歴史の裏側 英雄

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 魔法学校の先生が、教科書を読み上げる。


 それはとある昔の人物についての内容だ。


 今から数百年前。


 一人の英雄が、この地方に平和をもたらした。


 その英雄は、とても素晴らしい人間で、困っている人間は放っておく事がなかったそうだ。


 見返りを求めることなく行動するその姿勢は、現代の人間も見習うべきだとか、うんぬん。







 机に座って長い説明を聞いていた私は放課になった時に、当人に聞いてみた。


「うむ、あれは嘘だな」


 すると当人は、きっぱりと否定。


 さきほど先生から、歴史の人物について説明されたが、実はその人物が近くにいた。


 浮遊霊として学校の各所に出没していた。


 めちゃくちゃ気軽に、そこら辺を徘徊していた。


 たまにフランクに話しかけてくる。


 けれどどうやら彼は、霊感のある人間にしか見えないらしいから、日ごろは退屈しているようだ。


 だから私は、たまに彼の話し相手をしていたのだった。


 そのため、目の前の幽霊が、とてもそんな大層な英雄には見えなかった。


「ほーん、まだそんな事ならってるんだな。まあ、たまに生徒にまじって授業聞いてたから知ってるけど」


 その英雄は、歴史の裏側についてあれこれ話してくれる。


 本当はどうだったとか。


 実はこうだったとか。


 それは、自分自身についてもだ。


「俺はそんな大層な人間じゃなかった。でも他の人間は、英雄がろくでなしで、酒好きで、女遊びに忙しいなんて嫌だろ?」

 

 私はためらいもなく「うん」と頷く。


 幽霊はフランクに「ちょっとは否定しろよ」と反応。


 浮遊霊の英雄は、腕をくんで「実はな」と話を続ける。


 とても人には聞かせられない話を。


「国のメンツが保てなくなるから、歴史を書くやつが適当ぶっ書いたんだ。自分の国の偉人がろくでなしだなんて誰だって思いたくないだろうしな」


 幸いな事にこの学校で霊感がある人間は、私一人だ。


 通っている生徒には、英雄のファンもいるので、こんな英雄の言葉を聞いたら幻滅してしまう。


 霊感のない人間ばかりで良かったなと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

歴史の裏側 英雄 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ