第17話 鈴菜ちゃんと恋の話 (小由里サイド)

 わたしは、森海ちゃん好みの女の子になる、そうした努力を続けている。


 今度こそ、相思相愛になりたいと思っている。


 とはいえ、関係が壊れてしまってからもう二年ほどになっていて、結構長い時間が経っていた。


 まずは、もう一度友達からというところだと思う。


 でも先が長い話。


 わたしも、まだあの時のことを完全に忘れたわけではない。


 今、もし彼に告白されたとしても、素直に受け入れることができるかどうか、わからないところがある。


 彼のこと以外なら、こんなに心を乱すことはないと思う。


 まわりの人からも、おしとやかで、怒っているところを見たことがない、とよく言われる。


 そんなわたしが、彼にだけは感情的なところが出てしまう。


 それだけいつの間にか、彼のことが好きになってしまったのだと思う。


 幼い頃だったら、もっと素直になれたことが、好きになってしまった為に、なれないことが多くなっている、そんな気がする。




 今日、鈴菜ちゃんと恋の話をした。


 恋の話自体は、今までもしなかったわけじゃないけど、具体的な話は初めてだった。


 森海ちゃんとの関係をこれからどうしていくべきか、という相談の意味が強かったように思う。


 彼女とはだいぶ親しくなって、砕けた会話をするようになってきた。もう親友といってもいい存在だと思っている。


 鈴菜ちゃんの家に行き、彼女の部屋で恋の話を咲かせる。


 部屋にはかわいいぬいぐるみが置いてある。


 わたしたちはソファに座った。


 テーブルには紅茶とお菓子が置いてあり、いい雰囲気。


 まずは、優七郎くんの話から。


「鈴菜ちゃんって、優七郎くんのこと好きなんでしょ?」


「うん? なんのこと?」


「だって、いつもけんかしてるじゃない」


「だって、いつも優七郎くん、だらしないじゃない。だから気になっちゃって」


「でも気になるってことは、好きだということなんでしょ」


「うーん、どうなんだろうね。そりゃ、優七郎くんのこと、いつも気にしてるわ。特にサッカーをやってるでしょ。けがをしないかどうか心配で、心配で」


「へーえ。いつも心配してるんだ」


 そう言うと、彼女の顔は赤くなっていった。


「いや、わたしたちって。中学校一年生からの知り合いでしょ。そのよしみよよしみ」


「ただの知り合いだったら、そこまで心配しないと思うんだけどな」


「そうよね」


 鈴菜ちゃんは、紅茶を少し飲んだ後、続けて言う。


「小由里ちゃんにだから言うけど、わたし、優七郎くんのこと、初めてあった時から、運命の人だと思ったの」


「運命の人?」


 わたしはその言葉に驚いた。普段の彼女は、そういうタイプではないように思ったから。


「そうよ、運命の人。でもわたしも素直じゃないっていうか、まあそれより、だからこそ優七郎くんのだらしなさが、どうしても気になっちゃって。それで、毎朝のように怒るようになっちゃったの」


「そうだったんだ」


「優七郎くんの方は、最初は言われるのを面倒くさがっていたと思う」


「まあ、でも言われたら直さなきゃいけないよね」


「そう。でも優七郎くん、ある時から少し笑うようになってきたの。多分、わたしの言うことを楽しむようになったのね」


「その時どう思ったの?」


「ちょっと腹は立ったけど。わたしは、優七郎くんのことを思って言っていたつもりなのに、笑うとは、って思ってね」


「その気持ちはわかるなあ」


「でも優七郎くんは、わたしとのやり取りを、もしかしたら楽しんでいるんじゃないか、と思ったの。わたしの方も、毎日言っている内に、いつの間にか優七郎くんのこと自体が気になりだしたのね」


「なるほど」


「それで、少しずつ話すようになってきたんだけど、結構話題が合ったりしたの。根本的に気が合う、というところがあったのね」


「気が合う、ね。恋人みたいな感じだね」


 わたしが微笑むと、彼女は、


「ほら、よく気が合う友達、とかいうじゃない。恋人とかじゃなくても」


 とあわてて手を振る。


「まあね。それはそうよね」


「それで、優七郎くん、サッカー部に入っていたじゃない。見に来てくれって言うから行ったんだ。中学校三年生の時だったわ」


 これは初耳だった。中学校の頃から見に行っていたんですね。


「優七郎くん、『俺はサッカーで活躍してるんだぜ、だらしないところしかない人間じゃないんだ』っていつも言ってたから、どういうプレーをするのか見ておきたかったのよ。ただそれだけ。別に好きだからとか、そういうことじゃないわ」


 いや、どうみても、その頃に彼のことを好きになっていたんでしょうね。


「それで何試合か見たの。優七郎くん、自分で言うだけあって、シュートを毎試合決めていたわ。かっこいいと思った」


「やっぱりかっこいいんだ」


「そうそう。こんな感じでね」


 実演をまじえて説明をする鈴菜ちゃん。


「それで勝ち続けていたんだけど、予選の途中で負けてしまったのよ、まあ、それほど強い中学校じゃなかったから。でも残念だったわ」


「つらかったでしょうね」


「うん。でも優七郎くんは、一生懸命、他のみんなを元気づけていたわ」


「優七郎くんって、そういうところあるよね。みんなのことをいつも考えているっていうか。幼い頃からそうだったわ」


「その後、優七郎くんのところへ行ったの。そうしたら、涙を流して、『ごめん。お前にいいところを見せられなくて』と言って頭を下げるの。そんな姿を見るのは初めてだったから、わたしも胸がつまっちゃった」

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