*Ⅲ*

 スルナガンの神事。天壇の九人の神官らは玉座の前にうずくまり、ちつひもとく。

 やがて、それぞれが神憑かみがかりとなり、独特の抑揚で詠辞ながめごとして曰く。



けまくも あやかしこき きこをすす 現人神あきつみかみの 大前おほまへを をろがみまつり やつこあれ タッパイ・スウの かしこみて ほかまをさく

高行たかゆくや はやぶさすらも 行きかてぬ さがしききはみ トランドの 針の高みに 月讀つくよみの 影しも照りて 云はまくも あなに忌忌ゆゝしも 至尊すめろぎは 神にしせば 靑熊あをくまの さ渡るきはみ 毛犀つのしゝの いきの窮み あめした らしめさむと くにを し給はむと 隨神かむながら おぼほすなへに 御稜威おほみいつ 世の隈隈くま〴〵に あまねくも かゞよわたり まつろはぬ 人こそ無けれ まつろはぬ かみもあらなく たひらけく 治まるくにを おもへへらく とをの昔は 皇祖すめかみの うしはたまひ 皇吾すめらあが らしゝくにそ 何しかも かくはなりぬる

千磐破ちはやぶる 荒振あらぶかみの さはなりと 思ひけめかも 玄祇くにかみを 和平やは言向ことむけ 荒靈あらたまを 從順やはたひらげ 此國このくにまもらしめむと つかはしゝ 汝軍いましいくさの 千萬ちよろずの いかいくさは 大君おほきみの 命畏みことかしこみ 劒拔つるぎぬき 矛行ほこゆ箭差やさし 皇吾すめらあが 九人こゝのたりをば 黑鷹くろたかも 通はぬきはみ くにの とをさかひの トランドの こゞしき峰に 祇逐かむやらひ らひまつりて 醜巖しこいはの 冷たきほらを 床石とこしなへ 永遠とばあらかと 定めしめ かくらしめてき

醜民しこたみの 靑人草あをひとくさは 大御食おほみけに つかまつると 奉納たてまつる みつきくさに まへは はた廣物ひろもの が前は はた狹物さものそ まへは 毛の柔物にこものを が前は 毛の麁物あらものそ なれはそも 民草たみくさそ 此國このくには あれこそせ きなべて 吾こそ



 いよいよ、神官らは狂える如く神憑かみがかる。幾重いくえにも響きわたる怒号。



皇吾すめらあが 詔賜のりたまひひしく 玉矛たまほこは 愈燿いよゝかゝやき つるぎらも 愈利いよゝとければ 何時いつしかも ちてし止まむ



 いかづちの如き獅子吼ししく



牡山羊さをやぎの 白毛靑毛しろげあをげの 十餘とをあまり 八つの耳をば 振立ふりたてゝ ちてし止まむ



 しかるに、クヮヰドがしゃく鈴鳴れいめいを響かせる。

 途端とたんに水を打ったような沈黙――やがて、筆頭神官がしぼり出すようにつぶやく。



大前おほまへを をろがみまつり 君が代を ほかまつりて やつかれら タッパイ・シュウは かしこまを




                         <続>




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