ソード・ワールド2.5リプレイ【魔剣を巡る冒険記】

くろひび

断章

或る冒険者の独白

 この世に生まれたその時から、私の将来は決められていた。

 生き方も。そして多分、死に方も。


 私には二人の兄がいた。私は三人目の子供で、しかも女。普通の家なら、家督を継ぐはずのない存在だ。

 でも選ばれたのは私だった。彼ら二人を差し置いて。私だけがその才能を持っているから、そんな自分ではどうしようもない理由で。


 子供の頃は、自分に与えられた役割を受け入れていたように思う。でもそれは理解が出来ていないからで、成人が近づくにつれ不安と恐怖に追いつかれた。


 だから私は、家を出た。剣だけを持って、冒険者になった。 誰かに決められた運命じゃない。自分の手で、未来を切り拓くために。


 ……違う。

 違う。そんなんじゃない。私はそんな高尚な人間じゃない。そんなこと、ずっと前から分かってる。


 私はただ、逃げただけだ。自分の役割に耐えられなくて、子供のように駄々を捏ねて逃げ出した。ただそれだけだ。


 逃げても何も解決しないのに、ただただ無責任に時間を浪費している。その現実から、剣を振ることで逃避する毎日。


 そうやって逃げた先で、彼らと出会った。


 彼らは賑やかで、優しくて。そして何より、強かった。

 私なんかとは違う。自分の力で未来を勝ち取ることができる、そんな強さを持った本物の冒険者だ。


 私はずっと、彼らのような存在を求めていたのかもしれない。

 このどうしようもないくらいに未来のない世界から、私を救い出してくれる。


 そんな、勇者のような存在を。

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