第6話 16歳と18歳

 お義兄様がトルネルク学園に戻られて実に2年…休暇になっても一度も帰って来ないので心配になり私も今年からトルネルク学園に入学できる歳になったから後を追うように試験を受け合格できた。


「やっとお義兄様にお会いできるわ」

 何故だか胸が高鳴っていた。久しぶりというか2年ぶりだし。


「良かったですねお嬢様」

 とジョルジュさんも嬉しそうだ。


 私はあれから夜会に出るたび


『お兄さんから招待を受けてきました!な、なんとお美しい方だ!陶器人形のように綺麗だ!』

 などと言う真面目そうな男の人達が寄ってくるようになり…競うようにダンスや見合いを申し込まれた。

 …全て断ってしまった。


 なんだか心がもやもやして仕方なく他の人を見ても何も感じない。それこそ私は主人のいない人形のようにジッと過ごしていた。


「でもようやく会えるわ。何で帰ってこないのか問い詰めてやるわ!」

 私の事を思い帰ってこないのだとわかっていても一言言わなくちゃいけないわ!


 と私は学園に向け馬車を走らせた。


 *

 入学式やホームルームで隣の女生徒達に挨拶を済ませるとお義兄様を探し始めた。


 男子寮の寮長に挨拶して


「あの、3年生のレイモンド・オルガ・カークフィールドはおりますか?私の義兄です」

 と言うと寮長は


「んん?今はいないね…」


「え?どこへ?」


「さぁ…ねぇ?そのうち戻って来ると思うけど君のような可愛い子がこんなとこで待ってたら野獣みたいな男子に襲われるから早く女子寮に戻った方がいいよ、なんなら送ろうか?」

 と言われて


「い、いえ結構です。義兄が戻ったら手紙を書いたので渡してください」

 と渡すと


「わかったよ、じゃ気を付けて」

 と寮長に挨拶して私は女子寮に戻るしかなかった。会えなかった。何となく寂しくなる。ようやく会って文句の一つでも言おうと思ってたけど…万が一のために手紙を書いてて良かった。

 入学した事や時間があれば会いたいと日時や場所まで指定して書いておいたから明日から指定場所で待ってみようと思った。


 *

 しかしレイモンドお義兄様は


「来ないいいい!!!」

 私はだんだんと足踏みしていた。会う気がないのかしら。家にも帰ってこない手紙も出さないでどう言うつもりなのか?


 数日待っても来なくて苛々してきて校内をぶらりと探索する事にした。

 まだ知らない場所も多い。3年生の階段に続く渡り廊下の向こうの影になった所で何か聞こえた気がした。


 私はそっと近づいて柱から顔を少し出して見た。

 すると…


 ドス!!

 っと黒い髪が揺れていた。


「うっっ!!」

 膝をつく人影に見覚えがあった。でも…片目に眼帯をつけていた。お腹を抑えて蹲る男に更に蹴り続けるその男はこないだ会った寮長じゃない!!


「あんな可愛い妹紹介しろって頼んでんだろ!!」


「くっっ!………」

 私は夢中で飛び出す!


「何してるの!!?お義兄様!!?」

 と前に出て止める。


「あ!この前の!良かった来てくれたんだ!一緒にこれからお茶でも…」

 私はズイと蒼いペンダントを突きつけ


「私に触ると呪いが発動して貴方死ぬわよ!?いいんですの?」

 と言うと


「ああ!?何だそれ?…」


「知りませんの?私に手を出した者は死から逃れられない。社交界では囁かれていますのよ」

 と言うと顔色を変え寮長は去って行く。


「ちっ!!レイモンド!てめえさっさと死ね!」

 捨て台詞を残し。


 お義兄様はお腹を抑えている。


「大変!医務室へ!」


「いい…何で…来た?僕は少し休めば平気だよ」


「お義兄様!手紙も寄越さないし家にも帰ってこないのはこうやって虐めを受けていたから!?それにその片目はどうしたんですか!?そんな怪我!」


「……いや…別に?ただ髪をかきあげられて目が気に食わないと一つ潰されたくらいだよ」


「そんな!くらいだなんて!やったのは誰ですか!抗議します!!」


「やめたほうがいい。上位の貴族様だからね。逆らわない方がいい」


「それでも!酷すぎますわこんなの!!」

 と言うとお義兄様は


「それより何で来た?それにそんな石までまだ持っていたのか?それはただのペンダント。死なんて来ない」

 と言う。


「知ってますわ!!だから利用させていただきました。…お義兄様…私とても寂しかったのですよ?何故家に帰ってきてくれないのですか?」

 するとお義兄様は


「…婚約者は見つかった?良い人を選んで紹介したんだけど」

 私は首を振る。


「そんなことなさらないで帰って来てください!」


「……心配かけたくないし…。アリスに会っても気持ち悪がられるだけだ。僕はね…君のことを初めて会った時から好きで…でも妹にしちゃうとこの気持ち悪い気持ちを知られたら引かれるし…お人形さんならって思って愛でている変態だよ。


 お義父様にも反対された…。だからもう早くアリスにまともな婚約者を見つけて僕は卒業したら侯爵家を継ぎ…年老いたら適当に養子を取り後を継がせるつもりなんだ。


 だから僕の事はもう気にしないでいい。アリスが不快だろうから戻らなかった。これからも会わなくていいよ」

 そう言うと私から離れて立ち上がる。全身ボロボロだ。顔だけはバレるから殴られてないけど。


「目の傷は知りませんでしたわ。家に連絡が行かないようにしたのですね!?」


「………」


「レイモンドお義兄様!!きちんと応えてください!!」

 と強く言うとガタガタ震え出したので不味いと思った。


「うううう!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!僕は悪い子悪い子悪い子…」

 と震えて蹲るので私は背中をさする。


「お義兄様興奮させてごめんなさい!大丈夫ですからね。誰も責めてません。悪い子でも無いですから!ね、顔を上げて…」

 そう言い、片目が涙目で上を向いたお義兄様に私は近付いて唇にキスを落とした。


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