かわいい俺が親友のハーレムラブコメを滅茶苦茶にする話
ヒトリゴト
第1話
4月、まだ寒さが残る。
自転車通学で冷え切った体をさすりながら、駐輪場から昇降口へ向かう。
「みんなと一緒のクラスだといいなぁ」
私は白い息に希望を混ぜ込みながら呟いた。
今日から新学期が始まる。1年生の時には色々あったけど、無事に進級することができた。この制服もすっかりと体に馴染んだ気がする。
「今年も陽貴くんと同じクラスになれるといいなぁ」
無意識出た独り言に私は思わず首を振った。
陽貴くんと同じクラスになるのが嫌なわけではない。ただ、気恥ずかしさが溢れて来たのだ。
私の好きな人。
心の中でそんな風に言葉を浮かべて見るだけで恥ずかしくなる。そのまま心がどこかに飛んでいってしまいそうなほど、軽やかな言葉だ。
陽貴くんには色々助けてもらった。だから好きになった。私としては、物語が1つ書けてしまいそうなほどのことだったけれども、それだけで好きになってしまうなんて、我ながらチョロいと思わずにはいられない。
希望を胸に、少し軽くなった足が立てる音も小刻みになっていく。
昇降口の前にある掲示板には人だかりができていた。クラス表が貼ってあるのだけだ、あれではとても見に行けない。電車通学の人たちと時間が被ってしまったのかなぁ。
もう少し人がはけてから見に行こうと思っていると、人だかりの中から見知った顔が出てきた。
私は胸の前で小さく手を振った。相手——つまり六花ちゃんも気がついてくれた。ぱぁっと、きっと漫画ならそんな効果音がついた様子で、小走りで寄ってきてくれた。
……私も小さいわけじゃないけど、セーターとブレザーに阻まれてなお揺れるモノを見ると、六花ちゃんは本当に大きいのだと思う。
大変だとは思うけど、羨ましくもある。
「おはよう、六花ちゃん」
「おはよー結」
六花ちゃんは満面の笑みで、まさに太陽と言った感じで挨拶を返してくれた。六花ちゃんの明るさには私もいつも助かっている。
「結は今来たの?」
「うん。クラス表を見ようと思ったんだけど、混んでるからもう少し空いたからにしようと思ったところだよ」
「そーなんだ! じゃあこれ一緒に見よう」
六花ちゃんはそう言ってスマホの画面を見せてくれた。
「写真撮って来たんだ。ゆっくり見たいし」
「ありがとう。じゃあ見ようか」
「同じクラスだといいね」
「うん」
六花ちゃんとは去年も同じクラスだった。最初はあまり関わりもなくて話さなかったけど、ある出来事を経て仲良くなった。気がつけば1番話す相手になったと思う。
1組から順番に見ていく。徐々に知ってる名前も出てくるけど、私の名前も六花ちゃんの名前も、それから陽貴くんの名前もまだ出てこない。
六花ちゃんは知ってる名前を見るたびに反応していて、かわいらしいなぁと横目に思う。
「あ……」
「どうしたの?」
「陽貴くんの名前あった」
「ほんとだ! 7組だね」
出席番号5番一ノ
「あ、私の名前もあった!」
出席番号23番・
私はそれを見て六花ちゃんに言う。
「よかったね」
「うん!」
六花ちゃんも陽貴くんのことが好きだ。何があったのかはわからないけど、仲良くなった頃にはもう好きになっていた。
私たちはそれぞれ、陽貴が好きなことを知っている。最初は気まずかったけど、それも時間が経てば気にならなくなった。というか、陽貴くん相手にそんなことを気にしていると馬鹿らしくなる。
私、2人と同じクラスがいい! そんなことを思ってすぐに視点を下に下げていく。
「私もだ! よかった〜」
出席番号40番・
「わー。嬉しい! 今年もよろしくね!」
六花ちゃんがガバッと抱きついてくる。相変わらずリアクションが大きい。けど、今は私もそれくらい嬉しい。ぎゅっと抱き返す。
「そうだ」
六花ちゃんはそう言って私から離れると再びスマホの画面を私に見せて来た。7組のクラス表だ。
「見てここ!」
「椿ちゃんも一緒なの!?」
「ね! 奇跡だよこれ!」
出席番号2番・
椿ちゃんは六花ちゃんの中学時代からの友達で、私も六花ちゃん経由で仲良くなった女の子だ。
「そうだ。椿にこの写真送ろうっと」
六花ちゃんはそう言うと手早く操作して写真を送った。
「そう言えば今日は一緒に来なかったの?」
「うん。寝坊したから先に行っててって。また遅くまで起きてたんだよきっと。こういう時くらい早く寝ればいいのに!」
「まあまあ。椿ちゃんも頑張ってるんだと思うし」
六花ちゃんは椿ちゃんと一緒に来たかったようで、というか一緒にクラス発表を見たかったのだと思う。
「遅くまで起きたくて起きてたんじゃない」
ぶっきらぼうな言葉が飛んで来た。
言葉の持ち主は今まさに話題になっていた椿ちゃんだった。
「椿ちゃんおはよう」
「ん、おはよ結」
「椿! なんで? 寝坊したからもっと遅くなるかと思ったのに」
「途中までお兄ちゃんが送ってくれた」
「なるほど!」
六花ちゃんの言う通り夜ふかししたからなのか、椿ちゃんは眠そうに大きなあくびをした。
「送った写真は見た?」
「写真? あぁ、なんなさっきスマホが鳴ってたっけ」
「早く見て見て」
「ちょ、くっつかないで。見れないでしょ」
「ごめんごめん」
椿ちゃんは六花ちゃんを引き剝がすと、スマホを取り出した。
「二人と同じクラスなんだ。よろしく」
「うん。あ、そうだ。陽貴も一緒なんだよ」
「……あっそ」
「えー!? 嬉しくないの?」
「別に」
椿ちゃんらそっけない態度で六花ちゃんを躱しているけれど、イヤリングが控えめに輝く耳は赤くなっている。
照れているからなのか、嬉しいからなのか。両方だと思うけど。
椿ちゃんも陽貴くんのことが好きだから。あまり表には出さないだけで。
だから六花ちゃん、椿ちゃんから少し離れてあげようか。六花ちゃんはスタイルよくて背が高いし、反対に椿ちゃんは私よりも小さくて可愛らしい。
身長差があるから、六花ちゃんに抱きつかれるといつも椿ちゃんは苦しそうだ。
「2人とも、そろそろ教室に行かない? 寒くなって来ちゃった」
「あ、そうだね。同じクラスだしいくらでも話せる!」
「いいから離れて」
「ふふ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます