第33話

――出てきやがった、こいつら。

正也は立ち止まり、怪物を見つめた。

はるみもみまも同じように怪物を見た。

しばらく見ていると、怪物は四体同時に消えた。

それでも三人はその場から動かなかった。

視線もそらさずに、もう怪物のいない空間を見ていた。

そのまま時が流れたが、やがてはるみが言った。

「今日の捜索はもう終りね。帰りましょうか」

二人は目を伏せたままうなずいた。

そして洞窟に帰る。


洞窟に帰ってから、しばらく誰も口を開かなかったが、やがてはるみが言った。

「あの化け物、ただ出現がランダムなだけなんだわ。法則や規則性と言ったものはない。時間も場所も、その数さえも、いわば適当と言うか気分次第と言うか。でたらめなだけなんだわ」

みまが言った。

「そうね。その通りね。三日連続で見なかったから、少しは期待していたんだけど」

それは正也も同じだったが、その期待は完全に裏切られた。

はるみが言う。

「それでも村の捜索は短めにして、少しずつでもやっていきましょう」

今はそうするしかないのだろうと、正也は思った。


結果から言えば捜索の間、次の日は化け物が三体ばらばらに現れ、その次の日は二体同時、その翌日は四体が次々とその姿を見せた。

やはりその出現に、なんだかの法則性と言ったものはないようだ。

捜索の進展もまるでなく、村を出る方法は相変わらずまるでわからない。

堂々巡りにすらなっていないのだ。

――いったいこれからどうなるんだ。

それは正也にはわからなかった。

とにかく化け物に捕まることなく、村を出る方法をなんとか見つけだす。

簡単ではないが、それしかないのだろう。

もう暗くなった。正也は今日のところは寝ることにした。

正也が横になると、みまも横になった。

そしてはるみも。

三人はやがて眠りについた。


その後は化け物が毎日現れた。

二体だったり四体だったり、三体だったり。

一体ずつばらばらに現れたり複数同時だったり。

まさにランダムな出現だったが、化け物を見ない日はなかった。

ただいつもある程度離れたところに現れ、三人をじっと見てはいるのだが追ってくることはなく、そのまま消えるのだ。

正也は考えた。

離れたところに追っても来ないし、なにもしない。

四体に増えたとはいえ、その行動パターンは変わっていないようだ。

もしあいつが追ってきたら、どうなるんだろう。

いつも現れた場所からは動かずにいるため、その移動スピードはわからない。

そもそも移動するときがあるのだろうか。

それすらわからないのだが。

――とにかく、近くに現れませんように。

正也は強く願った。そう願うしかないのだろう。


正也の願いは届かなかった。

正也が強く願った次の日のことだ。

先頭を歩いていたはるみが「痛っ!」と言った。

見ればはるみのすぐ目の前に、膨らんだ大きな腹があった。

はるみはそれにぶつかったのだ。

ついさっきまではなにもなかったのに。

その腹はひざを曲げて腰を落とした化け物のものだったのだ。

――!!

正也が思わず固まっていると、はるみがなんと軽くジャンプしたかと思うと、その化け物に後ろ回し蹴りをはなった。

しかし男が死に物狂いで金属バットで叩いてもダメージのなかった化け物だ。

武道を習っているとはいえ、女性の蹴りが効くはずもない。

はるみは蹴った瞬間、自分の蹴りの力と化け物の腹の弾力で、後方に吹っ飛ばされる形となった。

はるみは背中から地面に落ちた。

そのすぐあと、化け物の大きな手が素早くはるみを掴んだ。

はるみはひじうちなどで抵抗していたが、もちろん効果はない。

化け物ははるみを口の前まで持っていった。

その時はるみが叫んだ。

「あなたたち、必ず家に帰るのよ!」

化け物はそのままはるみの頭を喰った。

「ひっ!」

みまが声を出したと同時に正也がみまの手をつかみ、走り出した。

そのまま振り返ることなく走り続ける。

洞窟まで止まることはなかった。

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