第60話 連休の後
さわやかな風が吹いている。
ゴールデンウイークは終わった。今日から学校。
朝起きるのはつらいが、家事をしなければならない。誰もやってはくれないのだ。
休みの間は、それでも、自分の気の向いた時間に家事をこなせばよかった。
普段は、家事とか勉強で、それほどとれないゲームをする時間も、結構長くとることができた。
気候もよく、俺にとってはすごしやすい時だった。
もう少し寝ていたい気がするが、そうも言ってられない。
眠い目をこすりながら、朝食を作り、食べていく。
今年のゴールデンウイークは、俺にとって、女の子と初めて出かけるということがあった。
恋人どうしではないので、デートとは言えないが、出かけたこと自体は楽しかった。
そして、弥寿子ちゃんのからだの柔らかさをより感じることができた。
いや、これ自体は、彼女がいつも以上に体を押し付けてきたからで……。
小由里ちゃんのことは、どうしても考えなければならないが、それと切り離して考えることができるのであれば、いい時間をすごせたと言えると思う。
でも俺の心の中には、小由里ちゃんへの想いがいつもある。切り離すことはやはりできない。
弥寿子ちゃんの誘いも、断るしかなかった。
これでよかった、と思う反面、彼女の想いに応えるべきだったのでは、ということも思わないことはない。
それでも彼女は、めげずに、「好き」だとルインを送ってくる。
これからも毎日送ってくるのだろうか。
彼女の一途さに、心は少しずつ動き出してきている気がする。
小由里ちゃんともルインをすることができるようになった。
俺も彼女に、「好き」って書いて送ってみようか、とも思う。
しかし、それは彼女の場合、逆効果になりそうな気がする。
そう思いながら食べていると、いつもより食べる時間が長くなってしまっているようだ。
これじゃいけない、と思い、スピードアップをするのだった。
「せんぱーい。おはようございます」
学校に入り、教室に向かっていると、弥寿子ちゃんから声をかけられた。
「お、おはよう」
「わたし、残りの休みの間、先輩と会えなったので寂しかったです」
「そ、そう? ルインしてたじゃない」
「やっぱり本物と接しないと。ルインのやり取りだけじゃ足りませんよ。本物の先輩がいいです」
こういうことを言われると、どうしても胸がドキドキしてくる。
「それじゃ、部活で。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる。
「よ、よろしく」
彼女はにっこりと笑って、自分の教室へと向かった。
彼女は、「本物の先輩がいいです」と言っていたが、俺も本物の彼女がいいなあ、と思う。
いや、ルインでやり取りしているよりも、こうして実際に話をした方がいいという意味で……。
さて俺は小由里ちゃんにあいさつに行かなくてはならない。
ルインでやり取りをするようになったのは、前進といえるだろうが、それをさらに前進させるには、彼女と向き合ってのコミュニケーションが大切だ。
荷物を自分の席に置いた後、彼女の教室に向かう。
そして、彼女が教室の外に出てくると、
「おはよう」
と声をかける。
「お、おはよう」
今までは、明るい微笑みで返してくれたのだが、今日は違う。
微笑んではいるのだが、少し顔が赤くなっているようだ。
彼女はそのまま歩いてこの場を去っていく。
ルインをし始めたので、俺のことを今までよりも意識し始めたのかなあ。それとも、今ちょっとだけ意識しただけなのかなあ。
まあ、ルインの方は、まだ世間話程度だけど、それを続けていけばその内、恋の話も出来るようになるかもしれないし。
少し関係が進む可能性が出てきたのかもしれない。
そう思いながら、俺は自分の教室に戻っていった。
そして放課後。
サッカー部の部室の近くに俺と優七郎は来ていて、話をしていた。
「そうか。ほとんどサッカー漬けだったんだな」
優七郎のゴ-ルデンウイークは、部でのサッカーの練習と試合に費やされたということだ。
「つらかっただろう」
「まあそうだな。練習は結構きつかったし。でも毎日彼女がきてくれて」
「彼女って誰だ?」
「お前も知ってる子だよ」
「うーん、思いつかないなあ」
「いつも俺のこと怒ってる子だよ。俺の頬をつねったりして」
優七郎は少し顔を赤くする。
「ああ、あの子ね。林町さん」
「そう。鈴菜ちゃん。彼女、毎日来てくれて、お弁当を作ってくれたんだ」
「いいね。うらやましい。お弁当もおいしんだろう」
「そうなんだよ。疲れた体も元気になるっていうか」
「彼女の愛がこもっているって気がするな」
「それはすごく感じる」
「愛妻弁当というところだね」
「そう言ってもいいな、って、俺と彼女はそこまでの関係じゃない。友達、友達」
さらに顔を赤くして手を振る優七郎。
優七郎は、鈴菜ちゃんとは、恋人どうし以外の何物でもないのに、友達と言い張る。
鈴菜さんのことを、恋人と言いたいという気持ちはあるが、それを恥ずかしいと思うということなのだろう。
友達といいつつも、いつも顔を赤くしている。
彼女のことがすごく好きなんだなあ、という気持ちは伝わってくる。
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