第30話
つくづくあのいかれた四人は、余計なことをしてくれたものだと。
どうしようかと考えては見たが、もちろん有効な対策や方法が浮かぶわけがない。
文字通り頭を抱えていると、はるみが言った。
「今後、捜索調査は、少し控えましょう。もちろんやめるつもりは毛頭ないけど」
みまがうなずく。
正也も同意するしかなかった。
それでもいろいろと思いを巡らせていた正也だったが、ふと思いつき、それを考える暇もなく口に出た。
「そういえば陽介はどうなったんだろうか?」
それを聞いた二人はきょとんとしていたが、やがてみまが言った。
「どうしてそこで陽介の名前が出てくるのよ。あんなやつ、知ったことじゃないわよ。あれ以来一度も見ていないし、もう化け物に喰われたんじゃないの」
みまの言う通りだ。
この期に及んで陽介の心配をしている場合ではないのだ。
正也は、やはりもろもろの圧力により、自分の思考が正常とは言えない状態になっていると思った。
――ほんと、しっかりしないといけないな。
正也は改めてそう思った。
その日の捜索はそれまで。
とにかく洞窟を出る時間をこれまでよりも短くしようと言うことになった。
やはり四体いるのは危険度が高すぎる。
洞窟に現れないと言う保証もないと言えばないのだが、今のところ一度も洞窟内には現れていない。
「そのうちにバランスが戻って、化け物が一体になるかもしれない。そうしたらその反動で、化け物がいなくなるなんてことも、あるかも。そうなって逆によかったわと言う結果になるかもしれないわ」
はるみはそう言ったが、言った本人がそんな期待はいっさい持ってはいないようだ。
でもみまも正也も、表面上は同意した。
こんなことに反発しても、まるで生産性はない。
そこからはいつもの無言の時が流れ、そのうちに暗くなってきた。
三人はおやすみを言うことなく、眠りについた。
正也は夢を見た。
それはここに来た初日に見た夢と関連した夢だった。
あの時、なんだかわからないが人型で、しかも複数のものに追われていたのだが、その姿がここで見た化け物と完全に重なった。
複数の人型で正也を追うもの。
ここにきてあの時の夢の通りになったのだ。
あとは、なんだかわからない山のように大きいものが残った。
それは今のところなにかはわからないままだ。
また朝になる。
朝がこんなにも重苦しいものになるとは。
正也が起き、そしてみま、次にはるみも起きて来た。
おはようのあいさつすらない。
そのまま黙って座り込む。
なにもしない。
なにも言わない。
しばらく時が流れた。
やがてはるみが言った。
「お寺に行きましょう。バランスが崩れてどうなったのか、報告しましょう」
他にやるべきことが見つからない。
なんでもいいからやるべきことが見つかったら、それをすればいいのだ。
三人で寺に向かった。
寺まではそう遠くない。
化け物に会うこともなく、寺に着いた。
呼ぶと住職が出てくる。
「いらっしゃい。今日はどうされましたか」
受け答えははるみがした。
「バランスが崩れたのではと言いましたね。やっぱり崩れてました」
「それは、どのように」
「昨日、短い時間で四体の化け物を立て続けに見ました。おそらくあのおかしな四人を殺すために四体の化け物が洗われた時、化け物の数自体が増えたんだと思います。そのまま四体に」
「つまり、今まで一体だった化け物が、四体になったと言うことですか」
「そうです。単純に化け物に会う確率が四倍になってしまいました。それだけ危険度が増したと言うわけです。ところで聞きたいのですが、この寺の敷地内に化け物が現れたことはありますか?」
「二度ほど見たことがあります。二度とも本堂のすぐ前に立っていました。もちろん私は襲われることがないのでそのまま見てましたが、やがて消えました。まさに化け物でしたね。村人の怨念と言うものは、本当に恐ろしいものです。あんなにおぞましいものを生み出してしまうなんて」
「それが四体になってしまったんです」
「そうですか。私からはなんとも言いようが。充分お気を付けくださいとしか言えません」
「ひょっとしたら、このお寺の敷地内は安全地帯なのではとも思ったんですが、どうやらそうではないようでしたね」
「ええ、残念なことですが。おそらくこの村には化け物から安全な場所と言うのはないように思われます」
「そうですね。それが正しいのでしょうね。わかりました。お話聞いていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、私こそ、これと言って役に立っていませんから。申し訳ないと思っています」
「何度も言っていますが、それはあなたのせいではありません。お気にしないように。では今日はこの辺で失礼します」
「どうかお気をつけて」
「ありがとうございます」
お寺を後にした。
洞窟へと帰る。
帰るとすぐにはるみが言った。
「今日の捜索はもう終わりにしましょう。毎日少しずつ捜索を続けて、それでなんとかやっていきましょう」
二人同意した。
それから暗くなるまでに、結構な時間があったが、その間誰もなにも言わなかった。
いつものことだ。
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