第74話 天使
ああ。
俺は何処か緊張していた。もうあの狂った殺戮の女神からは逃げおおせた。そう頭で理解していても、体の何処かにギュッと冷たく固まったままのモノがある。溶けていかないしこりの様なモノ。
それが金髪の美くしい子を見た途端温かく溶けていくのを俺は感じていた。
キミは…………
キミはもしかして俺を助けるために神が遣わした天使なのか?
俺はそんなセリフを心の中で大マジメにつぶやいていて。自分で自分のバカさに呆れる。
恥ずかしい、はずかちい、ハズカシィーーーッ!
バカなのか、アホなのか。どこの歌の歌詞だ? 歌詞だって詩だってイマドキそんなセリフあるかいっ!
いくら俺が17歳の多感なお年頃っつっても、中身はそこにプラス30ウン年生きたオッサンだぞ。
と恥ずかしさに悶える俺。
「なんで僕を見つめてるんだい。
目つきがおかしいよ。
ねぇ、正気に戻って」
「……キレイだ」
俺の口からはその言葉がポロリと零れていて。
「…………?!……」
金髪の子の頬が瞬く間に赤く染まる。
「999番っ!
僕をからかっているのか?!
ここは食堂で他の人達も多数居るんだぞ。
マトモにしてくれ!」
俺はその顔にぼうっと見惚れる。だってだって怒った顔もカワイイ。
それにホンキで怒ってるんじゃ無い。頬はテレた様に赤く染まり、目線は俺に合わす事が出来ずにそっぽを向いている。口元なんて喜びの笑みを浮かべそうになっていて、それを引き締めようとして、またニマと笑いそうになっているのである。
総合してテレ隠しにそっぽを向いてる金髪の美少女なのである。
そのサマはかわいい。
カワイイ。
cawaii。
可愛さ無限大なのである。
「なんじゃ、騒がしいと思ったら……
711番、どうしたんじゃ?」
現れたのは白髪混じりの老人。この収容所での呼び名は作業員324番。俺らだけが知っている本名はヒンデル。
「あっ、324番さん。
良かった、999番の様子がおかしいんです」
「999番はいつもおかしいじゃろう」
「それは……確かに。
そうなんですけど、今日はいつも以上におかしいんです」
「分かったから、声のボリュームを下げろ。
目だってしもうとるぞ」
ひどい?!
俺、いつもおかしい、とセタントやヒンデルに思われてたの。
えーーーっ、なんで。
そんな変な言動をとった覚えは無いんだが…………
「どれ、ふむ…………
確かにぼうっとしておるな。
なんだか夢中で711番を目線で追っているみたいじゃが。
999番どうしたんじゃ?」
ヒンデル老が俺の横に座る。観察する様に俺を見ている。観察する様に、と行ってしまったけど、それは冷たい視線では無い。俺に対する心配や気遣いも感じられるモノ。
「ヒンデル、心配しないでくれ。
単に俺は…………
セタントが美少女だと気が付いてしまってな。
それで驚いているだけなんだ」
「…………!……」
「…………?!?!……
ナニを世迷い事を言い出しているんだ!
ホラ、324番。999番がおかしいだろう」
俺は大分小さい声で、ヒンデルだけに伝わる声でしゃべったつもりだが、セタントの方も聴き取ってしまったらしい。
「僕のドコが女だって言うんだ!
多少カラダ付きが華奢なのは認めるけど、それだけだ。
まだ16歳で成長しきっていないだけなんだ」
凄まじく慌てた風情で話す金髪の子。今まで俺は美少年と呼んできたけど、美少女である。
「あのな……セタント。
キミが何故男のフリをしているのかは知らない。
しかしそのウソは無理が有るぞ。
キミはいくらなんでもキレイ過ぎる。
それに……今朝俺は見てしまった。
明け方サラシを胸に巻くトコロを。
今までサラシを胸に巻いて抑えつけていただろう。
しかし今朝は……」
俺は感じてしまったのだ。ふくよかな胸の膨らみ。
むにっ
やわやわっ
としたあの至高の感触。俺の服越しではあるが…………
スバラしかった!
あの感動を俺は一生忘れない!
「だぁーーーーーっ!!!
言うな、言うな、言うなーーーーっ!
オトコノコだもん。男なんだもん。
わたし男じゃ無いとイケナイんだもんーーーっ」
「五月蝿い!
静かにせんか、二人とも。
ここは食堂じゃ。
他の人間達にも聞こえてしまう。
その件に関しては後でゆっくり話そう。
今は……ナニも無かった様にメシを食うんじゃ」
俺達二人はヒンデル老に怒られてしまった。
確かにヒンデルの言う通り、こちらをチラチラと見ている視線を感じる。
いかん、いかん。
「324番の言う通りだ。
悪かった、こんな場所でする話では無かった」
「僕の方こそ…………
変に取り乱してしまった。
すまない、気を付けるよ」
ナニゴトも無かった様にメシを食う俺とセタントなのである。
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