アデリナとミア

「まず状況から整理しよう。俺が見てきた限りじゃ、門は全て閉じられていて街道も封鎖されていた。まさにアリ一匹漏らさないような態勢だ」


 街道を封鎖しているのには、街の住民が逃げないようにするという理由もあるのだろうが最悪の場合、街一つを滅ぼしても目撃者が出ないようにするという対策なのかもしれない。


 「そして人々を中央の広場に集めて焼いていると」


 イリーナが付け足す。


 「そういうことになる」

 「つまり、聖騎士団は街の住民たちを人質にしているとも言える」


 ユミルの言う通りで俺達が聖騎士達を攻撃しようものなら、俺達が投降するまで住民を殺し続けるだろう。


 「それなら主目的を決める方がいいのでは?」

 

 そこにイリーナが提案した。

 流石、大軍を率いていた人の言うことは的確だ。


 「主目的は主に三つに分けられる。一つ目は、処刑されそうになっている住民の救出、二つ目はそれら以外の住民の救出。そして三つ目が聖騎士団の殺戮」


 一つ目を主目的とすれば、他の住民を人質に取られるかもしれない。

 二つ目を主目的とすると、処刑されてしまう住民が一定数出てしまうことになる。

 三つ目は、確定事項なので二つのどちらを選んだところで履行できる。


 「救える命の数で考えれば、二つ目。ただ倫理的に考えると一つ目を取りたくなるな」


 ただ主目的さえ決めてしまえば、その後の方針は全て定まる。


 「でも貴方のことだ、一と二の両方を選びたいのだろう?」


 両方を選べるに越したことはない。


 「何か策でもあるのか?」


 少し含みのあるイリーナの言い方。


 「無いわけじゃない。実は、いつかはこうなるだろうと助けを呼んである。お前達!」


 イリーナが手をパンパンと叩くと彼女の影から二人の女が姿を表した。


 「人間のために仕事をするなんてクソ喰らえだ!……って……えぇっ!?ア、ア、アイヴィスゥゥ!?」


 炎髪褐色の女が目を皿のように丸くして言った。


 「……存在が反則の魔術師……」


 その後ろから背の低い幼女が一人。


 「久しぶりだな」


 俺は、この女二人を知っている。

 なんならこのリントを巡る魔族との戦いで戦闘をしたことすらあった。

 どうやら手伝って貰えるようだし握手でもしておこうか。


 「ヒィィッ!く、来るな!こ、殺されるぅ」

 「……【凍結防御コンジェロ・オベクス】」

 

 どうやら握手はして貰えないらしい。

 炎髪褐色の方はイリーナの後ろへと引っ込み、幼女の方は自らを氷の壁で覆った。


 「あの時は、部下の命を守ってくれて感謝する。ついでに紹介もしておこう。私の後ろにいる方がアデリナで氷漬けになってる方がミアだ」


 彼女ら二人は、俺の魔術からイリーナを守ろうと壁になって負傷した過去がある。

 二人は動くのが困難な程に傷を負ったために、その後倒したイリーナ共々、回復魔法をかけて逃がしたのだ。

 傷を負った三人を放って置けば、後から来た人間達に慰みものにされてしまう、それは彼女達のプライドにとって酷だろう、そう考えての判断だった。


 「というか何で、こんなヤツなんかと一緒にいるんですか!?」


 俺を指さしてギャーギャーと喚くアデリナ。

 彼女の魔族としての特徴は、犬耳と犬歯なのでこの場合、喚くと言うよりかは吠えたてる、の方が表現として正しいかもしれない。


 「アデリナ、ミア、二人とも魔眼を凝らして私の魔力とアイヴィスの魔力を見ろ」


 アデリナと氷の中から出てきたミアが俺を見つめる。


 「あ、あるじになんて事をしたの!?」

 「許し難し……でも戦っても勝てない……」


 二人に叱責されたのでことの経緯を説明しようと口を開きかけたがイリーナに制止された。


 「アイヴィス、彼女らには私から話そう」


 三人は、主従の関係だからその方がいいかもしれないな。


 「え、そんなことが!?」

 「意外といい奴……?」

 「な、け、けけ、眷属ぅぅ!?」

 「むぅぅ……ならアイヴィスが私達のご主人……?」


 イリーナの話を聞いて二人は様々な反応を示した。

 そして話が終わったのか俺の方へと向き直った。


 「主を助けてくれたこと、れ、礼を言う。あ、ありがとう……まさか敵に礼を言う日が来るとは……」

 「新しいご主人……よろしく頼む……」


 別に俺は、彼女達の主人であるイリーナを眷属状態にしたからといって目下に見ているわけじゃない。


 「いや、二人の主人はイリーナだ」


 キョトンとする二人、基本的に主が誰かの従者になれば、新しい主に従うのが主従関係の常だから不思議に思うのも仕方がない。


 「いいのか?」

 「その方が二人も幸せだろうし、俺はイリーナとは対等だと思っている」

 「そ、そうか……」


 頬を僅かに赤らめながら言うイリーナ。

 こうしてリントの住民救出の戦力は整った。


 

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