贈り物
「ユミル、一応これも持って行ってくれ」
花柄をあしらった髪飾りをユミルに渡す。
「え……」
ユミルはこちらを見て頬を赤く染めた。
「どうしたんだ?体調でも悪いのか?」
子供が街で攫われている事件を解決するという依頼を受けてきた俺を手伝うということでユミルも朝早くからこうして街中を散策しようとしてくれているのだ。
本人も無理をしているだろうから、体調がよくないのなら部屋にいて欲しい。
「嬉しい……」
受け取った髪飾りをそっと付けて小声でユミルは言った。
そこに
「アイヴィス、この女、ただの贈り物だって勘違いしてるわ。ウケるんですけど」
ぷぷぷ、口に手を当てて笑うティリス。
今日も、生みの親のユミルに対しては
「……私にだって何となくわかる。これに魔力が付与されていることぐらい。でも嬉しいのよ……何となく人の心の暖かみに触れた気がして……」
いつもだったら何を言い返すユミルだが、そういう気分じゃないのか言い返さなかった。
「ねぇ、アイヴィス。似合ってる?」
上目遣いにユミルがこちらを見上げて訊いてきた。
自分で買ったものを付けさせて褒めるっていうのは、何だかちょっと違う気がするから答えに悩んだが―――――
「あぁ、もとの素材がいいからな。似合ってるよ、ユミル」
この褒め方なら褒めているのはユミルになるからいいのでは?
「ちょっ……心の準備が……」
あうあう……と取り乱すユミルは、ぼふんっと音も聞こえそうなほどに頬の赤らみが増した。
この髪飾りをユミルに渡した理由は、彼女が俺と別行動をするにあたり俺の魔力を付与したものを渡すことによって俺が居場所を知ることができるからだ。
備えるに越したことはない。
別にハンカチーフでもなんでも俺の魔力を付与しさえすれば何でもよかったが髪飾りを選んだのは何となくそれを付けたユミルを見てみたかったからだ。
「ねぇ、ちょっとアイヴィス!!私にも何か買いなさいよ!!」
足をげしげしとティリスに蹴られる。
「お前には、昨日の夕飯でいろいろ追加注文して食わせてやったろ!?」
昨日の夕飯の金額は、そういうわけでいつもの二倍近かった。
「はぁ?それとこれとは別よ!!」
何言ってんの?って目で見られてもこっちが何言ってんのお前?って思うわ。
「いや、お前は俺と行動を一緒にしてるから渡す必要ないだろ」
「日頃、こんな私みたいな美少女と一緒にいられて光栄だと、ありがたいと思わないわけ?」
まぁこの性格を知らなければ容姿だけで言えばティリスは、かなりの美少女の部類だろう。
「美少女は、自分で自分のことを美少女なんて言わないんだよなぁ」
「はん、それは自分に自信のない女のすることよ!!」
方向音痴だし、言葉はきついし……つくづく残念美少女だよなぁ……。
「お、今、美少女って思ったよね?ね?」
あ、念話になってたか……しくじった。
「その前に残念ってつくけどな?」
「ごたごた、うるさいわね!!いいから買いなさいよ!!美少女税よ、美少女税!!」
なんだよ美少女税って前代未聞の税金だな。
「って痛ぇ!!」
ティリスが俺に飛びついてきて耳をつねる。
「どう?買う?買わない?」
ニヤリと笑いながら耳をつねるティリス。
俺みたいな一般男性にはドS美少女は、ご褒美にならないんだよなぁ。
ちょっと特殊な人たちには需要があるかもしれないけど。
そんなことを考えていると耳をつねる力がさらに強くなる。
「強情ね」
「あ、痛い、ちぎれるぅぅぅッ!!わかった、買う!!買うから!!」
これ絶対、耳が赤くなってるだろ……。
「素直に買ってくれればいいのよ」
俺に飛びついてたティリスは俺から降りると、ふんっとそっぽを向いてそう言った。
「お客さん達、朝から店の前でうるさいよ!!」
ちょうど、大衆食堂は朝の営業を始めるらしく受付をしてくれた女の子が店の扉を開けながら抗議してくる。
ちなみに俺達は、一足早く朝食を済ませていた。
「すみません……」
ティリスの頭を掴んで強引に頭を下げさせる。
ティリスにも思うところがあったのか素直に頭を下げた。
「じゃ、ユミル、お昼にここで落ち合おう」
「わかった。行ってくるわ」
くるりと俺達に背中を向けて路地へとユミルの姿は消えていった。
「じゃ、俺達も行くか」
ティリスを伴って俺達もユミルとは反対方向へ向かおうとしたとき
「ちょっと待ちなよ。どこに行くんだい?」
受付をしてくれた子(名前は知らない)に呼び止められた。
「ん?最近子供が行方不明になっているって話を聞いてな、その事件を解決しに行くんだよ」
そう返すと女の子は俺に寄って
「安全に過ごしたいなら、やめた方がいいよ」
と耳打ちしてきた。
「なぜだ?」
ギルドで依頼を受けた人間の
女の子は周りをはばかるように周囲に見渡してから
「噂なんだけどさ、どうにも教会が絡んでるらしいって」
「そうか、教えてくれてありがとな」
訊いてみてよかったな、新しい手掛かりを得ることができた。
「本当に行くのかい?」
行こうとして
「子供を守るのが大人の務めだろう?」
ちょっと格好つけて言ってみると脇腹をティリスに小突かれる。
おかげで何だか締まりがない。
「そうかい……そこまで言うなら止めないよ。気を付けてな」
心配そうな眼差しを背に受けながら俺らは銀嶺亭を出発した。
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