【巻二五 辛毗】既已難信

「信じるの無理、無理だけどさぁ……」



魏略曰:諸葛亮圍祁山,不克,引退。張郃追之,為流矢所中死。帝惜郃,臨朝而歎曰:「蜀未平而郃死,將若之何!」司空陳羣曰:「郃誠良將,國所依也。」毗心以為郃雖可惜,然已死,不當內弱主意,而示外以不大也。乃持羣曰:「陳公,是何言歟!當建安之末,天下不可一日無武皇帝也,及委國祚,而文皇帝受命,黃初之世,亦謂不可無文皇帝也,及委棄天下,而陛下龍興。今國內所少,豈張郃乎?」陳羣曰:「亦誠如辛毗言。」帝笑曰:「陳公可謂善變矣。」


臣松之以為

擬人必於其倫,取譬宜引其類,故君子於其言,無所苟而已矣。毗欲弘廣主意,當舉若張遼之疇,安有於一將之死而可以祖宗為譬哉?非所宜言,莫過於茲,進違其類,退似諂佞,佐治剛正之體,不宜有此。魏略既已難信,習氏又從而載之,竊謂斯人受誣不少。


(漢籍電子文献資料庫三國志 698頁 ちくま4-086 批判)



○解説

 魏国ぎこくきっての直言居士として知られる辛毗しんぴ、通称辛佐治しんさじ。そんな辛毗の発言として特筆されるべきものとして、魏略ぎりゃく諸葛亮しょかつりょうの北伐によって歴戦の名将、張郃ちょうこうが戦死した折のエピソードが載るそうです。張郃の戦死に曹叡そうえい陳羣ちんぐんが死ぬほど落ち込んでいたので、辛毗さんが言います。「建安けんあんの末期を率いられた武帝ぶていがおられ、魏国の天下をお導きになった文帝ぶんていがいらっしゃいました。そしていま、陛下は未だご健在。この国の要として重要なのは陛下でしょうか、張郃でしょうか?」と。これに対して陳羣は「確かに辛毗の言う通りです」と返答。すると曹叡も「陳公の変わり身の早さはすごいな」と笑われた、とのこと。

 裴松之はいしょうし先生、この非対称の比較にカッツィーンと来られます。けどなんか丁寧。どうしちゃったのかしら。

 いやいや、張郃と比べるべきは張遼ちょうりょうといったたぐいの将軍でございましょう。だのに皇帝と比較するのはやや不敬ではないでしょうか? またその発言たるや曹叡へのこびへつらいであるかのよう。このような発言を、あの剛直で知られる辛佐治どのが仰るでしょうか? 魏略の記述が信じがたいのは明らかであるのに、習鑿歯しゅうさくしどのはこちらの説にしたがって記載されております。こちらは、いささか非難を受けてしまうことも少なからぬのではないでしょうか。

 習鑿歯先生にはやや弱気、裴松之先生です。

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