第32話『絶対防御術式』

俺達一年は二つに分かれたな……」


 スタジアム上空の浮遊モニターに映し出されたトーナメント表を、観覧席から創来が見上げている。


 開示された本戦の対戦カード組み合わせは、A〜Dの4ブロックに分かれていた。


 Aブロック

 天堂蒼(第1シード)

 スティーブ・ジャクソン

 風切アラン

 九重絵恋

 ……


 Bブロック

 如月亜門(大文字不在により繰り上げ、第4→第3シード)

 結城結弦

 諸星敦士

 古田徹彦

 春川日向

 御剣伊織

 ……


 Cブロック

 神宮寺奏

 如月士門

 皇啓治

 漆間創来

 ……


 Dブロック

 黒乃雪華(第2シード)

 蛇島司

 湊紅輔

 一条ハル

 ……


 日向・伊織と啓治・創来は同ブロックに割り振られており、決勝まで勝ち進むとしてもこの内二人は敗退する事になる。


「フン。どの道どっかで当たるんだ。早かろうが遅かろうが、テメェに敗ける気は無ェぞ」

「あァ、望む所だ」


 淡々とした口調でそう言い放つ啓治に、不敵に頷き返す創来。その一方で伊織は、眼下のバトルフィールドを注視している。三人の後ろの席には天音や沙霧・凪・陣も揃っており、トーナメント本戦の開始を待っていた。




 モニターに表示されているカードは、


『春川 日向』VS『古田 徹彦』。


 今朝の再開式にて、注目を集めていたあの少年。蒼が認める程の実力者と思しき"彼"が、日向の対戦相手だった。




「うわ、初っ端から徹兄ぃとか……運悪いね、日向あいつ

「凪ちゃんはあの人とも知り合いなの?」


 凪と徹彦の関係について沙霧が尋ねるが、それに応えたのは彼女達の背後に現れた新たな少女。


「おやー?沙霧ちゃん、アタシらのルーツに興味がおありなのかね?」

「風切先輩!」


 姿を見せたのは、二年の観覧エリアからこちらへやって来ていた風切 アランだった。


「丁度いーや。説明したげて、アラン姉ぇ」

「あーたホントすぐメンドくさがるんだから……」

「あ、ココどうぞ」

「お、サンキュー」


 前方の席に移った陣に場所を譲られ、凪の隣に腰を下ろすアラン。




「さーてよっこらせっと…………で、何だっけ。あたしらとテツ君の付き合いだっけ」

「うん」

「もう結構長いよね。10年くらいかな?」

「うん。そんくらい」


 そして語られ始める、凪とアランと徹彦の過去。






「――――あたしらねー、ガキの頃から研究所に入れられてたんだよね」

「……研究所、ですか……」

「うん。テツ君とか凪とも、そこで初めて会ったの。




 まァ、みんなどっかから誘拐されて来たコだったんだけどね」


「「「!?」」」


 沙霧との会話の中で何気なく溢れたその言葉に、傍らで聞いていた伊織や天音達が目を見開いた。


「なーんかソコが結構ヤバいトコでねー……拉致して来た子供に、『身体に魔術を埋め込む実験』とかをやってたの」

「…………なら……」

「うん、"そう"だよ。あたしの『隠密ステルス』も」


 アランから衝撃的な事実が明かされる中、振り返った伊織が口にしようとした推測を凪が肯定する。――――彼女が持つ『特殊魔術アビリティマジック』は、後天的に与えられた物だった。




「で、まァそれから色々あって……7年くらい前かな。恭夜さん達に助けてもらってさ。何とか脱出出来たってワケ」

「龍臣さんとか王我さんもいたね……」

「!!…………聞いた事があるわ。協会の各国支部が、合同で決行した救出作戦」


 思い起こすようにそう語るアランと凪に、その事件について知っていた天音が反応する。


 当時から既にS級だった恭夜や王我に加え、戦国龍臣などA級トップの魔術師なども数多く動員された突入作戦。激しい戦闘の末に、研究所から多くの『術式移植』被験者を救出・保護したと天音は聞き知っていた。




 壮絶な経験を平然と話し終えたアランだったが、その時創来がふと生じた疑問を口にする。


「……アンタはどんな術式を持ってるんだ?」

「オイ馬鹿テメェ……!」


 少し不遠慮とも取れるその問い掛けを啓治が咎めるが、アランは気に留めた様子も無く声を返した。


「あーいいよいいよ、気にしないから。まァそれは……キミの目で直接確かめなよ、漆間創来クン?」




 そしてアランの言葉の後、スタジアムに歓声が響き渡る。




 観衆の視線の先の、スタジアム中央フィールド。双方の入場ゲートから、両者が足を踏み入れる。学園内でも話題の二人による、注目の一戦が始まろうとしていた。




「……じゃあ、あの人古田さんの能力は何なんです?」


 そんな中、伊織から投げ掛けられた一つの問い。


「あー気になる?まァ、教える分には全然構わないよ。……だって、

「……?」


 アランの含みのある物言いに、伊織だけでなく創来や陣も訝し気な表情を見せる。




「テツ君の能力は――――」




 ◇◇◇




 相対する、二人の対戦者。


「……お前、結構強ェんだろ?」

「いや……別に、そこまでだよ。亜門とか士門に比べたら、全然大した事無い」

「いいや嘘だね。蒼に執着されてんのに、弱ェ奴のハズはねェ」


 買い被りだと返答する徹彦だったが、そんな筈は無いと日向は断ずる。




 緊張、高揚、闘争心。それら無意識な感情の揺らぎすら、戦闘を目前にしても一切見て取れない。静かな挙動と瞳の裏に隠された、"戦いへの慣れ"。この少年は明らかに、日向自身よりも場数を踏んで来ている。




 その実力を察知し警戒する日向だったが、徹彦から告げられたのはある一つの"提案"だった。


「参ったな……まァ、そんなに気になるなら……一発俺のコト、ブン殴ってみなよ。本気で」

「…………はァ……?」

「ソレで、俺の能力は大体分かると思うよ」


 突拍子も無い言葉に唖然とする日向だったが、至って徹彦は平然としており巫山戯ているようには見えない。




「何だお前……流石にナメすぎだろ」

「いや、そういうワケじゃなくてさ。勘違いさせたくないんだ。俺は別に……強くは無いんだよ」

「…………意味分かんねェよ。何の謙遜だ……!?」


 あくまで真剣というスタンスの徹彦に、いい加減痺れを切らし始めた日向が僅かに苛立ちを見せつつ拳を鳴らす。




 そして、戦闘開始の合図が鳴った。


「そこまで言うなら遠慮はしねェぞ……望み通り一発ブチ込んでやるよ……!!」


 そう言って突撃を仕掛ける日向に対し、徹彦は自然体の構えを崩さない。繰り出されるのは、日向が持ち得る最強の一撃。


 火属性攻撃術式


『爆皇破』


 爆炎を圧縮された剛拳が、凄まじい速度で徹彦の腹部へと叩き込まれた。




 手応えは確かにあった。


 にも関わらず、拳に残る異質な違和感。何故かその感覚と共に、かつて完全敗北を喫した紅蓮との戦いが脳裏を過る。




「……成程。騒がれる理由も解る。……相当な威力だ」

「…………何……!?」


 日向の爆皇破は、確かに徹彦の身体を捉えていた。




 しかし。


 あの時と同様に――――その身体は吹き飛ぶ所か、一歩たりとも動いていなかった。




 ◇◇◇




『術式移植手術』を施された徹彦の全身には、ある魔術が常時展開されている。それは端的に言えば、体表全てを覆う『障壁』だった。


 しかし。


 その障壁は如何なる攻撃を以てしても、


 そして傷一つ付かない驚異的な硬度のみならず、身体内部へ一切ダメージを通さない異常なまでの防護性能も備えていた。




 法則をも歪めるかの如きその術式は、便宜上こう呼称されている。



 ――――『絶対防御術式』。




 ◇◇◇




「何だソレ……そんなモン、"無敵"じゃねェかよ……!?」

「それに……そんな魔術、聞いた事が無いです……!!」


 アランによって明かされた、ことわりすらも凌駕する埒外の能力チカラ。創来はそう唸る事しか出来なかったが、天音は納得がいかないといった様子で疑念の声を上げる。


 世界最硬の防御魔術と認定されている『神盾イージス』でさえ、米国研究機関が行った耐久実験の末に『破壊可能』という検証結果が報告されていた。




「んー、まァそうだね……何なんだろうねアレ。ぶっちゃけテツ君も、あの能力のコトよく分かんないらしいしね」


 最早魔術の範疇を超えつつあるその異能については、術式を付与された当人にも未知の部分があるらしい。




「ちょっと待て。……そこまで強ェなら逆に、何で十席に入ってねェんだ?」


 そこまでの実力を有しているなら、亜門やスティーブと同様に十席入りしていても何らおかしくはない。そんな伊織の指摘に、凪から返されたのは意外な回答だった。




「そりゃアレだよ。徹兄ぃはソレ以外の魔術からっきしだから。強化ブーストもヘッタクソだし、形成モールドなんかほとんどダメだからね」




 ◇◇◇



 日向の渾身の一撃をまともに受けながら、後退すらしていない徹彦。観覧席にてその戦いを見下ろしていた蒼に、こちらへ歩いて来ていた人物が背後から声を掛ける。


「規格外の矛と張り合えんのは、規格外の盾だけっつーコトか」

「そういうコトだ。面白ェモン戦い見せてやっから、楽しみに待っとけよ」


 期待させるようにそう言い放つ蒼に、結城 結弦は呆れるように小さく笑っていた。


 全てを斬り裂く術式に対抗し得るのは、全てを防ぐ術式のみ。この学園で唯一蒼と互角に渡り合える可能性を秘めた徹彦に、結弦は同情するような視線を向けていた。




「所で……お前はいつになったら本気出すんだ?」

「…………どういう意味だ?」


 その時蒼が口にした問いに、結弦が僅かに眉を顰める。


「黒乃も獅堂も、お前の能力とは相性最悪だと思うんだけどなァ」

「お前な……それこそよっぽど買い被りだ」


 学園"5位"の彼の実力に、疑問の声を上げる蒼。雪華や獅堂にも匹敵すると目される、その能力について言及されながらも結弦は軽く聞き流す。


 しかし蒼の隣のスティーブは、依然として油断の無い視線を向けていた。




 一方で日向と徹彦の戦いは、更なる白熱の一路を辿る。




 ◇◇◇




 微動だにせず爆皇破を止めた徹彦に対し、大きく飛び退り距離を取る日向。しかし後方に跳ぶと同時に、右脚を振り抜き攻撃魔術を発動させる。


 火属性攻撃術式『戟衝破』


 回避と並行させながら一撃を放つが、徹彦の余裕が崩される事は無い。


「……無駄だよ」


 徹彦が翳した掌は、炎のレーザーを断絶させるように防ぎ止め、弾き散らす。


(どうなってんだ……!?)


 魔術の威力・衝撃を完全に殺し切るかのような、尋常では無い防御能力。肉体の硬度・耐久性を上昇させる強化術式かと思われたが、それだけでは説明がつかない違和感を日向は数秒前に感じていた。


 爆皇破を真っ向から叩き込んだにも関わらず、微動だにしていなかった徹彦の身体。まるで、


 そもそも本当に徹彦が使っているのは魔術なのかという、大前提を揺るがすような疑念まで頭を過り始める。




「……色々考えてるみたいだね」

「そりゃそうだろ……なんだそのワケ分かんねェ硬さは……」

「そう、ソレだよ」

「は?」


 能力を推察しようとしていた日向に、徹彦は軽く同意するように指を差した。




「俺、全身に解除出来ない『障壁バリア』の魔術が掛けられてるんだ。ただの硬い皮膚みてーなモンなんだよ。……単純だし、別に強くもなさそうだろ?」


 唐突に明かされた、徹彦の能力の正体。しかしその性能は、只の防御魔術と呼ぶには余りに桁外れ過ぎる。




「何だと……?いや、つーかそうだとしても……!!」


 再度突進した日向は、またしても爆炎を纏った拳を繰り出した。今度は頭部――――額を狙い、叩き飛ばすような一撃を炸裂させる。


(ッ……石でも殴ってるみてェな感覚だ……!!)


 しかしやはり、徹彦はその鉄拳を完全に受け止めながら1ミリたりとも動いていない。


「吹っ飛びすらしねェってのはどういうコトだ……!?」

「あー、ソレはね……副次性能オプションみたいなモンだよ。だ」




 徹彦が口にしたのは、『絶対防御術式』の能力法則。


 体表に常時展開されている"魔力の鎧"が、フルオートで攻性ダメージを遮断する『障壁装甲ファースト』。

 そして全身の動作を停止する事で、攻撃威力だけでなく慣性をも遮断しその場から動かす事すら出来なくする『座標固定セカンド』。


 この二つの能力性能ギアを自在に切り替える事で、徹彦はあらゆる攻撃の無効化を可能にしていた。


 順位では測り切れない実力を持った、超一点特化型の魔術師。その能力は、圧倒的な攻撃力を誇る蒼の『天敵』とも呼べる。




「そういうコトかよ……そりゃ蒼に狙われるワケだ……」

「あー、ソレに関してはマジで困ってる。あの人もうバトルジャンキーに片足突っ込んでるよな?」


 腑に落ちたと告げて来る日向に、自身を取り巻く厄介な現状を語る徹彦。


 ――――彼はこの学園に於いて、No.1天堂 蒼に最も近い位置にいる魔術師だった。




「まァ……俺には知ったこっちゃねェけどな……!!」


 そう言い放ちながら日向が撃ち出すのは、魔力で形成された火炎の斬輪。


 火属性攻撃術式『大輪破』


 撃ち放たれた炎輪は、徹彦の足元へと叩き込まれバトルフィールドのフロアを斬り砕く。


「クッ……!!」


 足場を崩された徹彦の体勢が僅かに揺らぐが、日向はその瞬間を逃さない。


(止まってなければ、――――!!)


 座標固定セカンドの発動条件は、『身体動作の完全停止』。即ち少しでも徹彦の身体が動いている間、彼はセカンドを使えない。バランスを崩した徹彦へと、日向が追撃の魔術を炸裂させる。




 火属性攻撃術式『豪嵐破』


 足元から突き上げるように現れた爆炎の竜巻が、徹彦を上空へと吹き飛ばした。


 そして日向もまた彼を追うように、豪嵐破によって生じた上昇気流に乗って飛び上がる。それは天音がタッグロワイヤルで見せていた、『気流飛行』の模倣だった。


「くッ……成程、考えたな……!!」

空中ココでなら、存分にフッ飛ばせる……!!」


 咄嗟にファーストで防御していたものの、体勢を安定させる事が出来ない空中に引き摺り出された徹彦。一方で日向が思い起こしていたのは、恭夜から授けられた魔術戦闘の"極意"について。






 ――――昨夜。


『まず一つ目は、如何にだ』


 日向と創来は属性魔術で周囲の環境に影響を及ぼし、伊織と啓治は近接戦闘の間合いを保ち続ける事。それが恭夜が四人に伝えた、一つ目の戦術理論だった。


『戦術ってのは強力であればある程、自分以外の状況的要素に依存してる』


 だからこそ相手に不利であり、尚且つ自身が100%の力を発揮出来るフィールドを作り出せるかが勝敗を分ける。






 バトルフィールドの遥か上空にて対峙する両者。空中戦の火蓋を切ったのは、日向が撃ち放った三連続のレーザーだった。


 火属性攻撃術式


『戟衝破・参連』


 手掌操作で撃ち出した三本の熱線が収束しつつ迫り来るが、徹彦は両の掌で掴み潰すように迎え撃つ。激しく光炎が乱反射する中、日向は魔力放出によって一気に距離を詰め肉薄した。


 炎を纏った拳と蹴りの連撃。『炎撃』による日向の猛攻を、徹彦は物ともせずに全て防ぎ切る。


 しかし激しい戦闘が展開されながらも、気流は徐々に上昇力を失い二人の身体は落下し始めていた。『絶対防御術式』がある徹彦とは違い、日向はこの高さから地表に叩き付けられれば恐らく只では済まない。


 そして徹彦が再びセカンドを使える状況になれば、間違いなく戦術に適応し対策を講じて来るだろう。そうなると彼をもう一度この空中という領域フィールドに引き込む事は、限り無く不可能に近くなる。


 ならば、徹彦が地上に降り立つ前に倒す仕留めるしか日向に勝機は無い。




 火属性攻撃術式


『双烈破』


 繰り出される、炎拳の双撃。しかし日向が見出した"勝利条件"を、徹彦は既に看破していた。


「あと何秒か凌げば、俺の勝ちだ」


 そう言って交差させた両腕で双烈破を防いだ徹彦は、空中で日向の胸倉と首筋を掴み取る。


「クッソ……!!」


 拘束から逃れようと連撃を叩き込むが、徹彦の力が緩む気配は一向に無い。その間にも落下速度は上がり続けており、地表まで残り僅かの距離まで近付いて来ていた。




「――――終わりだ」

「フザっ、けんなッ……!!」


 加速と共に激突が迫る中、日向は全身に魔力を纏わせ一か八かで防御魔術を構築する。




 ――――そして。




 バトルフィールドに、轟音が響き渡った。




 ◇◇◇




「オイオイ生きてんのかよアイツ……!?」

「ヤベエだろアレは……大丈夫か……!!」


 フィールドの遥か上空から、地表へ衝突した日向と徹彦。


 観覧席まで届いて来るかのような、凄まじい衝撃に啓治と創来が瞠目していた。隣では天音や沙霧も、固唾を飲んで戦局を注視している。




 ◇◇◇




「ウワ、容赦ないね〜徹彦」

「春川もよくやった方だろうが……如何せん相手が悪かったな……」


 一方で三年の観戦エリアからも、『生徒会連合』の三年生四人がバトルフィールドを見下ろしていた。千聖と奏は既に決着はついたと見做していたが、未来は未だ興味深そうに戦場を静観している。


「……雪華ちゃんは、どっちが勝つと思う?」

「…………そうね……」


 勝敗を問う未来の言葉に応えようと、雪華が口を開いた。




 その時、フィールドを覆うように立ち込めていた煙が晴れていく。そしてそこに立っていたのは――――




 ◇◇◇




「フー…………」


 一つ息を吐きながら姿を見せたのは、やはり『絶対防御』の力を持つ徹彦だった。


 地上数十メートルから墜落しながらも、平然とした様子で首を回している徹彦。その足元では、後頭部から地表に激突した日向が倒れ伏していた。しかし――――




「……オイ……待てコラ……!!」

「まだ立てんのか……キミも相当頑丈だね」


 背後から声を掛けられた徹彦が、軽い驚きと共に振り返る。その視線の先では、頭部から夥しい量の血を流しつつも日向が立ち上がっていた。




 しかし辛うじて意識は保っているものの、その身体は満身創痍。恐らく今の日向は、自分の攻撃の衝撃にすら耐えられないだろう。


「悪いけど……今のキミには何発喰らっても敗ける気はしないよ」


 その身体状態を見抜いた徹彦はそう忠告するが、日向の眼からはまだ戦意は消えていない。




「ソレは……お前が決めるコトじゃねェ……」

「…………確かにね」


 不敵に笑う彼の言葉に呼応するように、徹彦もまた全身へ魔力を集めていく。収束していく爆炎は、日向の右腕を煌々と輝かせていた。


 ――――恐らく、これが最後の交錯。


 全身から放出された炎の圧力が、駆け出した日向の身体を更に加速させていく。




 火属性攻撃術式


『爆皇破』


 絶対防御術式


座標固定セカンド




 叩き込まれた死力の一撃と共に、再び戦場に爆音が轟いた。



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