第57話 森海ちゃんからのお願い (小由里サイド)

 わたしは、今日森海ちゃんに屋上へ呼び出された。


 何を伝えられるのかな、と思いドキドキしながらそこへ向かった。


「恋人として付き合ってください」と言われるのだろうか。


 でも、彼と恋人どうしには、まだなれないと思う。


 なぜだろう、と思う。


 わたしも年頃の女の子。恋というものにはあこがれる。相手は、森海ちゃんだったらいいな、と思っている。


 でも、なかなか森海ちゃんのことを恋の対象として見ることのできない自分がいる。


 居駒さんという、彼のことを慕っている子のことに、どこか遠慮しているところがある気がする。


 そして、彼のことをどうしても幼馴染としてみてしまって、好きは好きでも恋という意味での好きになっていないことに、その時も気がついたところはある。


 そして今日。


 彼はなかなか話し出すことができない。


 ここまで緊張しているということは、やっぱり、「恋人として付き合ってください」と言いたいのではないか、と思う。


 もしそう言われたらどうしょうか。


 正直いって、まだ心の準備が整わない。それを受け入れるのはもう少し時間が必要だ。


 でもそれでいいのか、という気もする。


 このままだと、弥寿子さんが彼の心に占める割合がますます大きくなってしまう気がする。


 どうしたらいいんだろう。


 と思っていると、別の考えが心の中に浮かんできた。


 もしかすると、「一緒に出かけたい」と言おうとしているのかもしれない。


 前回からそう時間が経っていないので、仲をもっと深める意味でそう思っているのかもしれない。


 デートするというところまでは、思っていないと思う。


 そうであれば、「恋人になってほしい」と言われるよりは、まだ敷居は低い気がする。


 デートとなると敷居は限りなく高くなってしまうので、森海ちゃんもそこまでは思っていないだろう。


「お出かけ」であれば、仲のいい幼馴染や友達とだったら、それくらいはするだろうと思う。


 とは言うものの、わたしにとってはハードルが高いことには変わらない。


 今の状態だと、多分いろいろ意識してしまって、彼にわたしの嫌な面を見せてしまう気がする。


 恋というところまでお互いが行っていれば、そういうところも含めて受け入れられるのだろうが、今の状態だと難しいと思う。


 そうすると、彼に本格的に嫌われてしまい、せっかく修復してきた幼馴染としての関係まで壊れてしまうのではないかと思う。


 もし「お出かけ」の話があるとしても、今は無理だなあ、と思っていると。


 彼の顔色がよくない。


 途端に、彼の体と心の調子が心配になった。


 もしかしたら、今思っていること以外に困っていることがあるのかもしれない。


 そう思い、


「せっかく仲直りしたんだし、困っていることがあったら、力になるわ」


 と彼に言った。


 すると彼は、


「困っていることがあるわけじゃないんだ」


 と言う。


 彼のその一言でわたしはホッとする。


 そして、


「『力になる』って言ってくれてありがとう」


 と言ってくれた。


 幼馴染なんだから、そう言って、元気づけるのはあたり前だと思う。


 では困っていることがなかったのなら、どうしてわたしを呼び出したのだろう。


 やっぱり、「恋人として付き合ってほしい」と言うのか、「一緒に出かけたい」と言うのか。


 どちらにも今の時点ではOKと言えないわたし。


 もう少し時間がほしい。もう少し時間があれば、わたしの想いも整理できるのに、と思う。


 今は彼の言葉を待つしかない。


 胸がドキドキしてきて、苦しくなってくる。


 すると、予想外の言葉が聞こえてきた。


「メールのやり取りか、ルインのやり取りをまたしたいんだけど、どうかな?」


 彼の一生懸命さが伝わってくる。


 わたしとそこまで連絡を取り合いたいんだ。


 そう思うと、うれしくて少し涙が出てくる。


 森海ちゃんとは、今までメールのやり取りをしたことしかない。それも回数としてはたいしたことはなく、ここ二年間はそれさえもなかった。


 ルインとなると初めてになる。


 このやり取りをするかどうかも、わたしは初め悩んだ。


 森海ちゃんと文字だけのやり取りで、果たしてやっていけるかどうか、というところがある。


 言葉だけだと、すぐにやり取りが止まってしまい、それがわたしのことを嫌う原因になってしまうのでは、という懸念がどうしてもある。


 これも断るべきだろうか。でも断ったら断ったらで森海ちゃんはつらいだろうし……。


 森海ちゃんは、頭を下げて、わたしにお願いをしてくる。


 わたしとやり取りしたいという気持ちが、どんどん伝わってくる。


 ここまでお願いされているんだ。わたしともっと仲良くなりたい、という気持ちを強くもっているんだ。


 その気持ちはわたしだって同じ。だったら断る理由なんかないはず。


 わたしは決断し、メールやルインのやり取りを彼とすることにした。


 とにかく、やり取りをしなければ始まらない。最初はうまくいかなくても、なれていくしかない。毎日、やり取りをしていこう。それが仲を深めるには一番いい。わたしもそれを続けることによってもっと彼のことを好きになっていきたい。


 森海ちゃんとやり取りができる、とうれしい気持ちになりながらも、今後のことを思うわたしだった。

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