好きになった素敵な女の子に、好きという気持ちを伝えることができず、つらい思いをするけれど、それでも好きという気持ちがますます強くなっていく初恋。
好きになった素敵な女の子に、好きという気持ちを伝えることができず、つらい思いをするけれど、それでも好きという気持ちがますます強くなっていく初恋。
好きになった素敵な女の子に、好きという気持ちを伝えることができず、つらい思いをするけれど、それでも好きという気持ちがますます強くなっていく初恋。
のんびりとゆっくり
好きになった素敵な女の子に、好きという気持ちを伝えることができず、つらい思いをするけれど、それでも好きという気持ちがますます強くなっていく初恋。
俺は海水夏康。
今日は、小学校の卒業式。
桜が咲き始めたこの日、俺は夏春茶緒里さんに告白をしようとしていた。
転校してきた夏春さんと出会ったのは、小学校五年生の始業式の日。
「夏春茶緒里と言います。よろしくお願いします」
先生やクラスメイトの前で、深々と頭を下げる夏春さん。
その時のことは、今でもよく覚えている。
ストレートヘア。白いワンピースに包まれた清楚な妖精。
それが夏春さん。素敵な人。
一目惚れだった。
それまで女の子には全く興味がなかった俺が、一瞬で彼女の魅力に染まったのだ。
それからは、来る日も来る日も想うのは彼女のこと。
しかし、恥ずかしがり屋の俺は、声をかけることすら夢のまた夢。
教室での席は遠く離れていた。
席が近ければ自然に話をする機会もあっただろうが、それもない。
話しかける努力をしなかったわけではない。
朝、登校すると、彼女の席の傍を通って、あいさつをしようとする。
夏春さん、おはよう!
その言葉を言おうとする。
しかし、それは声にならない。
何も言えないまま自分の席へと向かわざるをえない。
そういうことを毎日繰り返してしまっている。
また、休み時間に、さりげなく彼女のところに行き、言葉をかけようとする努力も重ねた。
でも、とにかく言葉が出てこない。
現実の世界で難しければ、せめて夢の世界で彼女と話すことができれば、と思う。
しかし、夢の中の俺も、彼女のことを遠くから眺めることしかできない。
現実の世界でも、夢の世界でも、俺は彼女と話すことすらできない。
彼女の美しい姿を眺めては、何もできない自分にガックリする毎日が続く。
月日は残酷にも過ぎて行った。
その間、遠足とか運動会とか学芸会とか、親しくなることができそうなイベントはあったのだが、そういうチャンスは全く生かすことはできなかった。
積極的な人であれば、こういうチャンスをものにして、ラブラブカップルになっていくものだろうけど……。
小学校六年生の一学期になると、クラスの中でもカップルが出来始めていた。
うらやましいと思いつつ、俺にはどうせ関係のないことと思っていた。
しかし、その内、夏春さんと隣のクラスのイケメンが付き合っているという噂が流れ始めた。
休日、駅前で一緒に歩いているのを見た人がいるという。
これはデートをしていたのだろう、というのが大多数の意見だ。
俺はその話を聞いて、
いや、そんなことはない。誰かの見間違いだ。俺以外の人とはデートをすることなどないんだ!
と思った。
あいさつすらほとんどしたことがないのに、デートというのは飛躍しすぎなのかもしれないが、どうしてもそう思ってしまう。
でもそうは言っても、廊下で親しく話をしているのを見たこともあるし、噂は本当かもしれないという気持ちも湧いてくる。
俺はその話を聞いてから、睡眠時間が不足するようになった。
彼女の姿を見ると、
お願い! イケメンじゃなくて、俺の方を向いてくれ!
と一生懸命お願いをするようになっていた。
その後、駅で一緒に歩いていたのはたまたまで、付き合っているわけではないということで、二人の噂は沈静化していった。
とはいうものの、二人が仲の良い友達であるということには変わりはない、
いつそれが恋に変化していくか、ということでも悩むことになる。
二学期の修学旅行では、景色のいい場所で、彼女がそのイケメンと談笑していた。
その姿を眺めていて、ものすごくつらくて寂しい気持ちになった。
ああ、こういう場所で二人きりで景色を眺めたかった。なんで、あのイケメンとおしゃべりを楽しんでいるんだろう。
依然として付き合ってはいないと聞いてはいるけど、このままだと彼女は彼に取られてしまう……。
なんとかしなければ、という思いは強くなってくる。
しかし、俺はそれでも彼女と話をすることができない……。
三学期も三月になった日のこと。
放課後、俺は学校の屋上に来ていた。
俺は屋上から外の景色を眺めるのが好きなので、時々、こうして一人で屋上に来ている。
まだ風は冷たいが、それでも冬の一番寒い時に比べれば耐えられる。
日も長くなってきていて、陽射しも温かい。
今日もまた景色を眺めようとしていると、その先には……。
夏春さん。
一人で外の景色を眺めている。
教室にいる時の彼女とはなんだか様子が違う。
教室にいる時は、いつも微笑んでいる彼女。その姿にいつも俺は胸がドキドキして、たまらなかったのだけど。
それが今は、寂しくてつらそうな表情をしている。こんな彼女の表情を見るのは始めてだ。
どうしたんだろう。なにか悲しいことがあったのだろうか。
もしそうだったのなら、慰めてあげたい。
俺は、彼女へ声をかけようと思った。
しかし、親しくもない俺に声をかけられたら、驚かないだろうか。
いや、それどころか嫌われるかもしれない。
嫌われたりしたら、それこそ俺はこれからどう生きていったらわからない。
俺は悩む。
でも声をかけないわけにはいかないだろう、あんなに寂しそうなんだ。
別にここで好きだというわけじゃないんだから、声をかけるぐらいいいだろう。
とはいうものの、声をかけるだけでも胸がドキドキしてたまらない。
このまま帰ってしまおうか……。
いや、そんなことはできない。彼女はつらい思いをしているんだ。
俺は決心し、
「夏春さん、なんだか寂しくてつらそうだけど」
と声をかけた。
俺の心は沸騰寸前。
夏春さんは驚いた様子。
「夏春さん、いつも微笑んでいるから、心配しちゃって」
俺は彼女のことを精一杯想い、そう言った。
「いや、いいの。ちょっとつらいことがあっただけだから」
そう言うと、彼女はいつもの穏やかな表情に戻り始めた。
「海水くん、ありがとう。心配してくれて。もう大丈夫だから」
「それならいいんだけど」
「ありがとう。じゃあ、わたし、行くね」
そう言うと、彼女は俺に手を振りながら、屋上の扉の方へ向かって行った。
俺はしばらくの間、外を眺める。
これで少しは彼女の役に立てたのだろうか。
そうだといいんだが。
逆に迷惑だったのだろうか。親しくもない人に声をかけられたのだ。嫌な思いをもしかするとしたのかもしれない。
だとしたら、俺が彼女に話しかけたことは、失敗だったのだろうか。
これで俺のことを嫌いになったら、もうどうにもならないのだけど。
ただ俺に、
「ありがとう」
と言ってくれた。
そう言ってくれたということは、少なくても俺のことを嫌っているということはない
という気持ちもある。
ただ、今日は、俺が夏春さんと出会って、二人きりになった初めての日だった。
夏春さんに、好きだという気持ちを伝える絶好のチャンスだった、という気持ちが次第に湧き上がってきた。
次はいつ二人きりになれるかわからない。最大のチャンスを逃してしまったのではないのだろうかと思う。
気分が沈み始めた。
しばらくの間、外を眺めながら、涙を流す。
しかし、気が沈んでいるだけではいけない。
今日話すことはできたのだ。今までよりも前に進めただけでもいい方向だと思う。
とにかく、今の俺にできるのは、夏春さんに対する、好きという気持ちを強く持ち続けることだろう。
そして、夏春さんに好きだと言う気持ちを伝える。ここで倒れていてはいけない。俺は夏春さんと恋人どうしになるんだ!
改めてそう思う俺だった。
それから数日後、衝撃的な情報が入ってきた。
夏春さんが引っ越しをするという。
中学校からは彼女と別の中学校になるということだ。
そのことを聞いた時点で、卒業式まで後十日をきっていた。
このままだと、卒業式以降は、もう離れ離れになってしまう。
数日前、彼女が寂しくてつらそうな表情をしていたのは。みんなと離れ離れになってしまうというところからきていたのだろうと思う。
ただ離れ離れになるだけでなく、仲の良い女の子の友達が何人もいる。その子たちと離れ離れになってしまうのだ。とてもつらいことに違いない。
それを彼女は一人で耐えている。
俺がその心の支えになってあげられればいいんだけど……。
そして、夏春さんとはもう二度と会えないかもしれない。連絡手段があれば、まだ今後どうにかなるかもしれないが、連絡先をまだ聞くことができていない。
いや、今の俺は、それを聞くことさえ恥ずかしさが先にたってすることができない。
俺にとって彼女はあこがれの対象。今は話もほとんどできていないけど、中学生、そして高校生になったら、絶対恋人どうしになれると思っていた。彼女のいない人生なんて想像もつかない……。
俺は気力がなくなってきた。
これから何を支えに生きていけばいいんだろう……。
そして迎えた卒業式の日。
俺は夏春さんに、その想いを伝えたいと思っていた。
好きだという気持ち。
それはもう溢れそうなくらいになっていた。
後はどこでそれを言うかだ。
俺はこの日までの一週間ほど、それで悩んでいた。
朝、卒業式の前に彼女を呼び出して想いを伝えるのがいいのか。
それとも帰りに彼女を呼び出して想いを伝えるのがいいのか。
卒業式の最中には、もちろんそういうことはできないので、チャンスはそのどちらかしかないと思う。
しかし、彼女を呼び出すなどということは、本当にできるのだろうか。
俺は彼女とは親しい関係にはない。
まず声をかけることからして難しいことだ。
この間、屋上で彼女と話すことができたのは、彼女を慰めてあげたいという気持ちが強く、無我夢中になったからだと思う。
今日は、それ以上の強い勇気を出さなくてはいけないんだけど……。
勇気を強くできないまま、俺は学校への道を歩く。
俺は教室に入ると、彼女は既に来ていた。
白いワンピースを着ている。
彼女がこの学校に来た時もそうだったが。この二年でますますかわいらしくなっている。
彼女は、数人の女の子と話をしていた。
これは難易度が高くなった。
俺が彼女に話しかけるには、女の子たちとのおしゃべりを終わらせてくれなければならない。
しかし、それは終わる様子がない。
それだけ彼女の女の子の間での人望はあるのだろう。
その内、イケメンも、彼女のところへやってきた。
何を言うのかと思ったが。
「元気でね」
という短い言葉を言っただけだった。
イケメンは、彼女に好意は持っていたと思うが、恋というところまではいなかったのだろうと思う。
俺も夏春さんに好意を持っている。
しかし、俺は、好意だけではなく、恋という意味での好きという気持ちを伝えなければならない。
それには、
「ちょっと付き合ってほしいんだけど」
という言葉を言って、とにかく教室の外に彼女と一緒に出なければならない。
ところが、イケメンが自分の教室に帰った後も、彼女と女の子たちとの話は続いている。
この状況では、もう無理だと思う。
彼女が教室にまだ一人でいる内に話しかけるべきだった。
教室に来るのが遅すぎた……。
俺は窓のそばに行き、涙をこらえるのだった。
卒業式の間、夏春さんの後ろの方に座っていた俺は、一生懸命夏春さんに向かって、好きだという気持ちを送っていた。
卒業式が終わり、俺達は教室に戻ってきた。
その後、教室では、一人一人、あいさつをしている。
彼女の番。
「先生、そしてみんな、この一年間、楽しかったです。ありがとうございます」
夏春さんはそう言って、頭を下げた。
「みんなと違う学校になりますが、みんな元気でいてくださいね。わたし、みんなのことは忘れません。みんなもわたしのことを忘れないでね」
ちょっと涙声の夏春さん。
クラスメイトからは、
「夏春さんのこと、忘れないよ」
「元気でいてね」
という声。
そして、女の子の方からは、
「連絡、これからもし合おうね」
という声。
みんな、別れを惜しんでいる。
それにしても連絡がこれからもし合える女の子たちがうらやましい。
今のままだと、俺は彼女への連絡手段が全くといっていいほどなくなってしまう。
そう思っていると、俺の番まで後一人となった。
チャンスが後一度しかないと思っていた俺に、もう一度チャンスが来た気がする。
想いを伝えたい、伝えたい。
その気持ちはどんどん強くなってくる。
でもそれをすると、一挙に冷やかしの対象になる。
相思相愛だったらいいが、そうでない場合、彼女を傷つけてしまうことになるだろう。
やっぱりこれも無理だなあ……。
いや、ここであきらめてどうする!
揺れ動く心。
しかし……。
心が決めきれないまま。俺の番が来てしまった。
「先生、そしてみんな、これからもよろしく」
俺が言えたのは、そういう言葉でしかなかった……。
「夏春さん、グラウンドまで一緒にきたいんだけど」
「うん。そうしましよう」
夏春さんが数人の女の子たちと教室を出て行く。
このままじゃ、想いを伝えられない。彼女は間もなく手のとどかないところへ行っていまうんだ。最後のチャンスにかけなければならない!
俺は席を立った。そして、荷物を持って教室を出る。
待ってくれ! 夏春さん!
そう思いながら、彼女たちの後を歩く。
グラウンドに出て、今そばにいる女の子たちと別れ、彼女の両親と彼女が会うまでのわずかな時間。
想いを伝えることができるのは、そのわずかな時間しかない。
俺の人生にとって、一番大切な時間になろうとしている。
どうかうまく行きますように!
そう思いながら歩く。
そして、彼女たちはグラウンドに出た。
お別れのあいさつをしている。
名残惜しそうだ。
俺は少しだけ距離をとり、それが終わるのを待つ、
そして、彼女は、彼女の両親のもとに歩き始めた。
チャンスは今しかない。
しかし、恥ずかしさで、なかなか言葉が出てこない。
何をやっているんだ、俺は!
彼女は、まもなく両親のところに到達してしまう。
そうしたら、俺にチャンスは全くなくなってしまう。
とにかく、声をかけなければ!
俺は勇気を沸き立たせていく。
「夏春さん、ちょっとだけ話がしたい!」
もう少しで両親のところへ到達するところで、夏春さんは俺の方を振り向いた。
「海水くん……」
ちょっと驚いた表情の夏春さん。
いい匂いがする。
胸がもうドキドキし過ぎていて、今にも壊れてしまいそうだ。
俺は全エネルギーを放出するつもりで。
「俺、夏春さんのことずっと忘れない」
と言った。
夏春さんは、
「あの時は、心配をしてくれてありがとう。わたしも海水くんのことを忘れない」
と微笑みながら、しかし、少し寂しそうに言う。
そして、俺は、
茶緒里さんのことが好きです!
と言おうとした。
しかし、その言葉が出てこない。
「ありがとう。海水くん」
夏春さんは、そう言うと、両親のところへ向かった。
理想の女の子。
彼女になんとか声をかけることができた。
俺は一瞬幸せな気持ちになった。
しかし、結局のところ、好きという想いは伝えることはできなかった。
すぐに悲しみとつらさが俺を襲う。
夏春さんは、両親と一緒に記念撮影をした後、校門へ向かって歩いて行った。
桜が咲く中、美少女でかわいくて、好きな人がここを去っていく。
茶緒里さん、好きだ。大人になったら結婚しよう!
俺は涙を流しながら、強く想うのだった。
好きになった素敵な女の子に、好きという気持ちを伝えることができず、つらい思いをするけれど、それでも好きという気持ちがますます強くなっていく初恋。 のんびりとゆっくり @yukkuritononbiri
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