第11話 生き物、テクニック!


 熟田さんはその後も毎日、僕にたくさんのBLと百合作品を作業所に持って来てくれた。

 僕は黙って読みふける。


 その間、熟田さんは他の女性陣と雑談していた。


「いやぁ、最近私って本当に枯れてるんすよ」

「あ~、わかるぅ」

「生物とかも、なんかいいネタないなぁって……」

 (ん? ナマモノ?)

 僕は激しい絡みシーンを読みながら、その言葉が気になった。


 終業後、熟田さんに声をかけてみた。

「あ、熟田さん。ちょっといいですか?」

「なんですか、味噌村さん? 私の作品なら読ませないっすよ」

 どうやら、かなり警戒されているようだ。

「いや、違います。ナマモノってなんですか?」

「なっ!? 味噌村さん! それ、どこで覚えたんすかっ!?」

 驚きを隠せない熟田さん。

「え……この前、他の利用者さんと熟田さんが話していた時に、チラッと聞いて」

 僕がそう答えると。

「チッ……聞かれてたか」

「え?」


 熟田さんは深呼吸をした後、鋭い目つきで、こう語りだした。

「いいですか、味噌村さん。生物とは、普通の二次創作より、とても危険な界隈です!  味噌村さんぐらいの中途半端な知識で、近寄ってはいけない界隈なんです!」

「え、どういうことですか?」

 その後、彼女の説明では、特定の暗号、専用のソフトなどを使い、とてもアンダーグラウンドなインターネットで、闇取引みたいな感じで、楽しむ世界だと言う。

 そして、絡めるものが、実際の人間であること。著名人であること。

 そこでようやく、僕は生物という言葉を少しだけ理解できた。


「な、なるほど。つまり、二次元以上に取り扱い厳禁ということですか……」

「そうっす! 味噌村さんみたいなpixivレベルじゃ、絶対に見つかりません! 危険地帯ですから、軽はずみな気持ちで、界隈に近づいたらダメっすよ! 特定の暗号やソフトがない限り、閲覧できないディープな……そう。最下層ウェブにあるんすから!」

 今までの彼女の説明、キーワードを頭に並べて、整理してみた。


 僕は当時、YouTubeなどで、事件系ユーチューバーや考察系ユーチューバーにハマっていた。

 中でも気になったのが、ダークウェブで見つかった動画の特集など。

 よくミステリーボックス、人身売買、殺人、危ないお薬をやりとりするヤバいサイトだと聞いていた。


 熟田さんが言った最下層ウェブ、特定の暗号、専用のソフト……。


「ま、まさか!  ダークウェブのことですか!?」

 すると熟田さんは静かに頷いた。

「ええ、そうです。ダークウェブとほぼ同じと思ってください! 危険なところなので」

「そ、そんな!? 腐女子の人たちって、そんな高等なスキルを持って、裏でやりとりをしているんですか!?」

「その通りです。だから、味噌村さん、興味本位で近づいたら、絶っ対にダメですからね」

「は、はい……」


 僕は恐怖で縮みあがった。

 ダークウェブと言えば、住所を特定されたり、ウイルスの温床だと聞く。

 ビビりまくって、帰りの電車に乗った。

 (怖いよぉ、腐女子の人たちって)

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