第53話

 話し合いの結果、テオドールたちもリリアたちに協力することになった旨を伝えた。


「すぐに信用しろと言われてもね」


 リリアは焚き木の灰で鍋を洗いながら言う。


「ああ、言葉でどうこう言うつもりはないよ。行動で示す」


 これも全ては親友であるアシュレイのためである。リリアは鍋から灰を落とし、倉庫ボックスの中に仕舞った。


「私たちの目的は森の中にある異跡メガリスだよ。かつて、そこで神機オラクルが見つかったことがあるらしい」


 リリアの発言にリーズレットが小首を傾げる。


「もう見つかった後なら、同じ場所にあるとは限らないんじゃないの?」


 その発言にリリアは呆れたように口元だけで笑った。リーズレットがムッと口を結んだところで、テオドールが代わりに口を開いた。


「ダンジョンの中では魔物もアーティファクトも自然発生するんだ。特に異跡メガリスと呼ばれる建築物で生じることが多い。ま、異跡メガリスはアーティファクトの生産工場だという説もある」


 テオドールの説明にリリアは「そういうこと」とだけ付け加えた。シローがからかうように笑いながら「お嬢ちゃん、神機オラクルってのは知ってるか?」と口を挟む。


「知ってるわよ。見たことあるし。強力なアーティファクトのことでしょ?」

「見たことあるってどこで?」

「グスタフ侯爵様がお持ちなのよ。たしか、ブリューナクって名前だっけ?」

「グスタフって魔王指定されてる堕ちた勇者のことか?」

「そうよ。魔王って言うけど、優しい方よ。私もいろいろお世話になったことあるし」


 優しいという表現が引っかかったが、あえて口出しはしなかった。

 グスタフが持っていた神機オラクル・ブリューナクは、虹色に輝く拳大の球体である。普通に触ると鉄のように固いのだが、グスタフの思いどおりの形に変化し、自由自在に動かすことができる。

 グスタフの意識が及ぶ範囲内で動かすことができ、慣性の法則など度外視した軌道も可能だ。対人、対軍、対城塞、あらゆる状況下で圧倒的な破壊力と汎用性を持つ武器である。

 テオドールの魔槍技尽く穿ち鏖殺す天翔ける雷槍ヴェーラ・ブリューナクも、グスタフの神機オラクルから着想した技である。

 年齢なども踏まえて、単純な身体スペックでグスタフに負けるとは思わないが、神機オラクル持ちのグスタフにはテオドールとて勝てる気がしない。極端な例を言えば、アシュレイやリーズレットでもブリューナクのような神機オラクルを持っているなら、テオドールに勝てる可能性があるのだ。


「あんたも見たことあるんじゃないのかい?」


 とリリアに話を振られたので「ありますよ」と肩をすくめた。


「まあ、グスタフ様の神機オラクルがあれば、転生者相手でも負けないでしょうね……」


 神機オラクルは持ち主のレベルや実力に依存しないため、強力なモノは城一つ分以上の価値があるとされていた。


「じゃあ、神機オラクルがみつかれば、余裕ってこと?」


 リーズレットの問いかけにテオドールは苦笑で応える。


神機オラクルにもピンからキリまであるし、そもそもなかなか見つからないから特別視されるんだよ」


 リリアは革袋の中の水を飲み干す。


「しばらく休んだら出発するよ。リーズとアシュレイ、アンタらはお荷物だってことを理解しな」


 リリアの言葉に二人は悄然とうなずいた。


「テオドール、あんたはなにが得意だい?」

「魔術と槍。剣や素手も少し使える。斥候スカウト前衛フロント後衛バック、どれでも対応可能だ」

「さすがに斥候はまだ任せられないね。後衛につきながら、私の指示どおりに動いてもらう。ついでに、嬢ちゃんたちもあんたが守りな」

「ああ、わかった。リリアたちは、どういう配置になる?」

「斥候はシャンカラ、前衛は私とシローだね。後ろから撃つんじゃないよ」

「そんな得にもならないことはしないよ」

異跡メガリスの調査が終わり、近場の都市に帰るまでは何があろうと契約は履行してもらう。あんたのミスでお嬢さん方がおっ死んだとしてもね」

「ああ。約束は守るさ」

「その言葉、忘れんじゃないよ」


 そう言ってリリアはニヤリと笑った。

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