第99話 睨む金髪の子
「な、なんだ?!
クラインは何故私を睨むんだ?
食事を持ってきてやったんだぞ」
「…………それはありがとう」
はぁ、やばかった。クー・クラインと俺は先ほどまで二人きりでいた。ルピナス・エインステインが入って来てくれなかったら、俺はナニかとんでもない台詞を口走っていたかもしれない。
「999番、後でまた話そう」
「セタント、今日は…………フェルガ副所長と大事な交渉がある。
その後で良いか?」
別に逃げようとしているんじゃない。事実である。ルピナスは今日、俺をフェルガの所に連れて行くように言われているのである。
クーは既に女性っぽいフンイキを捨てて、普段のセタントとしての言動に戻っている。声は低くなり、顔つきも凛々しくなっている。
先ほどまでの女性の顔もステキに可愛いんだけど。この凛々しくキマジメな雰囲気の金髪の子も良いよな。
「とにかく朝食だ。
正直私も、あの男ばっかの空間で食事する気にならないからな。
ここで食べられる方が有難い。
………………
なんだ、その美味しそうな物体は?」
「るぴなすちゃんも気になりまちゅかー?
欲ちいならあげまちゅよー」
「ほちい、ほちいの!
…………では無いっ!
なんで私がわざわざ料理を重い思いをして運んできたのに、それよりも旨そうな物を食べているんだ」
「要らないなら食べなくていいよ」
セタントはルピナスをクールに突き放す。ブラウニーさんのサンドウィッチを自分の口に運びつつ、俺にも渡してくれる。
「美味しい」
「二人で分けて丁度くらいの量だもの。
999番、ドンドン食べなよ。
ルピナスはいらないみたいだから」
「待てっ。要らないなんて言ってないぞ」
「言ってたよ。
欲しくは無いって」
「むっ、言ったと言えば言ったか。
しかし、それはそうでは無くて。
イズモが子供扱いするからー、それを違うと言ったんだじょー…………」
すでにルピナスは混乱している。こちらがフッてもいないのに子供っぽいセリフになっている。すでに涙声が混じってしまってるのだ。
「ああ、ゴメンゴメン。
本気でイジワルする気は無かったんだ。
999番、彼女にも上げて良いよね」
「モチロンだ」
「だって、ホラ。
ルピナスも食べなよ。
僕も一つ食べたけど、やたら美味しいよ」
涙目、だだっこの雰囲気のルピナスの肩に手を置き、セタントが優しく皿を差し出す。そのまんまちっちゃい子供のメンドウを見るお姉さんだな。
「ホントにるなぴなす、貰っていいの?」
「トーゼン、ああでも……待って。
999番、君が持って来たんだ。
まず、キミが好きなのを取りなよ」
「俺はどれでもいい。
どれでも好きだ」
「999番が持って来たって…………
まさか、囚人たちの食事ってこんなに豪華なのか?!
どう見ても監視官の朝ご飯より美味しそうだぞ」
ルピナスが驚きの声を上げるが………………
そんなワケねーだろ!
「違う。作業員用のメシは……エサだ」
「その通り、あそこの食事は……エサだね」
「そうか、それはそうだな。
囚人用の食べ物が監視官用の食べ物を上回ってる筈が無い。
……とすると、このやたら美味しそうな食事はどうしたんだ?」
「細かい事を気にするな。
食べないなら、俺たちだけで食べてしまうぞ」
「そうだね。
美味しいのに要らないなら、僕たちが食べるよ」
「要らないなんて言っていない。
私にもよこせ」
俺とセタントとルピナスの三人はあっという間にブラウニーさんのサンドウィッチを食べ尽くしていた。
三人で分けると多少物足りない量になるので、ルピナスが持ってきた監視官用の食事も口を付ける。
「ふむ、フツーだな」
「フツーだよね」
「なんだ、711番。
昨日は久々のマトモな食事、ありがたいと言っていたくせに」
「だからー、作業員の食事は『エ・サ』なんだって。
こっちの方がはるかにいーよ」
ルピナスが持ってきた食事は、監視どもに提供されているモノらしい。ルピナスも普段それを貰っている。昨日、今日と彼女はセタントの分も貰って、二人で食べていたそうだ。
内容は野菜とベーコンの炒め物とパン。パンにはチーズが付けられ、食堂に行けば飲み物も飲み放題らしい。
程度はまぁ安いビジネスホテルくらいのレベルだが、人間の食事としてマトモと言える。とゆーか、労働者用のメシがヒドすぎて比べ物にならないんだよな。
「まー、この監視用の食事はフツーだよ。
このサンドウィッチは美味しすぎたよね」
「確かに旨かった。
農家で穫れたての野菜をパンに挟んで食べるとメッチャ旨いんだ。
それと十分闘えるレベルだ」
「穫れたての野菜?
へー、旨そうじゃないか」
反応したのは俺である。俺は日本でも都会暮らし。そーゆーのはテレビの中での出来事と思ってたヤツ。
「うん、ウチの領地は農家をしている民が多い。
山近くで果物を栽培しているのもいる。
収穫の時期、少し前くらいだな。
だと、収穫手伝う事もあるし、その場で食べたりもするんだ」
「あれ、もうそんな時期なんだ。
収容所にいるとサッパリ時期が分かんないよ。
そろそろ秋も終わるの?」
「ノンキだな、711番。
今日はサウィン祭の日、当日だぞ」
「うそっ?!
もう、そんな…………
そうか、今日サウィン祭なんだ」
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