第18話 森海ちゃんへの想い (小由里サイド)
「優七郎くんにそんな一面があったなんて」
「そうでしょう。いつもの優七郎くんからは考えられないような姿だったんで、なんと言っていいのかわからなかった。そのまま泣き続けていたから」
「すごく悔しかった、って言うことだよね」
「わたしも涙が出てきちゃったんだけど、少し経った後、やっと、『いいのよ。優七郎くんは精一杯プレーしたんだから。見事なシュートも決めたし、胸を張っていいのよ』と言葉をかけることができた。優七郎くんも、やっと泣き止んで、『ありがとな』と言ってくれた」
「二人の心が通じ合った、というところね」
「それは言えるわね、って友達だったら、それぐらい当たり前でしょ」
「それはそうよね」
「でもわたし、それからますます優七郎くんのことが気になっちゃった。サッカーの試合があれば全部見に行くようにしてるし、その時はお弁当を作ってあげたりもしてるわ」
これも今まで全然知らなかった。
「でもいつもは作っていないんでしょ」
「それが、ね、昼のお弁当も作ってあげようか、って言うんだけど、『俺のイメージが壊れちゃうし、なんだか恥ずかしい』って言って断ってるのよ」
「優七郎くんなら言いそうだね」
「わたしの方は全然気にしてないんだけどね」
「でも、試合を見に行って応援して、お弁当まで作ってあげるんだから、すごいよね」
「いや全然たいしたことはしてないよ。わたしがしたくてしてるだけだから」
「それって、優七郎くんのこと、好きじゃないとできないよね」
「うん。好きだからできるんじゃないかと思う、って違う、違う。わたしはただ優七郎くんが気持ちよくプレーしてほしいだけよ」
「でももう恋人どうしのようなことをしている気がするけど」
「違う、違う、友達よ、友達」
一生懸命手を振って、恋人じゃないことを主張する鈴菜ちゃん。別に恋人なら恋人でいいじゃない、と思うんだけど。
「まあでも、恋人かどうかはともかく、相思相愛になってきたということは言えるんじゃないかなあ」
「そう。それは言えるわね、って、ち、違うわよ。別に優七郎くんと相思相愛ってわけじゃないんだから。好意はあるけど」
「好意があるってことは好きだってことだよね」
「だから、好きじゃなくて好意だって……」
「じゃあ、そういうことにしましょう」
わたしは微笑みながらそう言った。
「わたしと優七郎くんのことはもういいわ」
「もっともっと聞きたいんだけど」
「それはまた別の機会に、って、そんなに話すことなんかないわよ」
さらに顔を赤くする鈴菜ちゃん。
「それよりも小由里ちゃんの話が聞きたいわね。今付き合っている人とかいるの?」
「わたし? うーん。いないわね」
「好きな人とかはいるんでしょ?」
「いないことはないけど」
わたしがそう言うと、彼女は目を輝かせて、
「えーっ、誰、聞きたいなあ」
と言ってくる。
わたしは一瞬躊躇する。恥ずかしい気持ちが大きい。
でも、鈴菜ちゃんになら言ってもいいと思った。
「海島くんよ」
「海島くん?」
驚いた様子。
「そうよ。彼と幼馴染だったのは鈴菜ちゃんも知っているでしょ」
「うん。知ってる。でも、今はほとんど話もしていないようだけど」
「それはね……」
森海ちゃんとのことを簡単に話す。
「そうか、それで今は疎遠になってるのね」
「わたしもどうしたらいいのかわからない、って言うか」
「でも好きなんでしょ」
「そうなんだけど、その気持ちも本物かどうかわからないの」
「なるほどね」
「鈴菜ちゃんだったらこういう場合どうする?」
「そうね、わたしだったら、とにかく彼に自分の想いをぶつける。そして、彼の想いを聞くわ。それで脈なしだったらすっぱりあきらめる」
「大胆ね。わたしには無理かも」
「いや、恋というものはこれくらい積極的にやらなきゃだめなのよ」
力強く言う鈴菜ちゃん。
「でもわたしの場合、わたしが彼のこと『嫌い』っていっちゃったから。わたしからは言いにくくて」
「小由里ちゃんの場合は、確かに難しそうね」
真剣な顔をする鈴菜ちゃん。
「やっぱりそう思う?」
「うん。難しい気がする」
「わたしがあの時、あんなことを言わなきゃよかったのかなあ」
「いや、そんなことはないわ。わたしがもし小由里ちゃんの立場でも、『嫌い』って言っていたと思う。わたしだって、他の子のことが好きだから告白したい、と言うことを、優七郎くんに言われたら、『嫌い!』と言って泣いちゃうわよ」
自然に優七郎くんへの想いをわたしに言っている気がする。
「とにかく、小由里ちゃんは間違っていない。ただお互いのその後のフォローがうまく行っていればよかったと思うけど」
「まあわたしも感情的になっちゃたんだけどね。もっと、穏やかに話すことはできなかったのかなあ、と思う。それに、鈴菜ちゃんが言う通り、お互い仲直りをしようとはしなかったし、わたしの方から、あの後、あまり時間が経っていない間に声をかけていれば、ここまで疎遠になることはなかったと思う。いつもはそんなことないんだけど、森海ちゃんには、つい意地になるところがあって……。わたし、何をやってるんだろう、と思うこともあったわ」
「小由里ちゃんは、やっぱり優しいね」
「そうかなあ」
「優しいよ。海島くんの立場になって考えることができてるもん。優しいから、まあ、さっきは、『わたしだったら想いをぶつける』って言ったけど、小由里ちゃんの場合は、まず友達から改めて始めた方がいいと思う」
「その方がいいのかなあ」
友達から始めたとして、恋人どうしになれるのにどれくらい時間がかかるんだろう。
一年くらいはかかるのかもしれないと思う。
そんなにかかってほしくはない、と思っているけれど。
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