニターには、先程終了した第一・第二試合のダイジェスト映像が流れていた。
『天堂蒼』VS『諸星敦士』
初撃の『斬界』を回避した諸星が格闘主体の近接戦に持ち込むが、超至近距離から再び発動した斬界によって一瞬の隙を突いた蒼が接戦を制する。
『黒乃雪華』VS『神宮寺奏』
氷属性の防御を打ち破る程の攻撃能力を見せる奏だったが、闇属性の手刀によるカウンターが炸裂。範囲術式を警戒していた彼女の意表を突く
二つの準決勝が決着し、残る決勝戦を前に多くの生徒達が第一
「いやー、やっぱ最後はこの二人か〜。まァ予想通りと言うか、順当に行った感じだね」
「当然でしょう」
観覧席には既に、雪華を除くニ、三年の生徒会メンバーが揃っていた。千聖の脱力気味の声にハルが応えていたその時、二年の風紀委員三人組も合流する。
「お疲れっス、奏さん」
「惜しかったなァ〜。結構僅差やったんとちゃうけ?」
「いや……完敗だったな。課題の見つかる一戦だった。私もまだまだだ」
湊と亜門に対してストイックな言葉を返す奏の隣で、未来はその一帯の中心部に座る少女へと問い掛けた。
「――――天音ちゃんの予想は?」
「…………難しいですね。どちらの実力も、よく分かっているので……」
「ま、天堂さんだろ。普通に考えて」
天音の返答に続けて湊が口にした予想に、ハルが鋭い視線を向ける。
「おー怖……でもあの人が優勝候補ってのはもう揺るがねェ事実だろ。ねェ白幡さん?」
「んー、まァやっぱ大本命ではあるよね」
睨まれつつも飄々と意見する湊に、頬杖を突きながら同意する千聖。その傍らでは士門と亜門が、朝食を貪り食いながら議論している。
「逆に蒼クンが敗けるとかあると思うか?」
「無いな、100%。もし敗けたら全裸逆立ちで校内一周したってもエエわ」
「ハッハーこいつ言いよった!!皆さん今の聞きましたァ!?」
「まーじか亜門
「二言は無いな?自分の発言には責任を持てよ」
「いやちょお待って流石に恐なって来たって!!頼む蒼クン勝ってくれ!!」
「バカだろコイツ……」
「死ねばいい」
悪乗りするような笑みと共に千聖と奏からも嗾けられ、試合前から必死の形相で声援を送る亜門の姿に湊やハルは呆れていた。
「つか天音っち、伊織はどこ行ったの?あいつ気付いたらいなくなってっけど」
「さっきジャクソンさんに連れて行かれてましたよ。多分、天堂先輩の応援だと思います」
◇◇◇
「…………目に焼き付けるぞ。今日、伝説が誕生する瞬間をな」
「アンタだけ熱量おかしくないっスか……」
観覧席から真剣な表情で力強く語るスティーブに、隣に座る伊織は軽く気圧されながらもフィールドを見下ろしていた。
「つーかそう言や……スティーブさんって、武者修行の為にこの国に来たんですよね?」
「そうだが……それがどうした」
その時ふと伊織が、留学生であるスティーブへと一つ疑問を投げ掛ける。
「元々あの人に弟子入りするつもりだったんスか?」
「いや……向こうに居た頃から名前は聞いていたが、あの人の下で学ぶ事を決めたのは一度剣を交えてからだ」
剣士として戦いを挑み、敗れた事で蒼に師事する事を決めたと明かすスティーブ。
「やっぱ海外でも有名なんスね、あの人。……つってもまァ、アンタの実家の知名度も大概だとは思いますけど」
「……それは俺の実力への当て付けか?」
「なワケ無いでしょ。謙遜のつもりなら寧ろ嫌味っスよソレ」
海外の魔術界にまで名を知られている自分達の師の実力と影響力に改めて驚きつつも、伊織はスティーブの生家について言及した。
米国最強と目される魔術旧家の一角、『ジャクソン家』。
北米魔術界の中核を担う『クリストファー・ジャクソン』はその現当主であり、彼を父に持つスティーブ自身もまたアメリカ合衆国で名の通った魔術師だった。
そして現行魔術師協会の創設メンバーの一人にして祖父である『オーウェン・ジャクソン』と、自らが師と仰ぐ男が同じ『剣聖』の異名を持つ事に、スティーブは謎めいた奇縁を感じていた。
「とにかく……俺達は、師匠の勝利を見届ければ良いだけだ」
◇◇◇
協会拠点ビル内にて。
「……しっかしバレねェモンだな……」
「まーね。一応これでも、東帝では一番幻術に長けてるって自負してるからさァ。そんじょそこらの人間には見破られないと思うよ」
エレベーターで下層階へと降下しながら、日向が零した感心するような声にアランが自信有り気に応える。鏡張りの内壁に映っていたのは、彼女の幻術によって黒スーツの職員へと『変身』していた五人の姿だった。
「それじゃ、みんな……降りたら打ち合わせ通りにヨロシクね」
「了解っス」
「おう」
「分かりました……!」
アランへ頷き返すのは、啓治・創来・沙霧の三人。潜入中の五人は他の職員に怪しまれる事を避ける為、エレベーターを降りた後に一度二手に別れる事になっていた。日向・アランと啓治ら三人はそれぞれ異なるルートから目的の場所へと向かい、入室直前に合流する手筈となっている。
「――――それと、もう一つみんなに言っときたいコトがあってね」
そして、アランが不意に発した言葉に四人が振り返る。
「多分なんだけど……いや、ほぼ確実に。仮に凪がホントに結社と繋がってたとしても――――最低もう一人は内通者がいる。もし凪がシロなら、二人だね」
彼女が示唆したのは、未だ姿を見せない更なる『敵』の存在。最早否定する事の出来ないその事実が、この状況の危険性を彼等に突き付ける。
「こっからはマジで、何が起こるか分からない。……本当にヤバくなった時は、迷わず自分の身を守る事だけを最優先に考えて動いてほしい。OK?」
アランの警告に日向達は、緊張の見える面持ちで頷いた。それとほぼ同時に五人を乗せたエレベーターが、目的のフロアへと到着する。
「んじゃ……行こうか。また後でね」
◇◇◇
『さあ遂にやって来ました……長いようで短かったと感じる方もいるかもしれません、東帝戦も今日この戦いを以て
「今日のは流石に賭けにならねェな……オッズが完全に寄っちまってら」
そんな独り言を吐きつつ、鬼丸は退屈そうに紙幣を数えていた。
スタジアムから配信されている実況中継を、スラムで流し聞きしている大文字一派の面々。諸星が出場していた第一試合は応援していたが、蒼と雪華の戦いは消化試合のような態度でほぼ興味を示していなかった。
「そうかな……?僕はこの勝負、中々面白くなると思うけど」
「あ?オマエまた女贔屓か」
しかし愛染が零した言葉に、露骨に不愉快そうな表情で壬生が反応する。
「そういうワケじゃないけどさ……ココのNo.2とNo.3を倒した人同士の戦いだよ?少なくとも僕は興味があるね」
◇◇◇
バトルフィールドへと足を踏み入れた雪華。こちらに背を向け彼女を待ち構えていたのは、正真正銘の『最強』の座へ至らんとする
「――――来たな」
「……意外だった?」
「いや?お前か徹彦のどっちかだろうとは思ってたよ」
そんな言葉を交わしながら振り返った蒼の顔には、普段通りの飄々とした不敵な笑みが浮かんでいた。
「貴方との力の差は……自分が一番よく解ってる。
――――胸を借りるつもりで行くわよ」
雪華はそう告げると共に、双つの属性魔力を同時展開する。
片足を大腿部まで覆う『氷』の装甲と、背中から大きく広がる『闇』の単翼。己の身体に術式を纏う雪華に対し、蒼は刀の峰で肩を叩きつつ口を開く。
「相変わらずだな。いい加減、過小評価はやめたらどうだ?言っとくが……俺はお前を格下と思った事は無ェよ」
そして、双方から同時に放たれた魔力斬撃が激突した。
◇◇◇
◇◇◇
「――――なァ、アランさん。……一つ、訊きてェコトあんだけどさ」
廊下を進んでいた日向は、前を向いたまま後方のアランに対し声を上げる。
「…………俺達さ、前にどっかで会った事無ェか?」
返答は無い。
何故か沈黙したままの彼女に対し、違和感を覚えた日向は振り返った。
「……アランさ――――!?」
そこに在ったのは――――倒れ伏していたアランの姿。瞠目しながらも日向は即座に状況を理解し、彼女の下へと駆け寄って行く。
しかしその瞬間、突如として。
視界は閉ざされ、意識は暗転した。
◇◇◇
「ん……?何だ……?」
メーターの不規則な微振動。
魔術都市全体を覆う巨大結界を管理している、管制制御施設にて。オペレーターの男性は、計器が一瞬観測した奇妙な数値に眉を顰める。
故障もしくは誤作動が起こっていないのであればそれは、
そんな筈は無い。疲労から起きた、只の見間違いだろう。
そう考えたオペレーターが、再度計器に目を向けた次の瞬間。
メーターが一気に
◇◇◇
「……ッ――――!!」
最初に異変に気付いたのは、広大な索敵範囲の魔力知覚を有する蒼だった。
急速に接近する巨大な敵意、そして殺意を本能的に察知する。次第に大きくなって行く、空を斬り裂くような異音に天を見上げた。その瞬間に――――
――――学園上空の結界に、極大爆発を伴った『業火』が激突した。
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