山伏、舟をひっくり返すこと
糸賀 太(いとが ふとし)
序
甲楽城の渡しはいつもこうなんですよ。人がイナゴみたいに、失礼、お客さんのことじゃないですよ。浜辺は両岸とも、国府みたいににぎわってるってことです。と、私が語っていると舟がゆれた。
「こら、千代丸、あばれないで。…すみません」
恐縮する母親に、私は笑顔を見せた。
「ご心配なく。こんなの揺れのうちにはいりません」
「うちの子はいつもこうで」
「実はね、お子さんがじっとして聞きいるような物語があるんですよ」
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