第21話
屋敷の門を潜って王家の馬車の前に進み出たわたくしの装いを見て、ジュリアス殿下は目を丸くした。
「これはまた――素晴らしい装いだな」
「特別な日ですもの」
わたくしは淑女の笑みを浮かべて、ジュリアス殿下にそう答えて見せる。
そう特別な日だ。だからわたくしは自分でドレスを選んだ。ジュリアス殿下の色のドレスを。
「俺の色を身に纏ってくれたのだな。いや、なんというか」
「不快でしたか?」
「いや、その——思ったよりも、喜ばしいものだと思ってな」
ジュリアス殿下はそう言うと、手の平で顔の下半分を覆い隠した。
「こんなことでにやけないでくださいませ」
「仕方ないだろう? 意中の女性が自分の色を身に纏っているのだから、男としてにやけないはずがない」
「他の雷属性の方のためかも知れませんわ」
わたくしがわざと素っ気なくして見せると、ジュリアス殿下は怒るでもなく、むしろ愉快そうに笑って見せた。
「いや、君に限ってそれはないな」
「失礼な方ね。まあ――事実ですけれど」
わたくしは怒った振りをしてふんと鼻を鳴らす。他愛のないやり取りが、やけに楽しい。浮ついた気持ちになっているのが、自分でもわかる。
なんだこれは。まるで恋する乙女ではないか。
「では、ブリジット嬢。お手に触れても?」
「ええ。特別に許しますわ」
ジュリアス殿下がわたくしの手を取った。あまりに自然過ぎる振る舞いが憎らしい。
わたくしたちは、王家の馬車に揺られて、舞踏会の会場——王城に向かうのだった。
その間、わたくしたちが言葉を交わすことはなかった。お互い緊張していたからだと思う――たぶん。
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