お菓子クラブ

青山えむ

前編

 僕はお菓子クラブの部長をしている。

 部員は十名。この中学校ではクラブ所属が必須になっている。部活動との掛け持ちもオッケーだ。

 お菓子クラブは比較的活動がゆるいので、とりあえず入部する人も多い。気が向いたときにクラブ活動に参加する、それでも僕は大歓迎だった。


 今月は、顧問である月野つきの先生の誕生日がある。サプライズでバースディパーティを考えている。部員が考えたお菓子を先生にプレゼントするのだ。どのお菓子をプレゼントするかは投票で決めようと思っている。


 幸い月野先生は、もう一つ顧問をしている部活動の遠征で今週はお菓子クラブには来られない。この期間にプレゼントするお菓子を決めようと思う。


 バースディパーティまでのスケジュールは決まっている。

 今週は五日間かけて、プレゼントするお菓子をみんなで決める。

 来週は決まったお菓子作りの練習週にする。そして再来週が、月野先生の誕生日だ。


 まずはお菓子の決め方を設定する。

 月曜日から金曜日まで、自分が考えたお菓子を提出してみんなで吟味ぎんみする。金曜日に投票をしてお菓子を決める。


 ●一人一日一品まで、お菓子を提出できる。

 ●お菓子一覧表に、提出したお菓子の名前を書くこと。クッキーやマカロンなど複数個ある場合は個数を記入すること。

 例えば二人以上がクッキーを提出すると、誰のか分からなくなる。提出した個数が区別の判断だ。

 ●お菓子には自分の名前を書いた名札をつけること。


 これが条件だった。もちろん毎日提出してもいいし、一日だけ提出してもいいし、しなくてもいい。緩いのがお菓子クラブの特権なのだから。



 月曜日、部室に行くと早速お菓子が並んでいた。

 三年生の僕は進路指導で少し遅れて部室に到着した。二年生の副部長が仕切っているので問題はない。


 お菓子クラブの部室は家庭科室だ。お菓子はテーブルの上に並んでいる。

 副部長の角川かどかわさんは大福を提出していた。


「洋菓子が多いかと思って、あえて和菓子にしました」


 角川さんらしい選択だと思った。


 菱田ひしだくんは眼鏡をかけた知的な部員だ。実際パソコンが得意らしい。家でパソコンをいじりたいから、活動が緩いお菓子クラブを選んだと言っている。正直で爽やかな子だ。


「ひし餅にしました、珍しいと思って」


 少数派かと思っていた和菓子が早くも被り、菱田くんも角川さんもバツが悪そうにしていた。


 三山みやまさんはクレープを提出していた。洋菓子が出て来てホッとした。


「私クレープが好きなので、クレープにしました」


 少しぽっちゃりしている三山さんは、笑顔でそうコメントした。お菓子が大好きだと宣言している。

 

 あれ? 名札がついていないお菓子がある。お皿にはクッキーが五枚置かれていた。一覧表にも「クッキー五枚」と書かれている。


「このクッキーを提出したのは誰ですか? 名札をつけ忘れていますよ」


 僕は部員に呼びかけたが、誰も返事はしなかった。

 今この場にいて、お菓子を提出していないのは五条ごじょうくんと丸井まるいくんだった。二人とも、自分ではないと言う。


「私が一番最初に部室に来ましたが、そのときはそのクッキーはありませんでした。急いでいた誰かが置いていったのかもしれません」


 角川さんが言う。家庭科室は鍵がかかっている。調理器具など、火を使うものがあるので誰でも入れるわけではない。

 部長である僕か、副部長の角川さんだけが鍵を開けることを許可されている。


「そうか、部活を掛け持ちしている誰かがお菓子だけ置いていったのかもしれないね」

 そのような結論になった。



 火曜日。今日は僕が一番最初に部室に来た。誰もいないしテーブルになにもないことを確認した。

 部員が次々に来る。みんなエプロンをつけてお菓子作りを始める。


 僕はクランベリー入りのパウンドケーキを作る。白いパウンドケーキの生地に、クランベリーの赤い色がポイントだ。

 僕は名札に赤井あかいと記入し、一覧表にパウンドケーキ(クランベリー・六切れ)と記入した。


 丸井くんは大きい丸型のスコーンを提出していた。

 他には、長方形に焼いたケーキにたくさんフルーツをデコレーションしたケーキが提出されていた。長方形のケーキは切るのも楽だし作りやすい。これは良いアイデアだと思った。


「また名札がないお菓子がありますね」


 菱田くんが眼鏡に手をかけながら言う。まるで探偵のようだ。

 また? 確かにテーブルの上には名札がないお菓子がある。

 ごませんべいだ。丸い形の津軽せんべいに、ごまがたくさんついている。ごまの香りが強い。どうやって作ったんだろう。いやそれよりも、誰だろう。


「名札をつけ忘れた人はいますか?」


 僕は昨日と同じように部員に呼びかけた。誰も返事をしない。


「今日は僕が一番最初に部室に来たけれど、誰もいなかったしこのお菓子もなかった」


「またですか? 昨日と同じ人でしょうか?」

 角川さんが発言する。


 昨日と同じ人だろうか。部活を掛け持ちしている部員が家で作ってきたお菓子を置いていったのだろうか。しかし……。


「誰か、掛け持ちしている部員が来たのを見ましたか?」


 僕はそう呼びかけたが、誰も見ていないと言う。

 確かに、家庭科室のドアは基本的に閉めている。においが流れてしまうからだ。

 ドアが開くたびに僕は誰が来たのかを確認している。

 一度部室に来て、そのあと退出した部員はいない。


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