0-5.「世紀の大発見だよ!」
きっかけの出来事があったのは約二ヶ月前。カラオケに行った帰り、カイトとリョウと真夏の三人で町をぶらぶらと歩いていた時のことだった。
突然雨が降って来た。
夏ならよくあることだが、3人とも傘を持っていなかった。急にすごい勢いで降り出した雨を避けるため駆け込んだのは、たまたま近くにあった古本屋。昔からあるのは知っていたが、入ったのはその日が初めてだった。
店の中はしんと静まり返っていた。音がする、といえば、外から雨の音が聞こえるくらい。客の姿はもちろん、普通ならカウンターにいるはずの店主の姿も見当たらない。
『誰もいない……入っちゃいけなかったのかな?』
『こんにちはー』
呼んでみたが、返事はない。三人はしばらく雨宿りさせてもらうことにした。
と、しんとした店内に、着信音が鳴り響いた。御井豆のご当地アイドル、アイミンのデビュー曲。真夏のものだった。
『どうしよう、出たほうがいいのかな』
『一応外出て話してこいよ。入り口のとこなら屋根あったろ』
リョウのアドバイスで、真夏は外に出て電話することにした。同じ講義を取っている友達、優雅からの電話だった。来週の授業、学生証を預けておくから出席を取っておいて欲しいと。真夏はご飯を奢ってもらう約束で、二つ返事でOKした。
五分くらい電話した後、真夏が店に入ると、カイトもリョウも何やら様子がおかしい。焦っているような、興奮したような……
『ふたりとも、どうかした?』
真夏の問いに、カイトとリョウは目を見合わせて。
『真夏!大ニュース!開いたら一瞬で場所移動できる本を見つけた!!』
『は?』
『なんか、本読もうと思ったら、ぱぁぁって光って!!!』
『気づいたらフランスにいたんだ!!!』
『ちょ、待て待て……おまえら大丈夫か?変な薬でもやった?いや、俺の変人が移った?てか俺でもそこまではいかないよ……?』
彼らはカメラロールに入った大量の写真を見せ、本当だと主張するが、真夏には、ふたりがおかしくなったとしか思えなかった。
–––数日後。
大学の図書館で本を読んでいると、リョウが話しかけて来た。話がある、と耳打ちするので、しょうがなく荷物をまとめ、リョウと共に外に出る。
『カイトから聞いたんだけど……バイト先に、よく来る女の子がいるらしいんだ。中学生くらいの』
建物を出た瞬間、カイトはそう話を切り出した。
『うん、DVDを借りたい人なら老若男女問わず来るだろうね。それで?』
『俺たち、その子と仲良くなりたくて……。どうしたらいいと思う?』
真剣な表情でとんでもないことを訊いてくるリョウに、思わず吹き出してしまった。
『ふたりとも……あの日からおかしいよ?兄弟揃ってどうしたんだい?』
『いや、違うんだ!誤解しないでくれ。これにはちゃんとした理由が……』
『理由?』
『うん。実はね、彼女はいつも時計を鞄につけて持ち歩いてるんだけど、その時計、僕らが見つけた本と関係があるんだ。詳しいことはわからないけど……彼女の時計があれば同時にタイムスリップも可能になるんだ!これは僕の予想だけど、過去改変もできるんじゃないかって思ってる』
タイムスリップ……過去を変える……過去改変。そんなことが本当に可能だというのか。SFの世界じゃあるまいし……
『実を言えば僕らはずっと彼女を探してた。彼女が持ってるあの時計はただの時計じゃない。彼女が鍵を握ってるんだよ!』
またその本の話か。
なんとなく察した真夏は、ふぅ、とため息をついて。
『……仲良くなるにはとりあえず話しかけること。で、連絡先交換、それから……』
『連絡先なら分かってる』
『は!?』
『連絡先……というか。彼女、有名なチャットアプリ……twinのアカウントを持ってるんだ。IDまで特定済み』
『それなら、ふたりともすぐアカウント作って。プロフィール欄に適当な自己紹介と彼女と同じような趣味を書いて近づくんだ。……どうやってアカウントを知ったのかは聞かないでおいてやるよ』
バイト中に携帯を覗き見でもしたのだろうか。美形で有名で、人気者のカイトとリョウの双子がそんなことをするなんて、きっと悲しむ人は多いだろう。
『じゃあ……真夏も手伝ってくれる?』
『ごめん、パス。変なことに巻き込まれたくないし』
即答した。例えどんなに可愛い女の子だろうが、相手は中学生である。これは反則だ。多分世間一般的にアウトなやつだ。
『そう言うと思ったよ……いいさ、真夏、ちょっと来て』
『また移動!?』
不満を言いながらも少しワクワクした気分でリョウについていく。向かった先にあったのは、人気のない場所にある倉庫の裏だった。
『ここ、防犯カメラの死角なんだ』
そう言ってリョウはリュックを下ろすと、その中から一冊の本を取り出した。題名だろうか、アルファベットのようなものが書いてあるが読み取れない。かなり古い本らしく、表紙はぼろぼろで、ページの部分は黄ばんでいた。
『その本って、まさか』
『ビンゴ。こっそり古本屋から持ってきたんだ……お金払おうにも人いないし。カイトは今バイト中だから、付き添いは俺だけだけど……本当だって証明してやるよ。真夏、準備はいいかい?』
何も準備するものはないし、半信半疑だった真夏は、とりあえずうなづいた。
『じゃ、いくよ』
リョウが本を開いた、その瞬間。
本から光が飛び出し、2人を包み込んで––––
『––––!!』
目を開くと、見知らぬ街の中に立っていた。
カイトが見せてくれた写真に写っていたのと同じような景色。西洋風の建物に、行き交う外国人、飛び交う聞き慣れない言語。
『嘘……』
まさか、本当にフランスに……?
『な!?本当だっただろ!?ここはフランスだ、真夏!!!』
興奮したリョウにすごい勢いで肩を揺さぶられ、ますます頭の中がぐちゃぐちゃになる。
『世紀の大発見だよ!これ、もう少し上手に使えるようになれば、過去も未来も自由に行き来、かつ自由に変えられるようになるかもしれない!』
『ここは現実……?』
『もちろんさ!』
リョウは迷いなく、はっきりと肯定する。
混乱した頭で、真夏は無理やり、結論を導き出した。
これは。
これは……
『……最高じゃないか!!!』
リョウのハイタッチに応じ、狂ったように笑う真夏。通行する人たちがふたりを変な目で見て通り過ぎていくが、そんなことは気にならない。過去も未来も、全てが自分のものになったかのような感覚が、高揚感が、真夏を襲った。
––––そう、全ては自分のもの。
『リョウ!俺、さっきの女の子のこと、協力する。何でもするよ!』
『よしきた!そう来なくちゃ!』
そこからは、事はトントン拍子に進んだ。友達を作るのが上手な真夏の助けもあり、彼女とその友達をチャットのグループに誘い込むことに成功した。優雅にも協力を仰ぎ、チャットルームのメンバーを彼女とその友達以外皆協力者で固めた。そして約2か月の時を経て、花火大会というイベントを利用し、ついにオフ会と称して堂々と彼女に会うチャンスを掴みとったのである––––
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