第106話 居合おじさんと毒攻撃
高橋くんは眉をひそめた。
「降霊術は禁忌だ。古い文献にも書いてあった。それに誰も気づいていない今の状況の方がおかしい。自分は……」
高橋くんは少し言いよどんだ。
夢を語るのに年齢はない、とヴォイドに言っておきながら、自身の思いを語るのには
「自分はゲームプロデューサーになって、降霊術などという邪悪な文化を終わらせる。それが夢だ」
忠政が眉を上げる。
「おぬしはいいやつじゃ、高橋くん」
「なんだ、藪から棒に」
「じゃが、もっと自分のために夢を持ってもいいと思うがの。おぬしはまだ生きておるのじゃから」
高橋くんは何か言いかけて、それからうつむいて少しもごもごつぶやくと、顔を上げて忠政を見た。
「お前たちに頼みがある。もう地蔵に祈るのはやめてくれ。これ以上キャラクターが消えたら、ゲームが立ち行かなくなる」
「それこそわしの本望じゃ。降霊術を用いたゲームが終了すれば、降霊術という忌まわしい文化に終止符を打つことに一歩近づくじゃろう」
「そうか。なら自分のできることはひとつ」
高橋くんが立ち上がる。
忠政は腰の刀の
「わしらの『心』を奪う気か?」
「いや」
高橋くんは座敷の入り口に向かって歩き出すと、振り返って言った。
「転職活動だ」
高橋くんがヴォイドを呼びに出て行った隙に、小次郎は忠政に尋ねた。
「兄上、考えたんだが」
「なんじゃ」
「俺たちがエルピオンの泉に行ってゲームを終了させることが、本当に正しい解なのか。降霊術を終わらせるというのは俺も賛成だ。だが、他になにかやり方があるのではないだろうか」
「おぬし、まさかこのゲームに未練があるのかの?」
忠政の言葉に小次郎は少し考え込むと、「ある」と答えた。
忠政はため息をつく。
「どいつもこいつも、優しいやつらばかりじゃ」
「優しいやつがなんだって?」
ヴォイドが食べかけのハマグリの皿を持って座敷に戻ってくる。
「なんでもない、こっちの話じゃ」
「支払いは自分が済ませておきます。あとは3人でごゆっくり」
高橋くんが皮肉っぽく言って、座敷を後にする。
ヴォイドは先ほどまで高橋くんの座っていた場所に座ると、せわしなく箸を動かしてハマグリを食べた。
「なぜ悩んでいることを俺たちに言わなかった?」
小次郎がヴォイドに尋ねた。
ヴォイドは気まずそうにハマグリを飲み込む。
「あんたたちはキャラクターだろ。言ってもしょうがないと思ってさ。それより、次のボスの作戦会議をしよう」
話題を逸らされて小次郎は不服そうな顔をしたが、ヴォイドは小次郎を無視して話し始める。
「このすぐ近くにある『マルベリ城』にいる次のボスは、
「おお、有名な刀匠ではないか」
「ああ。
毒攻撃は、「毒の剣」などを使って複数回攻撃するか、「毒のポーション」を相手に投げつけることで成立する。
ヴォイドと小次郎が「毒の剣」で相手の間合いの外からちまちま攻撃し、相手が膝をついたところで現状一番レベルの低い忠政が「天下丸」でとどめを刺して経験値を得る、という作戦となった。
◇
「
敵ボスの
小次郎とヴォイドが「毒の剣」を持って、逃げ回りながら攻撃を仕掛ける。最初は沈着に刀を振るっていた蔵正も、次第に怒り心頭になって居合を繰り返した。
「忠政さん、とどめだ!」
「あいわかった!」
忠政が蔵正の背後に忍び寄る。
「
蔵正が振り返って放った居合斬りを、ヴォイドが体で受け止める。
ぐっと頭を下げたヴォイドの頭上から、忠政が飛び出した。
「御免!」
「ぐああああ! わしの負けじゃ。これ持って行けい」
忠政に斬りつけられた蔵正が大げさに叫び声をあげて倒れ伏し、懐から通行手形を取り出した。
ボスを倒したときのこのチープさはなんとかならないのか、とあきれながら、小次郎は黄色い紙を受け取った。
ロードが始まって、3人は城の門に戻された。
「なんとか勝てたな」
ヴォイドがポーションを飲みながら言う。
「ヴォイド、体で刀を受けただろう。怪我はないか?」
「ああ、平気だよ小次郎さん。ただHPは結構減ったな。ひやっとしたよ」
「回復するまでどこかで休憩しよう」
小次郎が提案する。
「それなら」とヴォイドが思い出したように言った。
「この近くに温泉がある。行ってみるか」
「温泉か。温泉は好きだ」
小次郎が嬉しそうに答えた。
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