*Ⅰ*

憐憫だと? 全ては終わりだ。


しかし、白と黒と……

おれは騙されているのではないか?


いや、そんなことがあるだろうか?

そんな筈は、よもやあるまい。


出自? 本質? 血統? 証徴? 忌まわしい……


やはり、おれは騙されているのではないか?


そんなことが……


そもそも、この人生全てにおいて、騙され続けてきたのではないか?


まさか……


思えば、全ては先例の定めのままに、先例に無くば、スルナガンやタクユバン、その他の神事において、天壇の神官を通じて齎される託宣のままに――


おれの意思が介在すべき、毫末の余地だに無い。

これでは、傀儡くぐつではないか。


やはり、騙されているのではなかろうか?


ああ、騙されていたとすれば、このまま死ぬのは口惜しい。

何とか、げ延びることは出来ないだろうか?



いやいや、ここから人に気付かれることなくどうやって外に出られる?

出られる筈はない。



いや、しかし……



このまま、何もせずに、時が来れば自らを処すなど莫迦げている。

そうだ……



今だ! 急げ!








――あの影は……


――ああ、やはり駄目なのか?

たしかに九人いる。

長い耳――



迂闊だった。何もかもが遅かった。

あまりにも迂闊過ぎた。何ということだろう……



おれはもはや逃れられぬのか――

騙されたままおのが身の滅ぶのは、何とも口惜しい――



いや、諦めては駄目だ。死力を尽くさなければ……

そうだ! 裏に回ってムルグァナクの茂みに身を隠そう……

まごまごしてはいられない。

影がだんだんと近付いてくる……





                         <続>





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