ミリィ
俺たちの朝の静寂は、激しく扉を叩く音で終わりを告げた。
「イヴァンさん、起きとくれよ!!」
扉の外で叫ばれるのは、俺が台帳に書き記した偽名だ。
さすがにアイヴィスって名前は、大罪人アイヴィスということで知られてしまっているから使うわけにはいかなかった。
扉を開いてみれば、ここに来た時に受付にいた子だった。
いつもと口調が違うから誰かと思ったが……。
「うるさいわねぇ……」
ティリスも起きたのか不機嫌そうな声を上げた。
ユミルもいつの間にか、寝間着から着替え終わっている。
この創造神、出会ったときには服なんて持ち歩いていなかったのにな。
答えは単純明快で創造魔法で瞬時に自分に合う服を作っているのだった。
という話は置いといて……これなら部屋に通しても良さそうだな。
「ここでする話でもないだろう。中に入れ」
受付の子(名前を知らない)の雰囲気からすると、どうやら立ち入った話らしいということだけは察することができた。
「すみません、ありがとうございます」
「【
部屋の窓際にある、テーブルに腰かけてもらってコーヒーをテーブルに置く。
「すごい魔法だよ」
目の前でカップに珈琲が何もないところから注がれていく光景を見て少女は言った。
「いくつかの魔法を組み合わせて一つの魔法にしただけだから大したことは無い」
「いや、大したことあるって!!魔法の指南書でも書けそうなくらいだね」
魔法の指南書か……どこかに隠遁生活して印税収入で食べてくのもありかもしれないななんて思った。
とりあえずユミルの願いを叶えてからの話だけどな。
「で、用件を聞こうか……の前に名前を聞いてもいいか?」
名前を知らないからお前とか、あんたとかそういう風によぶしかないからなぁ。
「はい、ミリィって言います」
活発そうな外見に合った名前だな。
今までの口調から改まった口調へと変わった。
「で、用件は?」
そう尋ねるとミリィは姿勢を正して話始めた。
「実は……私には弟と妹がいるんですけどさっきから姿が見当たらなくて……もしかしたらお客さんたちの受けている依頼とかかわりがあることなのかなって……だから頼りにできるのがあなた達ぐらいしか……」
それでここに来たと……。
ミリィが俺たちのもとにこの依頼を持ち込んだのは事件解決の大きな手掛かりになるかもしれないな。
「いつ頃気付いた?」
さっき、という話ならまだ近くにいるはずだ。
呑気に珈琲を用意している場合じゃなかったか。
「馬の世話に二人を行かせたのが20分くらい前で、いつもだったらもう終わってる頃合いなんですけど……戻ってこなくて……馬小屋に行ったら、二人の姿が無かったんですっ」
ニ十分か……もうこの街にはいないかもしれないな。
あるいは生存を諦めた方が……いや、その可能性はとりあえず考えるのは辞めよう。
「わかった。なら今から探してみよう。少しミリィに魔法をかけるけどいいな?」
一応本人の許可を取っておかなきゃな。
魔法をかけられたときに自分の魔力の波長に合わず体調を崩す者も多くない。
そうなったときの責任の所在をかんがえればこそ許可はとらなければならない。
「弟と妹のことが懸かっているんです!!お願いします」
ミリィは必死な様子だ。
「【
探知範囲をこの街に絞らず隣の街に届くかというところまで広げてミリィと同質の魔力を探す。
血の繋がりがあるということは、魔力の波長も似通っているというのが一般的な通説だ。
それに当てはまらない場合もないことはないが基本は当てはまる。
展開された魔法陣を魔眼を通してみるとこの街とその周囲を
そこに映し出されたミリィと同質の魔力反応は5つ。
「安心しろ、二人は生きている」
とりあえずミリィを安心させるために二人の生存を伝える。
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ……だが場所は……」
映し出された魔力反応のうち、三つは銀嶺亭に。
これは、ミリィとその両親のものだ。
残りの二つは―――――教会からだった。
「場所はどこなんです!?」
二人が心配で気が気じゃないミリィに詰め寄られる。
これは、素直に伝えるべきか……それとも誤魔化すべきか……。
「【
ミリィに、そしてティリスとユミルにも俺の見てる光景を共有する魔法陣を展開した。
「これって……」
「やっぱり、クソね」
ユミルとティリスは俺の視界を共有してすぐに気付いたらしかった。
「どういうこと……?」
ミリィは焦るあまりに理解できていない。
「ミリィ、視界のなかに五つの点があるだろう?」
俺は、わかりやすいように説明してやることにした。
「はい」
「そのうち下の方の纏まった三つの点がミリィと両親を表している」
ミリィはコクコクと頷いた。
「そして中央の二つが―――――」
「なぜ教会に!?」
宿屋で店番を任されたりする聡明なミリィだ。
そこまで説明したところで理解できたらしかった。
「二人の意志で行ったというより、連れ去られたとみるべきだろうな」
「でも、どうしてっ!?」
教会で何が行われているのか、それを話していいのかそしてその事実を受け入れることがミリィにできるのかは微妙なところだった。
まぁ、あくまでの俺の予想でしかないんだがな。
おそらく二人の誘拐は他の連れ去られた子供同様に、魔力機関を目当てとしたものだろう。
「それは行ってみないとわからない」
そう伝えて誤魔化した。
「俺達三人は、とにかく教会へ急ぐ」
「なら、私も!!」
ミリィは、着いてこようと俺の手を掴んだ。
それを少し強引に振りほどく。
「来るな。死ぬかもしれないんだぞ?」
万が一にも俺自身の死ぬ可能性は考えてはいないが、自分の力で自分を守れない少女を守り通せるかについては確実性が無い。
さすがにそう言っては、ミリィも
「で、でもっ……」
ユミルが俺とミリィの間に割って入った。
「大丈夫、心配しないで?二人は必ず連れ戻すから」
ミリィと手をそっと優しくユミルは自分の手で包み込む。
「うっううぅっ……」
ミリィが自分では何もできないという無力感からか泣きだした。
「ティリス、ユミル、行くぞ」
こういう時は寄り添って気の済むまで一緒にいてやるのが一番なんだが、それは時間のロスでしかない。
魔力機関を抉り取られた少女がどうなるかを考えれば、時間が惜しい。
「行ってくる」
そっとユミルがミリィから手を離す。
空いた両手で涙を拭うとミリィは
「二人をお願いします!!」
と俺達を見送った。
「とりあえず走るぞ」
「えぇ、急ぐべき」
ユミルは、ワンピースの裾を走りやすいように縛って
「いつでも戦えるようにしておくわ」
ティリスは、
教会までの時間を考えつつ俺は走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます