ふたこぶ女王は左を向く -ナマケモノ探偵ののんびり推理ー

きりしま

第1話

「ねえ、ナマケン。こぶが二つある女王さまって何か分かる?」


 ひどくむし暑い、ある梅雨の日の放課後だった。


 僕は五年二組の教室で、クラスメイトのナマケンにそんな質問をした。

 ナマケンは、クラスでは名探偵で通っている男だ。日ごろから本をたくさん読んでいて、すごく物知りで、僕らじゃ思いもよらないことをひらめいたりするから、困ったときに相談を持ちかける人がいる。今日は僕こと渕丸周太ぶちまる しゅうたの番というわけだ。


 ナマケンは、ちょうど帰ろうとしていたところだった。ランドセルをしょいかけた格好で、ゆっくりと振り返る。


「…………あー。ぶっちんだー」

「ナマケン、反応おそっ!」


 僕は思わずツッコミを入れてしまった。


 ナマケンは頭が切れるわりに、動きがものすごく遅いんだ。

 ナマケモノみたいにのそーっとしていて、いつも眠そう。頭はペタッとしたマッシュルームカットだし、目はクリッとしているし、「ナマケモノ」に引っかけたあだ名がつくのも納得だよね。ちなみに、ナマケンの本名は生瀬健斗なませ けんと。名前も「ナマケモノ」っぽい。


「ねえ、ナマケン。こぶが二つある女王さま、何か分かる?」


 僕は急いで自分のランドセルをしょって、もう一回さっきと同じ質問をした。


 ナマケンがぐぐぐーっと右に首をかしげる。


「子分がー二人いるー女王さま?」

「ちがうよ。こぶだよ、こぶ。こぶが、二つある、女王さま」


 強調しながら言いなおすと、ナマケンは今度は左にぐぐーっと首をかしげた。


「なーに、それ。なぞ、なぞ?」

「ううん。スイッチの隠し場所」

「スイッチってー、ゲームの、スイッチ?」

「そう。お母さんに隠されたんだ!」


 僕はランドセルの肩バンドを握りしめ、鼻息もあらく訴えた。


 事件が起こったのは三日前だ。

 僕がゲームばっかりしてるからって、

『もう、こんなものいりません!』

 って、お母さんの怒りが大爆発。「雨ばっかで、外で遊べないんだからしょうがないじゃん!」という僕の意見は無視されて、お母さんは鬼みたいに僕のスイッチをうばいとって、どこかへ隠してしまったんだ。


 もちろん、僕はめいっぱい抵抗した。

 だけど、怒ったお母さんにかなうわけがない。あれきりもう三日間、スイッチと離れ離れだ。

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