ユイとの出会い
ああ、最悪だ。
結局、理性に、否、これからは紳士モードと呼ばせてもらおう。その紳士モード先輩に負けてしまい、服は敵の戦艦にあった新品であろう物を着込んでいた。
「自分の出来損ない加減に嫌気が差す……」
今は軍人たちが乗ってきた戦艦……ではなく、それに付いていた戦闘機を盗んで、宇宙を宛もなく漂っている最中。そう、宇宙だ。生身の人間では生きられない世界に、私は飛び込んでいる。
私が二年間過ごしていた土地は地球ではなく。コロニーと呼ばれる宇宙に作られた第二の地球だったらしい。具体的には言えばクアトロコロニーという四番目に作られたコロニー群の一つだ。
「どこが出来損ないだ。お前はどうみても強いだろう? フリューゲルの奴らも中々やりおる」
「……何を言っているか、さっぱりだわ」
「ほんとに記憶喪失なのか? つまり、お前は我らオーダーの転覆を狙う組織に造られた新兵器ってことだ」
「新兵器……それは違うんじゃない? だって私は目を覚ました時からあそこに居て、二年間一人で暮らしていたもの」
「二年だと!?」
縄でぐるぐる巻きにされていた彼女は声を荒げた。
因みに縄を巻くときに少しだけ胸に触れられて役得なんて思っていない。ホントだよ? 紳士モードに睨みつけられた気がしたが……
「それなら例の新兵器はこいつではないのか……いや――」
ぶつぶつと独りごちる彼女を横目に、私はフロントガラス越しに広がった闇を彷彿とさせる冷たい宇宙を見つめる。
今頃、あのコロニーで気絶していた兵士たちは目を覚まし、戦艦で脱出しているところだろうか? そうなると――
「ふふふ、追手が怖いのか? 殺せば済んだだろうに、お前は甘いな」
「甘い? 私は目的のためには手段は選ばないわ」
「目的だって? オーダーを潰すのは生半可な気持ちでは――「違うわ」
逆上する彼女を遮って、間髪入れず続けて言う。
「言った筈よ。私は貴方と友達になりたいの」
「はっ……?」
呆気に取られた彼女は実に間抜けだ。
その顔を瞳に焼きつけながら、私は彼女の拘束を解いた。
「どういうつもりだ?」
「だから友達になりたいの。別にいいでしょ?」
彼女の疑心を含んだ視線が、私に突き刺さる。が、ここで負ける訳にはいかない。下心があったとしても友達になりたいという気持ちは本物で、だからこそ優しく微笑んだ。
互いに様子を窺い合って、先に口を開いたのは彼女で無愛想に毒を吐く。
「私は訓練を積んだ軍人だ。銃を取り上げられたとしても手さえ有ればお前くらい殺せ――分かった分かった。私が悪かった」
上目遣い+涙目を披露してやると、彼女は辟易とする。こういうのに慣れていないのだろう。
「……だが友達にはならない。どうしてもと言うなら私の同志となれ!」
「同志?」
「ああ。一緒に奴ら、フリューゲルを潰すんだ!」
彼女の言っている事が理解できず、私は小首を傾げた。
もう一度言葉を反芻し、その関係が私の求めていない関係だと察し、静かに首を振った。
「何故だ! お前だってフリューゲルから酷い目に遭わされた筈だ! 私と同じように!」
「フリューゲルが何か分からないけど……私には目指すべき場所あるの」
「目指す場所? それは一体なんだ? 私と違うのか?」
「それは……」
不味い。
私の目標は此処に転生した初日に決めたことで、言い淀んでしまう。だって、その内容は『美少女に囲まれてハーレム生活を送る』という欲望に溢れた夢だ。
それを口にした暁には、彼女の私に対する好感度は地に落ちてしまうだろう。こうして紳士モードに従って、純真無垢な少女を演じているというのに……
「どうした? 早く言え」
「わ、私は……そう! 記憶を取り戻したいの!」
「記憶?」
「そうよ! 私の記憶! 色々と気になるじゃない……名前も分からないなんて色々と不便だし……」
「名前? そういえば言ってなかったな。私の名前はアゲハ・ユイだ」
「アゲハね。私の名前は……まあ好きに呼んでちょうだい」
特段変な名前じゃない限り、アゲハみたいな美少女が名付けてくれるなら何でも嬉しかった。
「それじゃあ変態露――ごほんっ! ……ユイと呼ばせてもらう」
「それって……」
「記憶がないのは不便だろう? それに免じて我がユイ家の名を貸してやる」
「そう……ありがとう」
「ふぐっ……そんな顔で微笑むな……」
普通に微笑んで礼を言っただけなのだが、やはりアゲハはこういう子供っぽい仕草が苦手らしい。
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