第61話 友達
「でも鈴菜さん、たまにはどこかに一緒に出かけたいんじゃないの。お前との思い出をいっぱい作りたいんじゃないかと思って。それは、お前の方も同じだと思うけど」
「うーん。それは考えないわけじゃないんだけど。俺もサッカーで時間がなかなか取れないし」
「そうは言っても、高校生活はあっと言う間に過ぎちゃう、って言うし。まあ思い出自体は、これからも作れるだろうけど、高校生だからこそ作れる思い出もあるだろうからな」
「お前のいう通りだよな。高校生活も長いように短いっていうのはよくわかるよ。本当は、毎週にでも出かけたいくらいと思っているんだ」
「やっぱりアツアツだね」
「いや、そういうわけじゃなくて……。ほら、一緒にいると楽しいっていうか、なんというか、友達ならそういうのってあるだろう。彼女はそういう友達だから、一緒に出かけたくなるんだよ。男どうしだって男女だって、それは変わらないと思うんだけど」
「言っていることはわからないわけじゃないんだけど、やっぱり彼女のことが好きだから楽しいんじゃないの?」
「もちろん彼女のことは好きだよ。でもそれは友達として……」
「うん。それはわかった。でも彼女、怖いところがあるんじゃないの? いつもお前のこと学校では怒っているから」
「そうだな。そこはお前の言う通りだ。彼女、一緒に出かけていても怖いところが多いんだよ。俺がちょっときれいな女の子に見とれていたりすると、すぐに怒り出しちゃうんだ。そして、俺のほおをつねる。全くちょっとぐらい、なんで許してくれないんだろう……」
優七郎は、俺から見ていても、軽いところがあり、きれいな子がいるとついついそちらに目がいってしまう。
彼自身は、決してそういう子たちに恋心を持つというわけではない。鈴菜ちゃん一筋なのだが、その心とは別に、きれいだと思う子には、どうしても、いいなあ、と思ってしまうところがあるようなのだ。
鈴菜さんの、頬をつねる気持ちはよくわかる。
サッカー部での活躍で、この頃ますます女の子の間での人気が高まりつつあるし、ただでさえ、恋心ではないとは言っても、きれいな人にちょっぴり心が動かされるところのある男。
誰か他の女の子が、猛烈なアタックをかけて、彼と恋人になってしまうかもしれない。
鈴菜さんとしては心配になってしまうのだろう。
優七郎のことを好きであればこそ、独り占めしたくなるのだと思う。
ただ優七郎は、鈴菜ちゃんのことが好きだ。鈴菜ちゃんが思っている以上に、優七郎は鈴菜ちゃんのことが好きだ。
優七郎が他の女の子に恋することはないと思う。
相思相愛の二人。ちょっと過剰かもしれないが、愛情表現をしてくる恋人、
こういうところは優七郎がうらやましい。
「それは、彼女の愛情表現だと思うよ。好きでたまらないから頬をつねったりするんだよ。
お前だって、それが結構好きになってたりするんだろう?」
「それはあるかもな。まあ愛情表現じゃなくて友情表現と言ってほしいけどな」
「友達の間では、そういうことは普通しないと思うけど。頬をつねるぐらいになるのって、友達くらいじゃ難しいよ」
「そうかなあ」
「だって、俺とお前の間だって、仲がいいけどそんなことはしないだろう?」
「そりゃそうだな」
「じゃあ、愛情表現ということでいいかな」
「いや、それでも友情表現だ」
と言って優七郎は笑い出す。
「まあ彼女と出かけるのはもう少し先になりそうだ」
「夏休みまで待つのか?」
「できればそこまでに出かけたいんだけど」
「それがいい。彼女だって、心の中ではそう思っているよ。仲をもっとよくする為に、出かけた方がいいな」
「ありがとう。俺達の仲を心配してくれて」
「いや、俺が言わなくても、どこかで出かけたりするだろうけど、お前もサッカーで大変そうだから、ちょっと気になってね」
「お前は、忘れているんだろうけど、結構俺にアドバイスをしてくれたり、心配してくれたりしてくれて、ありがたく思っているんだ」
「なに言っているんだよ。俺なんか何もしてないよ。今日の話だって、別にアドバイスってことじゃないし」
「いやいや、お前に言わればきゃ、鈴菜ちゃんと一緒に出かけるのは、夏休みになっていたかもしれない。毎週出かけたいという気持ちはあっても、夏休みまでは無理だなあ、と思っていた。現実には難しいかもしれないけど、その間に出かける計画自体を立てないのは、彼女を悲しませることだからな」
「まあとにかく、少しは役立ってくれたんならそれでいいよ。でも俺の方こそ、小由里ちゃんのことでは相談させてもらってありがたいと思っている。長年一緒にいるお前じゃないと相談できないことだからな」
「それくらい友達なんだからあたり前だろう。小由里ちゃんは俺の幼馴染でもあるんだし、二人が想い合って、関係が恋人どうしにまでなってくれることを、誰よりも願っているんだよ」
「そうだな。お前の期待にも応えていかないとな」
「そう言ってくれるとうれしい」
優七郎は、そう言って、また微笑んだ。
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