第14話
考えても正確な時間はわからないので、とりあえずはこのままみんなで歩く方がいいだろうと思った。
歩き始めてそれほど立っていない頃、はるみが言った。
「あれ、なにかしら?」
はるみの指さす先に、山に向かって細い獣道のようなものが伸びているのが見えた。
あまりにも細いので、車で走っている時には気がつかなかった。
何日も村にいるはるみも、今気がついたようだ。
おそらくここを車ではなく歩きで通ったことがなかったのだろう。
みんなでそれを眺めた。
かなり細いが、どう見ても道だ。
正也がどうするべきか考えていると、はるみが言った。
「どこに続いているのか、どれくらいの長さがあるのかわからないから、とりあえずここを調べるのはあとにしましょう」
そしてそのまま山道を歩く。
四人が続き、獣道を横目で見ながら通り過ぎた。
ただひたすら歩く。
何時間もずっと。
まだ高かった日も、沈みかけている。
暗くなる前に、あの分かれ道にただりつけるのだろうか。
正也がそんなことを考えていると、突然目の前が真っ暗になった。
「あっ」
「きゃっ」
「やっぱり」
「くそっ」
次に視界が戻った時には、五人は陽介の車と二体の地蔵の間に立っていた。
「歩きでも駄目だわ。もうねぐらにもどりましょう」
はるみがそう言い、歩き出す。
四人は無言でついて行った。
正也は考えた。車で駄目のものが、歩きだと出られる方がおかしいのだ。
でも歩きが駄目だとはっきりわかったのは、わずかだが収穫だと。
限りなくか細い収穫だが。
そのまま歩き、洞窟に着いた。
着いた頃には日がさらに沈み、洞窟の中はかなり暗かった。
携帯を明かり代わりの洞窟を進む。
奥に着くとはるみがランタンを二つ持ち出してきた。
「キャンプに行くつもりだったから、持ってきたのよ。乾電池式だけど、不思議なことにいつまでたっても電池が切れないのよ。この村はいろいろと時間が止まっているみたいだわ。いったいどういう理屈になっているのかしら」
正也もそれが不思議だった。
日が昇り日が沈む。
そして動くと疲れるし、夜になると眠くなるのだが、のども乾かないし腹もすかない。
おまけに風呂に入らなくても平気だ。
そして正也が携帯のバッテリーみると、残量が全く減っていない。
昨日の朝から充電していないので、使わなくてもある程度は減るはずなのだが。
はるみがランタンを二つつけると、洞窟の中はけっこう明るくなった。
はるみが言った。
「これで車と同じように徒歩でも村から出られないことがわかったわ。もう暗いから今日の捜索は打ち切りね。それじゃあ明日は朝からあの細い道を調べてみようと思うんだけど、それでどうかしら?」
「そうしましょう。ほかにあてがあるわけでもないし」
みまがそう言い、他の三人もうなずいた。
「話は決まったわね。それじゃあそうしましょう。あとは寝るなり起きているなり、好きにするといいわね。会社や学校のように、決まった時間にどこかへ行かないといけないわけでもないし。遅刻なんてものはないからね。日常生活でこれだったら、大歓迎なんだけれどもね」
そう言うと、はるみは無造作に横になった。
しばらく見ていると、はるみは軽い寝息をたて始めた。
この状況ですぐに眠ってしまったのだ。
この女、肝がすわっていると、正也は思った。
「それじゃあ、もう寝るか」
正也がそう言って横になると、みまがその隣で横になった。
陽介とさやかも同じように二人並んで横になる。
時間はまだ午後八時だ。
さすがに眠れないかと思ったが、正也はいつの間にか眠りについていた。
目覚めた。洞窟の中だ。
二つのランタンは点けたままだ。
体を起こして腕時計を見ると、まだ午前四時だ。
洞窟の上からの光はない。
日がまだ上っていないのだ。
正也がそのままぼんやりとしていると、はるみが起きた。
「うーん、おはよう」
「おはよう」
「えっと、あの細い道を探索するんだけど、外はまだ暗いみたいね。でもこの時期なら五時くらいから明るくなるはずだから、それからにしましょう。みんなが起きればの話だけど」
「そうしようか。そのうち起きてくると思うよ。寝た時間はみんなそう変わらないから。それまで待てばいい」
「そうよね」
みまが起きてきた。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
陽介とさやかを見れば、二人ともに手足を広げて、口を大きく開けたまま寝ていた。
寝相まで同じなのかと正也が思っていると、陽介が目を開けたと思ったら、がばと上半身を起こした。
そして大きく目を見開いて、前方を見つめている。
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