第31話『十席集結』
7月17日、『東帝戦』2日目。
「へ〜、じゃあ天音ちゃんは今日からは出ないんだね」
「はい。課題も見つかりましたし、自分の実力は十分試せたので……」
並んで
「所で……私達、何の為に呼び出されたんですかね?」
「んー……まあそれは、面子を見たら大体分かるんじゃない?」
天音からの問いをはぐらかした未来は、魔力認証の自動ドアを通りスタジアムの『VIPルーム』へと入室していく。
「失礼しまーす」
「……失礼します」
彼女に続き天音もその部屋へと足を踏み入れると、そこには既に六人の人物が集まっていた。
この魔術学園に属する学生達の中でも、
「おー、天音チャンも来たんやな。一年からトップ10入りとは中々やるやんけ。オレと蒼クンくらいとちゃう?こん中で一年から入っとったの」
「そうだな。昨日は結構楽しかったぜ?お前ら
東帝十席"第四席"、如月 亜門。
同"首席"、天堂 蒼。
日向や伊織、天音との戦いを振り返っていた蒼の背後には、"第六席"スティーブ・ジャクソンも控えている。
「
「フフ、藤堂さんは私と一緒に訓練したんだもの。当然と言えば当然じゃない?」
「沙霧ちゃんも頑張ってたみたいだしね〜」
"第七席"、神宮寺 奏。
"次席"、黒乃 雪華。
"第九席"の綾坂 未来は寄り掛かるように雪華に抱きついていたが、一方部屋の片隅には静かに文庫のページをめくっている"第八席"諸星 敦士の姿もあった。
「あ、そういや敦士。獅堂っていつ退院すんだ?」
「アイツはまだ目も覚ましてない。だが……どうやら傷は癒えてるらしいがな」
「あっそう。じゃあ意識さえ戻ればその内脱走して来るか」
「ホンマタフやな〜獅堂クン」
入院中の"第三席"大文字 獅堂の容態について蒼が尋ねるが、諸星はさしたる心配の様子も見せず淡々と返答する。そのドライさに蒼と亜門が笑いを漏らす中、天音は"最後の一人"がまだ見えない事に気付いた。
「あの……あと一人は……?」
「あァ、もうそろそろ来るだろう」
奏がそう言って入口を指し示すのとほぼ同時に、再び自動ドアが開く。
「おはよーーっす。お、やっぱ俺が最後か」
新たに姿を見せたのは、これと言った特徴も無い黒髪の少年。
「来たか結弦!お前、
「あァ、
「ホンマかいな。そら楽しみやなァ」
しかし彼の登場に、蒼や亜門などは嬉々として声を掛けている。天音は眼前のこの人物が、学園最強格の彼等からも一目置かれている実力者である事を感じ取っていた。
「……ん?見ねェ顔だな。……ひょっとして、一年か?」
「っ……はい。藤堂天音です。宜しくお願いします」
その時少年は、雪華達の側にいた面識の無い少女の存在に気付く。天音は緊張した面持ちで真面目な挨拶を返すが、堅苦しい空気を解すように少年は笑った。
「畏まんなくていいよ。結城だ、よろしくな」
東帝十席"第五席"、結城 結弦。
――――彼こそが、東帝学園の最上位集団に名を連ねる最後の一人だった。
そして全員の集合を見計らったかのようにモニターが起動すると、冴羽の姿がホログラム画面で映し出された。
『全員揃ったみたいね。準備出来たら、ステージに裏まで来なさい。それと一人ずつコメントもしてもらうから、考えとくように』
「ウース、了解」
「ほなボクらもボチボチ行こか」
「え、コメント……!?」
蒼や亜門達は揃って移動し始めるが、一人だけ状況が飲み込めない天音の声に冴羽が応える。
『何驚いてんのよ。
「それは……そうですが……」
『面前に立つ
◇◇◇
「あっぶねェ、間に合ったか!」
「誰のせいだと思ってんだ……!毎朝毎朝世話かけやがってこのアホが……!!」
再開式の開始直前に、息を切らしながら会場に到着した日向と伊織。例の如くギリギリまで爆睡していた日向を、何とか伊織が叩き起こしここまで蹴り転がして来たのだった。
既に啓治や創来ら出場組だけでなく、本戦不参加ではあるものの沙霧・陣・凪の三人も揃っている。
「……お前らは毎回ギリギリを攻めねェと気が済まねェのか?」
「もうおなじみの光景になって来たなァ、遅刻寸前のキミら二人」
「まー確かに、伊織の怒鳴り声聞いてやっと1日始まるよォな気がするよなっフ」
啓治が呆れ陣が笑う中能天気に身体を伸ばしていた日向だったが、伊織の渾身の鉄拳に顔面を殴り抜かれ撃沈していた。鼻は内側へとメリ込み完全に陥没している。
「朝っぱらから賑やかやなァ。生きとるか?日向クン」
「如月さん!おはようございます」
その時やって来た新たな人物の声に、真っ先に啓治が反応した。彼が修行へ赴いていた『風紀委員会』の主戦力、如月 士門と湊 紅輔。そして二人の隣には、同じ二年生の一条 ハルと九重 絵恋の姿もあった。
「よォ御剣。今日は敗けねーからな。…………って、一条が言ってたぞ。いてッ、いってえ」
湊は愉快そうな笑みを隠しつつ、伊織へとそう宣言する。しかし背後に立っていたハルから、間髪入れず無言で蹴り上げられていた。
「……昨日の借りは返すわ」
「フフ、お互いベストを尽くしましょう」
「……はい。宜しくお願いします」
ハルは剣呑な視線と共にそう吐き捨てていたが、絵恋のフォローもあり流石に一応の会釈を返す伊織。
「――――おやおやーあ?前方にナーイスバディガールズはっけーん。ねらいよーし、ホールドっ」
「ひゃうっ!?」
「ふぅんっ!?」
その時。
どこからか聞こえて来た少女の声と同時に。ハルと絵恋の背後から伸びて来た二本の手によって、彼女達の胸が鷲掴みにされていた。
「風……切ッ!!」
「ノンノーン、油断してたハルがわっるーい。だーから後方注意とあれほどアタシが言ってたのにさーあ」
一瞬嬌声を漏らしたものの、すぐに意識を取り戻したハルが凄まじい勢いで回し蹴りを放つ。しかし彼女の背後にいたその少女は、軽やかな身のこなしでその蹴りを易々と躱していた。
「な?九重は勿論だけど一条も中々だろ?」
「ホンマやな」
「死ね!!」
一部始終を見物していた湊と士門がサイズ談義を始めるが、そこにハルが抜き放ったマグナムが容赦無く撃ち込まれる。わっせわっせと踊るように銃弾の雨を避ける二人。
「据え乳あったら揉まぬがぶさほーう。覚えとこうねーザ・ボーイズ?」
無責任にそう言い放つのは、スカジャンと野球帽を身に着けた浅葱色の髪の少女。
――――東帝学園二年生、
「……相変わらずだね。アラン姉ぇ」
「お?凪じゃーん♪相変わらずかわいいね〜アンタは♡」
凪に名を呼ばれたアランは、そのまま彼女に抱きつき気持ちよさそうに頬擦りしている。その親しげな呼び名から、二人は旧知の仲である事が窺えた。
「んん?キミも可愛いね〜。ひょっとして凪のお友達?」
「あっ、ハイ!空条 沙霧です。初めまして……!」
「アラン姉ぇ、沙霧にはセクハラしちゃダメだかんね。天音が飛んで来るから」
「うへへー承伏しかねるー♡まーよろしくね、沙霧ちゃん」
早速凪の隣にいた沙霧に目を付け始め、釘を刺されていたアラン。
「なァ陣、啓治はこのままで大丈夫なのか?」
「あー、もうエエんちゃう?ほたっとっても。なんか幸せそうやし」
「It's a……beautiful life……」
一方で創来からの心配を、陣が杞憂だと切り捨てる。その足元では未だに顔面が没したままの日向の横で、啓治が鼻血と譫言を垂れ流しながら五体投地していた。ハルと絵恋の嬌声の時点で、既に彼の脳容量はパンクしてしまった事は言うまでもない。
「ねェ、徹兄ぃは?」
並んで仰向けに転がっている馬鹿二人を放置し、凪がアランに訊ねたのは"もう一人"の人物の所在。
「あー、テツ君はね……」
アランが応えようとしたその時、スタジアム全体に号砲が響いた。
『始まりました東帝戦2日目!オープニングを飾るのはこの九人、学園の頂点に立つ「東帝十席」ですッ!!!!』
再開式開会と共に、東帝戦2日目の開始が宣言される。そしてステージ上には、九人の人物が姿を現していた。
アナウンスが告げるのは、学園トップの実力を誇る魔術師達の登場。
『まずはやはりこの男!最早言葉は不要、唯一無二にして不敗の「剣聖」!!"No.1"、天堂 蒼!!』
『続いて、「生徒会連合」を統べる絶対女王!!"No.2"、黒乃 雪華!!』
『学園最速の圧倒的スピードを誇る「風神」、風紀委員会の異端児!"No.4"、如月亜門!!』
『今日から東帝戦に参戦します、テレポートを操る隠れた実力者!!"No.5"、結城 結弦!!』
『天堂 蒼の右腕にして、如月亜門と同じく十席中二人のみの二年生です!!"No.6"、スティーブ・ジャクソン!!』
『風紀委員会を束ねる武闘の達人!!"No.7"、神宮寺 奏!!』
『知略と武力を併せ持った万能の術師!!"No.8"、諸星 敦士!!』
『学園最優の
『そして一年生ながら、唯一十席に選出された
『十席』の登壇に観衆達は大いに沸き立っていたが、その先頭に立っていた蒼が唐突に人混みを指差した。
「――――オイ、徹彦」
群衆の後方を指した蒼は、その中に紛れ込むように隠れていたある人物へと呼び掛ける。
「…………いい加減、お互い本気で戦り合おうぜ。俺と当たるまで、勝ち上がって来ねェと承知しねェからな」
学園最強の男が、宣戦布告を仕掛ける程の相手。一体何者なのかと、伊織や創来達も後方を振り返った。
「クソだる先輩すぎる……」
「同情するわ……テツ君」
壇上の結城はクックッと笑みを零し、アランは呆れた表情で肩を竦めている。不敵な表情でそう言い放った、蒼の視線の先にいたのは――――
「マジ勘弁して蒼さん……」
気怠げな様子でそう言い返す、覇気の無い一人の少年だった。
◇◇◇
魔術師協会日本支部内局・魔術管理局にて。
「……まさかテメーの女癖の悪さが、こんなトコで役に立つとはな」
「いやこれまでもちょくちょく役立ってたでしょうが」
廊下を歩いて行くのは、『魔術特務課』所属の本郷と柊。彼等は柊の
「真偽はともかく、その
「……ええ。大文字を刺したのは――――
――――十中八九、学園関係者で間違い無い」
◇◇◇
東京某所、ーーーにて。
「――――行くぞ」
立ち上がった紅蓮が、闇の外へと踏み出して行く。その背後には、彼に追随するように動き出す"四人"の影があった。
――――陰謀は蠢き、着実に迫りつつある。
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