ジャンク屋
諸君らはリサイクルをどう思うだろうか?
使用済みの物を再利用し、環境に優しい取り組みだろう。恐らく、その行為自体に忌憚を抱く人間は少なく、真剣に取り組んでいる人間は殊勝だ。そもそも今は地球の資源を使い切ったディストピア時代、そういった優しい心掛けが大事なのだ。
かくいう私もリサイクルについては賛成だ。
美少女が使った物であれば有効的にリサイクルする。ペットボトルなら――するし、それが下着なら――して――するに決まっている。物も使われて嬉しい筈だろぉ!
さて、あれからナインスと共にコロニーを脱出し、今度は中立を宣言しているコロニーへと身を潜めていたのだが、そこの主流産業はジャンク屋。
戦争などで宇宙空間に散らばった部品を回収し、それを売っている。まあリサイクルのようなものだろう。
私はそこで働いていた。
え? なんだって? だから働いているのだ。
人間、働かなければ生きていけない。幾ら私が兵器で最強であったとしても、人道を踏み外さない限りは地道に働くしかないのだ。
「はぁ……生きづらい世の中ね。フリースもそう思わない?」
「無駄口を吐く時間があったら手を動かしてください。私の仕事が増えてしまいます……」
「はい……」
バイト仲間であるフリース、いや、美少女に軽くあしらわれた私は肩を落とす。
私の仕事は山のように積み重なった機械を選別すること。バイト仲間は五人ほど居たが、その中でも少女であるフリースを、私は特に気にしていた。
きちんと手入れしていないぼさぼさで毛先が跳ねている漆黒の長髪。インドア系なのか、日焼けしてない白い肌。もっちりとした頬は如何にも童顔っぽく、何処にでも売っていそうな星をモチーフにしたペンダントを身につけている。年齢は私と同じくらいだろう。
しかし、こんなに小さな女の子が、過酷な環境で労働に勤めているのは可笑しい。いくら戦争によって経済が悪化しているとしても残酷だ。
まあ、私もか弱い少女の一人なのだが……
「そういえばフリースって何歳なの? 下着はあいたた……なんでもないわ。お風呂に入ったら、まずどこから洗うのかしら?」
くっ、また紳士モードに阻害され、妥協した結果、自分でもよく分からない質問をしてしまう。
痛む心を押さえて地面に膝をついていると、フリースは冷たい視線を向けてくる。
「はぁ? 頭、大丈夫ですか?」
「うーん……いつもと同じ思考回路をしているから大丈夫だと思う……」
「つまり馬鹿ですか」
「うぐっ……」
呆れた様子で毒舌を吐いたフリースに何も言い返せない。
今までの自分の行動を振り返ってみれば敵対している女性と友達になれと迫ったり、妹が出来たり……うん、馬鹿だろう。美少女と良い関係を築けるなら一生馬鹿でもいいと思っている。
暫くして、鐘が鳴り響き、漸く仕事が終わった。
「あ、フリース! よかったら晩御飯でも一緒にどう?!」
「変態は帰ってください」
「えぇ……」
何故だ。
下心は一切出していない筈なのに、変態だと軽蔑されてしまった。非常に解せぬ。解せぬったら解せぬ……
心にぽっかりと穴が空いたような失恋の中、仮家へと帰ってきた私を出迎えたのは妹であるナインスだった。
ナインスは私がいない間に家事をしてくれて、同時に簡単な情報収集を努めてくれている。実際、私の方が暗躍に適していたが妹に力仕事はさせたくないので、ほぼ専業主婦のようなものだ。
「お姉ちゃん、おかえりなさい」
「ええ、ただいま。今日も疲れたわー」
日払いの給料をナインスへと渡し、私は椅子へと腰掛ける。
既に晩御飯は用意されており、パンとスープという質素な料理だが、ナインスが作った物だと思えば食欲をそそられる。
「はぁー今日も断られたわよ」
「フリースという少女の話?」
「ええ。あの子、人前では強がっているけれど、内心はまだまだ臆病な子供よ。私には分かる。……それで、そっちは何かあったかしら?」
「聞き込みからオーダー軍がまだ新兵器を捜索している噂は聴いた。フリューゲルは今のところ動きがない」
「そっか……」
裏切り者である私たちが追われていないのは釈然としない。
こうして働けているのも、ナインスに支給された偽装パスポートのお陰なのだが、案外直ぐにバレそうな案件だ。何だかフリューゲルに泳がされている気もする。
「フリューゲルにとって私たちは用済みなのかしら?」
「そうかも……」
スープを掬いながら相槌を打ったナインス。
そんな時、不意にラジオからニュースが流れ始めた。内容は“複数”のコロニーが襲撃され、その責任を負わされた軍からの説明であり、あの時の殺意に塗れた光景を思い出した私は俯いた。
ナインスがコロニー襲撃の一犯人だと知っているが、彼女はどう思っているのだろうか?
ナインスは一体、何を見た? そのドロドロとした沼のような瞳で、どんな辛い出来事に遭った?
自分の妹である筈なのに、恐ろしくて訊けない。もし、殺生が楽しいなんて言われたら、絶叫しながらお尻ぺんぺんの刑だ。
(というか私って据え膳だよね? ……なのにナインスは飽くまで家族と思っているらしいし、何だか調子が狂うわ……)
ナインスは純粋に私を家族だと信頼しており、それはよく態度に表れている。今だってこうして料理を作って、私に尽くしてくれているのだ。
しかし、それ故に私の美少女に対する熱いパトスは空ぶっていて、情事に走ろうと思えない。例えキスをしようとしても頬に軽く触れるだけだし、マッサージも至って健全になってしまう。
お陰様で、ナインスの前では紳士モードは大人しい。
「はぁ……フリューゲルってどういう組織なのかしら?」
「……良い記憶はない」
「ごめんなさい。辛いことを思い出させたわね」
話の種になればと思ったのだが、顔を顰めたナインスを目の当たりにして自分の軽率だったと痛感する。
「別にいい……私の任務はエインスと協力し、ユイ家の令嬢であるアゲハ・ユイの誘拐だった」
「まあそうよね。大体察してい……エインス? ユイ家?」
聞き覚えのない名前と単語に私は小首を傾げた。
「エインスはその名の通り八号機だったが敵前逃亡……ユイ家はオーダー軍で重要な役割を担う一族……かつて平和主義を訴えて覇権を握っていたが、領主が暗殺されたことにより衰退していった」
「え?」
確か、私はアゲハにユイという名前を貰えたが、そんなに大層な名前だったなんて知らなかった。
「どうした?」
「あ、いえ、なんでもないわ。それにしてもエインスはどうして敵前逃亡を……? やっぱり戦争が怖かったのかしら?」
「あの子は臆病だった」
「そう……フリューゲルは酷い組織なのね……」
戦争意欲のない人を、実験体にして、無理やり出撃させたのだろう。確証はないがフリューゲルならやりかねない。
「オーダー軍に負け続けているから……追い詰められた生き物は何をするか分からない」
「やだ怖いわ」
フリューゲルという組織はナインスに、大勢の民間人が生活するコロニーへの攻撃、アゲハの誘拐を命令するくらいには狂っているのだろう。ナインスの言う通り、追い詰められた人間は後がない分、行動が大胆になる。自分の命は二の次で、生き残るために手段を択ばないようだ。
……いや、そんなことよりも気になる事がある。
「それより! エインスっていう人物は女性なの!? それも少女!? 美が付くのかしら!?」
「え……詳しい年齢は分からないが多分少女」
「よっし! 見た目は? 髪の色は? 性格は? 身長、体重は?」
「……髪は黒色だ。あまり手入れされていない。基本的に寝不足なのか、いつも目に隈をつけていた。いつも星のペンダントを大事そうに身に着けている」
「え? それってフリースじゃ……?」
特徴を聞いて、意中の人物が脳裏に過った私はガッツポーズのまま固まってしまった。
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