第5話
国王と王妃が会議に出席していて不在の時間。二妃と三妃は温室でのんびりお茶を楽しんでいた。
「なあなあ、エリアナ。お前、
周りには気心のしれた侍女だけのせいか、思いっきり素の自分をさらけ出したイザベラは、摘んだクッキーを口に放り込んで尋ねた。
「…知ってる者達ばかりだからって、それはどうかと思うのだけど?」
同様に外面仕様を外したエリアナが、イザベラを窘める。
「構わないだろ?バレてる連中しかいないんだからさ。で、どうなんだよ?」
テーブルに肘をつき、その手に顎を乗せて聞いてくるイザベラ。
呆れながらも口に含んだ紅茶を飲み干し、エリアナは答えることにした。
「飲ませるに決まってるでしょ?
エリアナの言葉に含まれた意味を、イザベラは正確に理解した。
正直に言えば、して欲しくない。だが、エリアナが誰のためにそれをしているのかを知っているし、何故そうするのかも理解している。
そして、必要でも自分ではそれをやり通せないとも理解しているからこそ、イザベラはわざとエリアナが話そうとしない事は、詳しく聞かないようにしている。
だから、この答えに関しては、聞いても大丈夫なのだと判断した。
「早々にって、どういうことだ?」
イザベラの言葉に、エリアナは辺境の領地に着くと同時に送られてきた、報告書という名の密告書を思い出す。
「
「…は?グレイン殿と婚姻してったよな?」
書類に署名しただけの物でも、婚姻は婚姻である。
二人は出発前に、関係者の目の前で間違いなく署名した。
「寝室は別々で『白い結婚』を貫くつもりらしいわよ」
「いやいや。『白い結婚』貫いても、別の男はダメだろ…。姦通罪だ…。もしかして、避妊薬使われてる事に気づいてるのか?」
「恐らく、使われると予想しているのでしょうね。
クスリと口元に笑みを浮かべたエリアナを目にし、イザベラは肩を竦めて苦笑する。
「その分だと、薬の使用は止めるんだろ?」
「当然じゃない。わざわざ自分から首を差し出してくれるのよ?ありがたく、受け取ってあげなきゃいけないでしょ?」
「……グレイン殿には辛いこと続きだな…」
血は繋がらなくとも、我が子と共に可愛がっていた自覚のあるイザベラは、胸中複雑である。
「…まあ、そっちは大丈夫らしいわよ…」
「ん?」
「わたしもすこーし前に知ったのだけどね。グレインくんに同行した使用人の中に、子爵令嬢が一人いるそうなのよね…」
「うん…」
「…わたしね。その子のこと、同行する使用人に入れてなかったはずなのよね…」
ハアと小さく息を吐き出すエリアナに、珍しい物を見たとイザベラは目を丸くした。
「アディいわく、グレインくんが王籍を外れると知った上で彼を慕っていた子らしくてね。あの茶番に利用するには心苦しくて、外していたらしいのだけど、どうもあの
「……は?お前にバレずに?
エリアナの手腕の数々を見てきたイザベラが、エリアナを出し抜くような真似をしたアディエルの所業に驚いた。
「そりゃそうよね。わたし、エリザベス以外はほんっとーにどうでもいいもの。本当ならグレインくんだって、必要ないのよ、わたし的には…」
そうだろうな。と、イザベラは心の中で呟く。
必要とならば、エリザベスを泣かしてでも、彼女の為に自分達ですらエリアナは切り捨てるだろうから。
「だけどね。
見れば少し拗ねているような顔をしているエリアナに、イザベラはおかしくなってきた。
「なんだ、お前。もしかして、アディの方がベスを喜ばせそうなんで、妬いてるのか?」
「っ!?」
図星をつかれて真っ赤になったエリアナ。
「っ!はは…。お前のそんな顔。長い付き合いだが、初めて見たぞ」
大きな声を上げて笑い出すイザベラ。
「~~っ!三妃なのだから、そのように大声で笑うんじゃありませんわよっ!!」
恥ずかしいのか悔しいのか、それとも両方からなのか、イザベラに向かって言ってくるエリアナ。
イザベラの笑い声は、会議を終えた王妃エリザベスが現れるまで、温室中に響き渡っていたーーーー。
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