噂
教会に残っていた人間たちに、子供たちの行方を問い詰めたが誰も知らなかった。
攫われた銀嶺亭の二人の子供を追いかけて、教会へ行って戦った翌日から街で魔族によって子供が攫われているらしいという話が盛んに噂されるようになった。
誰かが意図して流しているのだろう。
無論、教会であることは疑いようがない。
そして教会は、リントの街に聖騎士団を二百名程度派遣する旨を発表した。
「名目は治安維持らしいですよ?」
ギルドの受付嬢に、俺は受領した依頼の
報告は、俺が目撃したという体でしておいたから、俺が戦闘を行ったことは伏せてある。
最初こそ、教会が子供たちを攫っていたという事態に彼女は目を驚いていたが他に知られれば大事になるし、彼女が事実を知っていることを知られれば彼女に火の粉が降りかかる可能性がある、そう言うと彼女は冷静さを取り戻し、何事もなかったように振る舞った。
「治安維持か……本当の目的は……いや、なんでもない」
本当の目的は―――――俺を消すことにあるのだろう。
それまでに俺は、会っておきたい人がいた。
いや、人といっていいのかは何とも言えないが……。
「また、来る」
これ以上得られることもなさそうだし無数の耳目のあるここに長居をするのは良くないだろう。
「はい、お疲れさまでした」
彼女が俺の報告をどうするのかは知らない。
そのまま上にあげるのか、もみ消してしまうのか……前者であるべきだが彼女の身を思えば後者であって欲しい。
そんなことを考えつつ俺は、ギルドを後にした。
◆◇◆◇
「帰った」
「お帰りなさい」
部屋の扉を開けると窓際で育て始めた植物に水をやる手を止めてユミルが挨拶を返した。
「だー、疲れた」
「いや、俺の腰にぶら下がってただけだろ……」
俺が
「はぁ?それでも疲れるものは疲れるのよ」
あぁ……せっかく取り換えたばっかりのシーツで綺麗だったのに。
ティリスは、あろうことか俺のベットに飛び込んでゴロゴロと転がっているせいでシーツはすっかりクシャクシャだ。
「で、ギルドに報告して来たの?」
ユミルは、窓を閉めて少し小声で訊いてきた。
「一応な。俺達が戦闘しなかった体で話せることは話してきた」
「何か、収穫は?」
新しく得た情報と言えば、やはり聖騎士団がこの街に来ることだ。
「聖騎士団がこの街に治安維持を目的として駐屯することになったらしい」
そう言うと、ユミルはため息をこぼした。
「この生活は長く続きそうにないわね。目的は、私たちでしょう?」
十中八九……いや、理由のすべてが俺達がこの街にいることなんだろうな。
「だろうな……」
「で、アイヴィスはどうするのよ?」
ティリスが転がるのを止めて俺をじっと見つめる。
「さっさと逃げたいところだが、受領した依頼は果たしたい」
危険を冒してまでこの街にいる理由は無い。
依頼なんて放棄して逃げればいいだけの事。
だけど、それはなんだか俺の信念みたいなものに反する気がする。
今は、追われる身だがもとはと言えば人族を救ったという
「そう言うと思った。可哀想な子供たちを助けて追っ手も蹴散らしてからこの街を発ちたい」
ユミルは、最初からそのつもりだったらしい。
逃げたいなら逃げていいぞ、と言おうとしたがユミルがその気になってる以上、それは失礼な気がしてやめた。
「私も、アイヴィスと共にすると決めた以上しょうがない付き合ってあげるわ」
ティリスが、何やら嬉しそうに言って俺達三人の行動の方針は、全員一致で決まった。
「でもその前に、会いたい人がいるんでしょ?」
ギルドにいたとき念話になっていたのか俺の思ったことを知っていたティリスが訊いてきた。
「あぁ、俺達の協力者になってくれるかもしれない奴にな」
「誰なの?」
ユミルは思いつかないと言いたげだ。
「少し前までここの領主をしていた奴だ」
ティリスとユミルが二人そろって驚いたような顔をする。
「それって……?」
その人物は、俺の敵だった高位の魔族だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます