亜神
「アイヴィス!」
イリーナは叫ぶとロムルスを構えて突貫した。
時間稼ぎをしてくれるらしい。
『悪いがお前を頼らないといけないらしい』
【不死者の庭】に来て使われることを嫌がっていた
物理攻撃しか効かないのなら、抜かざるを得ない。
『はぁ……アイヴィスは私がいないと何も出来ないものね……仕方ないわ。あんな気持ち悪いやつの相手をするのは嫌だけど仕方なく使わせてあげる』
念話でティリスは、恩着せがましく言った。
見返りに後々何を要求されるかわかったものじゃないが、ティリスの許可も降りたことだ、彼女の気の変わらないうちにあの化け物を殺してしまおう。
「イリーナ、今行く」
「助かる!」
イリーナは、化け物の巨体から繰り出される圧倒的質量の攻撃を交わし続け気を引いてくれている。
「【
瞬間的に化け物の頭程の高さまで飛び上がる。
目標は、脳天だ。
神威さえ消失させるこの
「喰らえ!」
しかし、化け物の動きは止まらない。
どういうことだ……。
頭に飛び乗った俺を引き剥がそうとするような、目を庇おうとするような動きをみせる化け物の手から逃れるように飛び降りる。
『根源が無いのなら他の弱点を狙うしか無さそうね、仮にコイツが亜神クラスだとして神核があるとするなら次に狙うべきはそれよ』
ティリスがアドバイスをくれるが、神核の場所が分からない。
人体で大事な場所に当たる脳や心臓にある場合もあればそうじゃない場合もある。
神族の持つ神核の場所は、司る秩序によってランダムなのだ。
「アイヴィス、どうする?」
ロムルスを心臓に突き立てながらイリーナが訊いてきた。
「こいつには、浄化が効かなかったんだ、おそらくは神族のはず、ともすれば体のどこかに神核があるはずだ。それを壊す」
場所が分からないのなら何度でも斬りつければいいだけの話だ。
「それしかないか……わかった」
イリーナは、頷くと化け物の繰り出した拳を飛んで避け一旦、距離をとった。
「Graaaaaaa!」
化け物が雄叫びをあげると、口の中にどす黒い光が満ちた。
自身は
「【
無性に嫌な予感がしたのでとっさで俺とイリーナの前に障壁を築く。
亜神の口から溢れ出た光は、かろうじて展開が間に合った障壁によって跳ね返された。
『アイヴィス、奴の頭を見て!』
ティリスに念話で言われて見てみると、さっき深々と
『自己回復までするのか……』
神族というのは、見た目がどうであれ大抵は己の秩序を全うするために強い回復力を持っている。
「イリーナ、この化け物は自己回復能力まである、神核の有無で判断するまでもない、紛れもなく神族だ」
神族で最底辺の亜神だとしても腐っても神族、侮れない力を持っている。
「随分と難敵だ……」
イリーナは、息を整えながらロムルスを構える。
コイツを倒すには、再生される前に弱点に攻撃を加える必要がある。
だから、再生の時間を与えるわけにはいかない。
ならば、手足を斬り落として身動きを一時的ではあるが封じればいい。
手足を失えばコイツの物理攻撃は、防ぐことができる、そこに隙も生まれるだろう。
「足を薙いでくれ、俺が奴の腕を斬り落とす」
イリーナは、コクっと頷いた。
「数えるぞ、三、二、一、今だ!」
ロムルスの間合いの内に化け物を捉えようとイリーナが一気に間合いを詰める。
「【
同時に俺も高く跳躍した。
このまま一気に
「はぁぁぁぁっ!」
裂帛の気合いと共にイリーナが槍を大振りに振り回し足を薙ぐのと、
「Graaaaaaaaaaaaaa!」
痛みに悶絶するような声を発すると化け物は、姿勢を崩す。
そのとき、右腕を自身の目を庇うような動きをみせた。
もしかしてコイツの弱点は目か……?
憎悪に満ちた紅い眼を、さっきと同じように庇おうとしているからその可能性は十分にある。
なら右腕は、斬り落とさずとも腕ごと眼を抉ってしまおう。
「喰らえっ」
それまで以上に濃密な魔素と腐敗臭が辺り一面に溢れた。
「Graaaa!?Graaaaaaaaaa」
そして、どす黒い瘴気を眼から吐きながら化け物はその場に崩れ落ちた。
「殺ったのか……?」
これが神核なのだろうか……。
『間違いなくコイツの神核よ、でもちょっと待って……この色、もしかして……』
ティリスは、俺の疑問を肯定したが続く言葉、震えていた。
『どうした?』
ティリスの声音は、何かを恐れているようにも聞こえる。
『アイヴィス、私の今から話すことをよく聞いて』
ティリスの改まった態度に、俺は嫌な予感を抱かずにはいられなかった。
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