第4話 14歳と16歳

お父様の死から暫く…侯爵家の経営は代わりにジョルジュさんが行う事にした。お義兄様が卒業するまでの間だ。


お義兄様は夏季休暇は家に戻ってくる。

私はその間に考えた。どうしたらいいだろう?どこかへ隠れてしまおうか?でもそんなことしたら心配してお義兄様は学園から直ぐに戻ってくるだろう。


お父様が残したメッセージ…。レイモンドお義兄様が私を他の男性に取られたくなくてお父様に毒を盛ったなんて…信じたくないけどお義兄様ならあり得るとも思った。


だってお義兄様の執着は異常だと私は感じてきていた。毎週のように学園から家に手紙が届き、日々のことや私の事を想って寂しいとか、まるで恋人へ当てる文章が並べられていた。

そして最後に必ず


(アリス…僕の可愛いお人形さん。僕から離れないでね。逃げないでね?いい子で待っていてね)

と書かれていた。


どうしよう。

婚約者を決めるとその人にも何か害が及びそうで有る。もしうちから殺人者や罪人が出たことが世間に知れたら侯爵家もおしまいだ。


「私は…お人形のままでいるしかない…」

お義兄様からは逃げられない…!!

そう思って涙するしかなかった。

パーティーではダンスを申し込んでくる方も多かったけどなんだかその気にもなれなくて私は憂鬱だった。

しかもお義兄様が入寮する前に


「これ…アリスにあげるね…」

と蒼い石のネックレスを貰った。


「これは?」

と聞くと


「とても強いおまじないをかけたネックレスだよ…無理に外したら死んじゃうかも…僕以外がアリスに触れようとしたら死んじゃうかも」

そんな風に言われ恐ろしい呪具だと気付いた。


その呪具の存在は邸の従者たちにも知れ私に接して来るものは少なくなった。着替えも風呂もこれをつけられてから一人でするようになったのだ。


だがお義兄様が恐ろしいと思う反面でそうさせたのは過去の虐待からだと思った。愛されることが無い人だったのだろう。

お父様が死んだ時お義兄様は


「…お義父様…安らかにお眠りください」

と祈っていた。殺したくせに…。と思ったこともあったけど…。


「どうしたらいいのかしら…」

そう悩んでいるうちに夏季休暇が来てお義兄様は学園から戻ってきた。

しかし戻ってきた姿を見て私や邸にいた従者達は驚いていた!!


「お、お義兄様!?そ、その足はどうしたのですか!!?」

お義兄様は戻って早々になんと左足を骨折しており松葉杖で歩いていた。

ヘラと私の顔を見て


「なんでも無いこけたんだよ」

と言うがよく見たら顔にも傷が残っていた。

まさかと思い


「お義兄様!?一体学園で何が起こっているんですか?」

と問い詰めた。


「う…へへ…大丈夫だよアリス。ぼ、僕がトロいもんだから…気に食わない連中がたくさんいるのだけど…平気だよ」

と言う。明らかにこれは虐めだ。虐待の次には虐め!ますますお義兄様の心は傷だらけになり耐えられなくなると誰かを傷つけ殺すのではと心配になる。


「勉強は大丈夫だよ!ちゃんといつも10位内にいるんだ!い、一位は取らないようにしてるんだ!あのね取るといろいろ困る人がいるんだ…だから問題を間違える」

とお義兄様は言う。つまり成績上位者がお義兄様を虐めている!!上位者なんて…限られてる!王族や上位貴族だ。


お義兄様は前髪で顔を隠していかにもなよっとしているから目をつけられやすいのかもしれない。


「お義兄様は前髪を切らないのですか?」

と聞くとビクっとした。

あ、不味い。


「や、やだよ…怖い!!これがあればまだマシなんだ!!アリス…どうしてそんな事を言うの?」


「ご、ごめんなさい、不安にさせて!そんなつもりではありませんの。もしかして前髪の印象で虐められるのかと思って。そうしたらこんな怪我をなさる事も無かったのかと」

と言うとお義兄様は泣いた。


「そ、そう。アリス。君は優しいお人形さんだね!!ぼ、僕なんかの事を心配してくれる優しい…。昔からとても優しくて綺麗で……」

と嬉し涙に使用人やら従者も引くレベルなのを本人は気付いていない。


それからお義兄様は夏中怪我のせいであまり動けなかったが領地の報告やらをジョルジュさんから真剣に聞いたり問題点の改善策など、きちんとそっちの方はしていた。学園の課題もあっという間に終わらせた。元々頭はいいのか。

そりゃテストでわざと問題を間違える程だ。


「ね、ねえ…何か欲しいものある?アリス…」

ある日お義兄様は言う。


「べ、別にありませんわ…」

と言うと残念そうに肩を落とした。


「そ、そう…もうすぐ夏季休暇が終わっちゃう…。足の怪我でろくにアリスをお膝に乗せられなかった…悔しい。だからせめてプレゼントでもって思ったんだ…」


「そんなこと…気にしなくていいのですよ…」

と言うとお義兄様はいきなりハサミで少しだけ自分の髪を切った。どうせなら前髪を切ればいいのに。


そして髪を木箱に入れると


「こ、こここここれ僕の一部を君にあげる!!僕の可愛いお人形アリスへ!愛を込めて!」

とそれを渡されてしまう。

ええー!?正直いらないし怖いなと思ったけど貰うしかなく


「あ、ありがとう…ございます…お義兄様…」

と言うとお義兄様は照れて


「えへへ…うふふ…」

と口元を歪めて笑った。そして


「ねえアリス…学園に戻る前の最後の休暇日はずっと僕の側にいてくれる?」

と言う。


「え?ず、ずっとって!?」


「言葉通りだよ。僕学園で一人ぼっちなんだ。とても寂しいんだよ…お願い」

そう言うのに恐怖だけど逆らえない自分もいた。


「わ、わかりました…お義兄様…」

私はお義兄様の人形だ。断るとどうなるかわからない。刺激させるのは避けた方がいい。何をするかわからないもの。

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