第128話 なれそめ
「一体……なんだって…………」
『黒き毒のバズブ』、
セタント・クライン。
そんな二人が何故か出会って、惹かれあってしまった。その結果としてセタントくんは病気になり、何度も死にかけている。
それなのに。
彼はバズブと別れたくないと言う。
一体、何故そこまで想ってしまったのか。俺には全く理解できていない。
「セタント…………
さようならね。今まで一緒にいた事が不自然だったのよ。
これでおしまい」
黒い髪の女性はセタントに向かっている。それは彼に言っているだけでなく、自分にも言い聞かせているようであった。
「ダメだ!
バズブ…………僕は」
「僕は……君がいなくなるなら……生きている意味は無い!」
そんな風にセタント少年は言い切っていた。
僕はずっと暗い部屋で過ごしてきた。
知っているでしょう、子供の頃から僕は体が弱かった。体調を崩すと、あの古い小汚いクラインの館で、静かな奥の部屋に押し込められた。
他の男たちは、みんな
姉さんはその中で
それは…………お手本みたいで、本来僕もそうあるべきだと思わせて。
姉さんが悪い訳じゃない……けど……彼女に比べて僕は出来損ないじゃ無いかと思わずにいられなかった。
僕が居ない方が良いんじゃないか。
姉さんが
「それは……違う。
そんな風に考えるのは……良く無いぞ、セタントくん。
クーはそんなことを望んではいない」
俺はつい口を挟んでしまった。セタントくんは静かに話していて、それは怒ったり不機嫌になったりもしていなくて。あまり他人が口を出すべき場面では無いのだが…………
話がクー・クラインのことになってくると、俺も黙ってはいられなかった。
分かっている。分かってますよ、イズモさん。
姉さんがそんなこと望む人間じゃない、ってことは分かっている。だけど、そこまで姉さんのことを分かるなら。僕がこんな風に考えてしまう人間だってことも分かって欲しいな。
俺はとりあえずその言葉で黙った。他にも言えることはあったし、反論しようと思えばできないことは無かったが…………
普段あまり本音をみせないセタントくんが自分の心中を語っている。
そして、語る相手は俺では無い。昏い瞳の女性に向けて語っているのだ。俺が口を出すのはお邪魔ムシである。
俺は軽く頭を下げて、続けて、と促した。
何処まで話したんだったかな。そうだ。だから…………
僕は一人で暗い部屋に寝ていた。もしかしたら僕はいない方が良いんじゃないか、そんなことを日々考えながらうつらうつらしていたんだ。
その時、現れたのがバズブ、君だった。
「私は…………影に潜むわ。
ちょうどアナタの父親が鉱山に現れて……はぐれ
その
アナタの父親の影に潜んだの」
アナタの父親とバズブさんが言っているのは……スァルタム・クラインさんの事か。俺はクーと結婚してしまったので、一応は義理の父でもある。
そう言えば……10年くらい前鉱山に
「モーリガン姉さんが居なくなって……マッハ姉は日に日に狂って言ったわ。そんな姉の近くにいるのは私もしんどかったの。
付いて行った先は……クラインの屋敷で。
どこもかしこも騒々しい男ばかりで。
みんな体を鍛える事に夢中で、私の存在に気付く余裕も無い。全員、太陽の下が似合う、病気になんか縁の無さそうな輩ばっかり。
そんな中に…………一つだけ暗くて静かな部屋が在って。
その部屋にアナタが居たわ、セタント」
二人は話しながら、お互いを見つめあっていて。
それは恋人同士の様で、セタントくんは愛していると言っていた。
しかし…………
今の話を素直に受け止めれば、似たもの同士の二人がたまたま出会い恋に落ちた。それだけのことで特に驚くには値しない。男女の仲とはそういうものだと思える。
だけれども、実際には…………それは何年前なんだ。
スァルタムさんが鉱山に来たのはおよそ10年前。
とするなら…………セタントくんはまだ6歳か7歳。年少の子供。
セタントくんは……子供の頃きれいなお姉さんに逢った。それは周囲に自分を理解してくれる人間の少ない環境で育った彼にとって救いとなった。
そしてセタントくんが大きくなるにつれて、それは男女の愛にまで育った。
それは……同じ男として理解できる。
気持ちは分かるし、俺だって幼い頃、そんな女性に巡り合いたかった、と思ってしまう程だ。
でも。
バズブにとってはどうなんだろう……?
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