第6話 伝説の講義、テクニック!


 熟田さんと軽く雑談し終えたあと、噂の伝説の講師なる人物が現れた。

 幹部の斑済さん曰く、某オタク専門学校の校長だったこともあるそうな。


 見た目は普通のおじさんだったけど、喋り出すと確かにオタクだなぁと痛感した。


「さ、オタトークしよう!」

 なんて意気込まれても、辺りは静まり返っていた。

 そりゃそうだろうと。

 だって、みんなコミュ障の集まりなんだから。


 とりあえず、伝説の講師が色んな話を繰り広げる。


「スキルはあとからつけるものだ」

「描写に関しては、観察力を鍛えた方がいい」


 なるほどなぁと真面目にメモしてみる。


 一人の利用者さんが

「イラストを描いてるが、キャラを上手くキレイに描く方法は?」

 と質問していた。

 それに対し、伝説の講師は真剣な顔つきで答える。


「いい質問だね……例えば、博多駅の大きな交差点があるとしよう。そこで、好みの若くてカワイイ女の子がいるとするよね……」

 それまで、真面目にメモしていた僕は、動かしていた指を止めてしまう。

「信号が赤の状態で、その子をじーっと見つめるんだ」

(ファッ!?)

 なんか詳しく表現はしてないけど、未成年の学生とかも入ってそう……。

「そして、信号が青になった瞬間。すれ違うその時まで、とにかく上から下まで観察するんだ!」

(えぇ……)

「その子の体つき、仕草。表情、どんな顔のパーツをしているか? 一瞬たりとも見逃さず、さすがに無断で撮るのはよくない。だから、脳裏に焼きつけるんだ!」

(な、なにを言っているんだ、この人。百歩譲って見ちゃうのはわかるのだけど。それはやりすぎなのでは?)

「すれ違ったら、次はバックだ!」

(ファッ!?)

「後ろ姿も肝心だよ。交差点を渡り切るまでその子をしっかり観察し、それをすぐにメモやイラストににして、帰宅してから、更に想像を膨らませるんだ! そうすれば、きっと描写も上手くなる!」

「……」


 睨まれているような視線を感じた。

 左の奥からだ。


 ゲーミングチェアに座った一人の女性。

 鋭い目つき、胸の前で腕を組み、講師をじっと黙って睨みつける。

 ロングスカートとはいえ、ガニ股だ。

 先ほどの日本画講師の熟田さん。


 まるで、汚物を見るかのような目つき。

(めっちゃ怖いじゃん。あのねーちゃん。やっぱオタクじゃないのかな……)


 だが、これは僕の勘違いだった。

 熟田さんはこの時、会話に入りたくてウズウズしていたらしく、職員だから我慢していたらしい。

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