深紅の神核



 『アイヴィス、私の今から話すことをよく聞いて』


 ティリスは、態度を改めて言った。


 『大事な話ならみんなにも聞かせるべきだろう』


 言うなれば、俺もティリスもユミルもイリーナも一蓮托生の関係だ、大事な話はみんなで聞くべきだしみんなで判断すべきことだろう。


 『それもそうね』


 ティリスはそう言って、神滅剣ディオス・リズィから人の姿へと変わった。


 「みんな、ティリスの今から話すことをよく聞いて欲しい」


 ティリスは、軽く咳払いをすると口を開いた。


 「ユミル、これが分かるわよね?」


 ティリスは、さっき神滅剣ディオス・リズィで貫いた亜神の神核をユミルへと渡した。

 事情を知らない俺から見れば、ただの深紅で光沢を帯びた石だ。


 「どうしてこれが……?」


 ユミルは驚いたように目を見開いた。


 「それに何かあるのか?」


 ユミルは太古の昔の創造神、そしてティリスはユミルの生み出した武器の管理人格、悠久の時を生きてきた二人にしか知らないこともあるのだろう。


 「これは、破壊の秩序を司るケラッハヴェールの神核と同じなのよ……」


 ユミルが俯きがちに言った。


 「でもケラッハヴェールの神核は、フライシュゲーテが神滅剣ディオス・リズィで倒したはず」


 そうでしょ?とユミルはティリスに視線を送る。

 フライシュゲーテという以前の神滅剣ディオス・リズィの所有者がケラッハヴェールを打ち倒す際に使ったのが神滅剣ディオス・リズィだということか…… 。


 「えぇ、そういうことになっているけど、それを実際に目で確認した?」


 ティリスは、ユミルに詰め寄って問い質す。


 「そ、それは……」


 ユミルは口ごもる。

 つまりは、見ていないということなのだろう。


 「そういうところの詰めの甘さが大事を招くんだから」

 「で、でもフライシュゲーテは私の腹心よ?裏切るはずが……」


 ティリスの言わんとするところを信じきれないのな信じたくないのか、ユミルは言い募る。


 「結果が現にそう言ってるじゃない?この神核は、ケラッハヴェールのものと同じだわ。神威に欠けているのは、おそらくこれが複製の神核だからよ」


 秩序の証である神核の複製、そんなことをできる者が敵にいるということなのだろうか……?

 だとすれば、これから俺達が相手取る敵は必然敵に最強種族である神族が増えてくるかもしれない、参ったな……。


 「神核の複製は、固く禁じたはず」

 「それは、創造の秩序を司る神だった頃の話でしょ?それにあんたは、秩序が失われることを嫌って神核の複製が可能にする魔法を開発していたのを私は覚えているわ」


 秩序が秩序としての役割を果たすよう、ユミルは秩序が失われても取り戻せるよう神核の複製を可能にしていたのか……。


 「……そんな……ことがあっていいの……?」


 その場に泣き崩れるユミル。


 「はぁ……最上位種の神族が、めそめそ泣いてるんじゃないわよ」


 それを叱咤しったするティリス。

 自分を創造した生みの親とも言える存在に対し遠慮がない。


 「アイヴィス、えーと……イリーナ、大体理解してくれた?」


 根源を感じられない亜神には、そういうからくりがあったんだな。


 「あぁ、なんとなくな。つまりは、あれだろ?フライシュゲーテが破壊の秩序を司る神の神核を適切に処分しなかったためにどういうわけか、今になって下級神族の根源が奪われ代わりに複製された神核が埋め込まれてるって話だろ?」

 「えぇ、そうなるわね」


 それが正しいとすれば、複製された神核を持つ神族が増える前に、下級神族に複製の神核を埋め込んでいる者を捉えるべきだということだろう。

 だがその前にやらなければならないことがある。


 「とりあえず、子供達の身柄の奪還を急ぐぞ」


 目先の事態すらままならないのに、秩序だの神核だのを巡る膨大な問題がどうにかなるわけが無い。

 まずは、目先の課題を一つずつ片付けていこう。

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