第131話 豊穣神の大釜

「4種の神器って知ってるよね」

「まったく知らない」


 半山羊妖精グラシュティグが訊くので、俺は正直に答える。

 は? と呆れたような表情をセタントくんが浮かべるのが目に入るけど…………

 だって知らないんだもん。知らないものはしょうがないじゃない。


「ん--、非常識なイズモに訊いたのが間違っていたかー。

 では、セタントくん、どうでしょう?」


 グラシュティグさんが司会者のように話を進める。


「もちろん知っている。

 4種の神器と言えば。

 輝きの剣クレイヴ・ソリシュ

 稲妻の槍ブリオナック

 運命の石リア・ファル

 豊穣神の大釜ダグザのカルドロン

 子供でも知っている。

 だけど、どこまで実在しているかは怪しいね。

 運命の石リア・ファルはコナータ、ウルダ、ライヒーンにクー・マーマンを含めた4か国の上王が持っていると聞く。

 稲妻の槍ブリオナックはコナータにあると言うウワサだ。

 豊穣神の大釜ダグザのカルドロンはこのコナータのどこかにあると言うんだけど……うそっぽいね。

 輝きの剣クレイヴ・ソリシュは全く聞かない。すでに壊れて無いなんて話もあるね」


 金髪の美少年はすらすらと答える。ほへー、詳しいな。それって本当に常識だったりするの。俺ってば、この世界の常識を大分覚えつつあると思うんだけど…………まだまだ知らない事多いな。


「さすがー、読書好き美少年。

 色々知ってるね、僕もそこまでは知らなかったよ」


 グラシュティグさんも言う。


「それで、4種の神器が何だって言うの?」


 セタントくんは少し苛立ったように言う。テレ隠しでは無くて。

 セタントくんとバズブが一緒に生きるには……常にセタントくんが病死の危険に晒されると言う問題があって。その問題をなんとか出来るかもしれない。そうグラシュティグさんが言った。その解決法を早く知りたがっているのである。


「うん、豊穣神の大釜ダグザのカルドロンってね。

 子供に教えるには、いくらでも食べ物が出て来て尽きる事が無い釜、なんていわれる。

 だけど実際には大量の魔素プネウマを詰め込んだ釜なんだ。

 そこに蓄えられた魔素プネウマは大量で使い切ることは出来ないんだって。

 いくらでも魔素プネウマが出てくる…………

 その一方、逆の話もあって、いくらでも魔素プネウマを吸い取ることが出来るとも言われている」

「その話は読んだことがある。

 どこで読んだかまでは覚えていないけれど…………

 周囲の魔素プネウマを全て吸い取る恐ろしい存在として書かれていた話があったと思った」


「そういうことー。

 バズブちゃん、世界に魔素プネウマが増えすぎたから自分の力をコントロールできなくなっちゃったんでしょ。

 ならば、バズブちゃんの近くの魔素プネウマを吸い取って、減らしちゃえば良いと思わない?」


 魔素プネウマを減らす。

 あの日から世界に魔素プネウマが増えてしまった。そのため、病もたらす女神『黒き毒のバズヴ』の力が強くなり、近くにいたセタントくんは病に伏せった。

 ゆえに、豊穣神の大釜ダグザのカルドロンを用いて、魔素プネウマを減らせば解決する。


「……そんな風に上手く行くのか?」


 グラシュティグさんの話自体は理解できたが、実際に可能なのかは俺には分からない。

 バズヴさんが答える。


「……可能化も知れないわ…………

 魔素プネウマを吸い取ることは出来る。

 空気中の魔素プネウマを吸い尽くし、周囲の魔素プネウマを無くしてしまう存在。それを私は知っているし、実際に魔素プネウマを吸っている場面も見たわ。

 全ての魔素プネウマを吸われたなら、私自身存在できなくなってしまうけれど……それが調節できるなら…………」

「それが……あるなら。

 僕とバズブが一緒にいることが出来る。

 そう思って良いんだね?」


「……かもしれない」


 セタントくんが訊ねて、バズブさんは思案気に頷く。


「ならば良し。

 で、グラシュティグさん。

 その豊穣神の大釜ダグザのカルドロンとやらは何処にあるんだ?」

 

 俺は訊ねる。バズブさん本人が言うのなら、間違いは無いだろう。


「そんなの知らないよー」


 何だよ?!


「心あたりがあるから、言い出したんじゃないのか?」

「ううん、全く知らない」


「なら、なんで言ったんだ?」

「僕は方法があるかも、と言っただけだよ。

 豊穣神の大釜ダグザのカルドロンの場所なんて、誰も知らないんだもの。

 僕だって知らないよ」


 ええい。半山羊妖精グラシュティグさんは相変わらず人騒がせ。少しは見直したと言うのに、結局意味は無いのか。


「だからさ。

 イズモたちが探せばいーじゃない。

 だってフェルガっちが王様を追い落として、この国の最高権力者になったんでしょ。

 権力の使いどころだよ。

 国中に求めなよ。

 豊穣神の大釜ダグザのカルドロンを差し出せば、褒美は思うままだぞ、ってね」


 そう半山羊妖精グラシュティグさんは言ったのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ぎゃぁはあ。

 われに何の用だ?」


「4種の神器だと…………

 何故そんなものを闇の巨人フォモールが求める?

 ぎゃぎゃはぁっ

 人間どもを争わすのに必要だと。

 ふむ、知らんな。

 豊穣神の大釜ダグザのカルドロンがこの国どこかにあると。

 人間どもが噂してるのは耳に挟んだがな。

 ヒトの言う事など信じられるモノカ!」


「くくくぎゃはぁっ!

 闇の巨人フォモールめ、人間を殺すためたまたま手を組んだがな。

 キサマらももともとはワレの敵よ。

 教えられるモノカ!

 豊穣神の大釜ダグザのカルドロン

 それこそ、このワレが探し求めるモノ。

 この赤きたてがみのマッハがもっとも求めるモノだと!

 ぎゃははははっはぁああっ

 姉さま、モーリガンの姉さま。

 待っていてください。

 豊穣神の大釜ダグザのカルドロンに封印された姉さま、必ずワレが解き放って差し上げまショウゾ!」 

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