第46話 長ーい道のり

「……なぁ、もういいんんじゃねぇか」

「これだけ探しても見つからないって事は……もう村から離れた場所へ逃げたんだよ」


「だけど、鉱山から逃げて来たって事はよ。

 凶悪な犯罪者なんだろ。

 そんなのがこの周辺をうろついてるなんて……」

「そうよ、安心して夜も眠れないわ。

 町の衛兵に届けた方が良いんじゃないかしら」


 村人達はそろそろ探すのを諦めて来たフンイキ。

 隠れている俺の横では妖精少女パックが騒ぎ立てる。


「ねー、いつまでここに居るんだわさ。

 もう帰って妖精女王ティターニア様を助けるため働くなのよー」

「悪い、もう少し様子を見させてくれ」


 俺は声を潜めて返事をする。妖精少女パックは少し苛立った様子。「もうっ」などと言いながら、村人の頭上を飛び回る。

 透き通った羽を広げた身長20センチ程のちみっちゃい少女が飛び回っているのだが、村人達は誰も気にしていない。

 ホントーにフツーの人間には見えないんだな。


「衛兵に届けるのはどうかな。

 村の周りをアイツらにうろつかれるのはゴメンだぜ」

「確かにそうだけど……

 でも凶悪な犯罪者が隠れてるのはもっとイヤよ」


「悪い犯罪者とは限らん」


「……村長?」

「あの鉱山に捕まってるのは罪を犯した者だけだって……」


「そう国は宣伝してるかもしれんが……

 あの鉱山は人手不足じゃ。

 人出を搔き集めるため、大した悪人でなくても鉱山に送られてしまううんじゃ。

 ワシの知り合いの中には税金が払えなかっただけで鉱山送りになったヤツも居る」


「それがホントなら……少し可哀そうな話ではあるな」

「わたしたちそんな人を追い出しちゃったのかしら……」


 あの中年夫婦が少し後悔した表情を浮かべている。

 パッと見て、人が良さそうと思ったのは間違っていなかった。純朴な村人の夫婦。  

 だけど後悔なんてしなくて良いよ。

 考え無しだった俺が悪かった。

 あの鉱山は前世で言ったら刑務所みたいなモノ。刑務所から逃げ出した人間がうろついていたら警戒するのはアタリマエ。俺だったら追い回す前に即座に110番に届ける。捕まったからと言って、その身を案じたりは絶対しないと思う。


「まぁ、今夜はもう遅い。

 諦めて寝るとしよう。

 明日またどうするか相談しようじゃないか」


「そうね」

「それが良い」


 村人達は解散していった。それぞれの家に帰って寝るのだろう。

 俺も帰るとしよう。



妖精少女パック、もういいぞ。

 地下で作業をする」

「おっけーなのよー」


 俺はいつもの地下坑道に出て掘り返す作業を始める。

 穴を下へと掘っているのだ。

 人が通れるサイズで掘り進めていて、そろそろ10メートルは越えるかな。

 けっこうな時間を費やしているのだが、なかなか下へと穴を掘り進めるのはやっかいだ。地盤が固い。妖精少女パックによるとこの辺は鉄を多く含んでいるらしい。そりゃ固いよな。


 ツルハシで固い処を叩き割りながら、ルピナスに作って貰った実験シャベルで掘り返す。脇に避けた土を多くなって来たら穴の上に運ばないと。

 あーもう、ベルトコンベア欲しいな。ルピナスに言ったら作ってくれないかな。さすがに技術革新が過ぎるか。


 俺は単純作業をしながら、今日のコトを色々思い返してみる。

 イロイロ情報有ったな。


 鉱山以外の場所には普通の生活を送る人達が暮らしている。この鉱山に居るのは普通の人達が怖れる凶悪犯罪者。

 なんで俺ここに居るの。

 ヒンデル老人も言っていたし、あの村の村長さんも言っていた。ここは犯罪者の捕まる場所では有るが、大した罪を犯して無い人でもブチ込まれたりする。税金が払えなかった貧乏人でも放り込まれる。


 そーいやセタントも捕まっていたんだ。

 事情は詳しく訊けて無いけれど。

 元は貴族の少年。

 クライン家。ナイト・オブ・ナイツ。国一番の対魔騎士。

 だけど、王様に反対する意見を口に出して疎まれている。おそらく王の怒りに触れてその子供がここに連れて来られた。

 ヒドイ話だ。

 セタントはあんな美少年だってのに。少年院は別に無いのか。

 あんなむくつけきオッサンどもの間に美少年を放り込んだら……キケンじゃないか。

 ナニがって……

 だから、つまり。


「可愛い子だね、ほーらオジサンが可愛がってあげる」「けけけ、なんてスベスベした肌なんだ」「コイツは女だ。実際の女なんてナマイキなだけ。このカワイイ子は俺にとっては女以上の女なんだ」「よしよし、俺のムスコをその奇麗なおててで握ってごらん」「俺のはその可愛らしいピンクの口でしゃぶるんだ」

 抵抗しながらも、腕力では男達に敵わない金髪の美少年。何人もの男達に身体をイタズラされてるウチにやがて……そのカラダは……

 イカンー!

 いかんってば。


 分かって貰えるだろうか。

 俺が怖がりながらも人里に行こうとしてる理由。

 つまり。

 だからして。

 女のいる店に行きたいっ!


 いや、だから別に俺が女好きだとかそんなんじゃ無くて。だけど、この肉体ってば17歳の男なの。オスなの。サルなの。


 俺は考えたのだ。

 最近妄想が過ぎる。すーぐ、エロイ妄想をしてる気がするし、レプラコーンちゃんとか妖精少女パックに会っても、変な部分に目が行ってしまう。


 仕方ないじゃん。17歳だよ。フツーの高校生だったらクラスメイトの髪から覗くうなじとか、スカートから覗く魅惑の生足とかに引き付けられてしょうがない時期なの。そうなの!

 それを夜一人でグラビアやらえっちなマンガ読んでなんとかしてるの。進んだヤツならネットで怪しい動画をどうにかして観たりしてるの。

 なのに、だってのに。ここにはネットもえっちなマンガもグラビアも存在しないのだ。

 だからして多分おそらく大きい町なら、なんかそんな欲求をどうにかしてくれるお店があるんじゃないかと考えたの。


 ハッキリズバリ言ってしまうと風俗。

 この世界にもあるよな、多分…………

 売春は人間のもっとも古い職業などと言う言葉も聞くし。大きな町ならあるだろう。なんとか町に行ってどうにか風俗店行けないかな。

 そんな計画。


 だけどなー。

 その大きな町の近くの小さな村に行くだけで、この騒動。これはその計画を実行するための道のりはまだまだ険しく長そうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る