第23話 10日目 2022年5月23日 (月)

 朝四時半に目が覚めた。相変わらず起き上がるのに体が痛い。こうなると昨日注文した電動ベッドが早く到着することを望むばかりである。

 ベッドから這いだすようにして起き出して朝食をいただく。くるみパンのバタートースト、それと目玉焼き・・・。退院以来、代り映えのしない食事ではあるが、くるみパンは意外とおいしい。僕はトーストとかあまり食べない方で、朝食も白米9・玄米1で炊いたご飯を食べていたのだが、玄米は消化に悪いらしい。それで白米を炊くか、マフィンとかくるみパンとかを買って食べている。

 それにしてもドイツとかフランスとかのパンは美味しかった。日本のパンはどうしても柔らかさを追求するのであまり口に合わない。以前娘夫婦が高級食パンというものをお土産に買ってきてくれて食べたけど、あれはパンではない。菓子だ。・・・と流行に棹をさすような頑迷な爺さんになりつつある。

 メゾンカイザーのバゲットとかは時折買ってムール貝やシチューと一緒に食べるけど、それ以外では滅多にパンは買わなかったものだが。最近はPascoさんにお世話になりつつある。ぎりぎり小麦粉の香ばしい匂いがする。ああ、ドイツのゼンメルが食いたい、パリのレストラン、アルザスのバゲットで作ったサンドイッチを食べたい・・・。

 

 CDを漁っているうちに、久しぶりにワーグナーでも聴いてみるか、となった。僕の中ではワーグナーとシューベルトは夜の音楽であり、とりわけシューベルトは朝聴くその日良くないことが起きる(個人的な迷信である)。ワーグナーはそんなことはない。ハンス クナッパーツブッシュの指揮したワルキューレで歌手は稀代のワーグナー歌手と言われるフラグシュテットのもの。

 それとベートーベンのヴァイオリン協奏曲。キュンファ チュンがテンシュテットと演奏した盤である。ベートーベンのヴァイオリン協奏曲の個人的な一番押しはこの演奏ではないけれど、一般的にはもっとも勧められる演奏で、とても繊細なヴァイオリンだ。クラウス テンシュテットの指揮も見事でこの指揮者はもっと評価されても良い。ベートーベンやブラームスはベーム、カラヤンを始めとしたひと世代前の指揮者が亡くなった後、もっとも正統な演奏をする指揮者の一人はこの人だ。


*Richard Wagner Die Walcure act 1

Set Svanholm/Kristen Flagstad /Arnold van Mil

Wiener Philharmoniker Hans Knappertsbusch Decca 425 963 2

*Luidwig van Beethoven Violinkonzert D-dur/ Bruch Violinkonzert Nr.1 g-moll

Kyung Wha Chung

Royal Concertgebouw Orchestra/The London Philharmonic

Klaus Tennstedt EMI CDC 7 54072 2


 クナッパーツブッシュの指揮は、落語家にたとえれば古今亭志ん生のようなもので、気が乗るときは乗るし、乗っている時は不思議な魅力が出て、もうこの人じゃなければというリスナーが現出するのは仕方ない。このワルキューレなんかも名演の一つであると思うが、じゃあ、音楽を聴き始めたばかりの人にころをベストとして勧めるかというと、そでもないかなぁ、と思う。

 やっぱり、初心者には息子の志ん朝を勧めたい。「火炎太鼓」なんて演目を聴くと、古今亭志ん生なんか、途中でなんか話がわけがわからなくなる時がある。これは演者が訳が分からなくなっているんじゃなくて、道具屋と道具屋のカミさんが訳がわからなくなっているのを志ん生が演じているんだ、と思うようにしているけど、演者が訳が分からなくなっているようにも聞こえないでもない。

 その点、志ん朝の噺は分かりやすい。落語の愛好家なんて言うのは話をみんな知っているもんだから、分かりやすくする必要なんてないのだけどね。でも志ん朝みたいなきちんと噺をできる人は本当に必要で、圓生とか志ん朝とかそうした筋のある落語家を落語界は大切にしなければいけない。最近の落語界をみていると、ちょっと心配になるけどこれはクラッシク音楽の世界でも同じ状況だ。

 それこそテンシュテットのような人は大切にしないといけないのだ。そのテンシュテットの指揮に支えられたキュンファ チュンのバイオリンはベートーベンもブルッホも、ライブレコーディングとは思えないほどの高い完成度で嫋嫋じょうじょうと弾ききっていてやっぱり感心する。こんな繊細で感情の籠った演奏はなかなかできるものではない。


 昼前に買い物に出た。どうも気怠い。熱を測ると35.1°、上の血圧が98しかない。この間と同じでなんだか死にかけのような数字である。手術の影響なのだろうか、今までこんな気怠さというか無力感はあまり感じたことはない。

 疲労感をおしてかちりを添えたスパゲッティーニ アリエオリオを作る。これはシラスよりカチリの方が断然おいしくできる。ニンニクはたっぷり二欠片、唐辛子と塩は控えめに・・・うん、旨い。旨いのだけど・・・喉に閊えた。この間もそうだったけど、パスタは喉の閊えの天敵らしい。うどんやそばではならないので、これは長さや硬さという形状に由来するのだろう。がっくりだ。


 武蔵小山まで散歩し、その帰りに近くにできた有名パティシエの店でガレットブルドンヌを購入。ICUで世話になったKさんにお礼をするのに手ぶらというわけにもいかないし、おいしかったら手土産にしようと思っての試し買い。

 軽めの生地の焼き菓子となっていて、高級感はあるけど好みで言えばもう少しアーモンドの香りが欲しいかなぁ。一個あたり牛丼一杯という値段の比較は貧相かもしれないけど、そのくらいの値段をするものはやっぱり見る目は厳しくなる。

 それに箱まで高いなぁ。自由が丘の店とどっちにしようかなぁ。と悩むこととする。


今日は11,677歩。このぐらいの歩数だと夜になっても疲れを感じるという事はなくなった。夜の体温は35.8℃。血圧は112/71、脈は64であった。

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