第45話 村
「人間には人間のルールが在るの。
今は
「むー、良く分かんないなのよけど……
イズモには頼み事をしてるんだわさ。
だからとりあえず今は言う事聞いてあげるんだわさ」
「……感謝する」
さぁ、ここからが本番。
人間の家へと近づいて行く。
多分この葡萄畑を管理している農家なんだと思う。木を組み合わせた家。暗い夜の村に少しの灯りが漏れている。
近くに来ると木枠の窓が押し上げられている。木で出来たストッパーで押し上げて開く造り。そこから明かりが見えている。
窓から少し覗いて見る。
テーブルとその上に置かれている燭台。
見えたっ!
椅子に座ってる人間。
キター! この世界の人間との出会い。
いや、セタントやヒンデルとは出会ってるし、鉱山で労働者達とだって毎日顔を合わせてるし、監視の人間とだって会ってるんだけどさ。
アレはなんてゆうか、犯罪者が閉じ込められてて、その看守とか、特殊な人達じゃん。
ごくフツーの一般人と逢うのはハジメテ。初体験なのよ。
緊張したって仕方ないよな。
俺は中に居る人間に気付かれない様に注意しながらも、窓に顔をグイグイ寄せて観察する。椅子に座っている人間が二人見えるんだけど、窓枠がジャマして顔まで良く見えないな。
アッサリした布の服にズボン。少し太めの体格。多分中年男と中年女性。葡萄農家のオジサンとその奥さん。
「今年のワインはイマイチだな」
「そうかしら。
去年のデキが良すぎたのよ。
今年は普通だと思うわ」
声も聞こえる。そうか、葡萄と言えばワイン。ワインは葡萄を発酵させて作る。この家は葡萄を栽培して、そこから更にワインも作っている。ワイン醸造家なのか。
カタン。
しまった!
身を乗り出しすぎて窓に当たっちゃった。木で出来た仕掛けで開いていた窓が閉まってしまった。
「ん、なんだ?」
「風でしょ。
今開けるわ」
そして女性が窓の方へ近付いて来る気配がして。
俺の顔のすぐそばに在る木の窓が開かれた。
「…………だ、誰?!……」
「…………すいませんっ……
怪しい者ではなくてですね。
……しまったー、こんな時なんて言うか、言い訳何も考えて無かった……
えーと、山に来て迷っちゃったって言うか。
旅人と言うか、迷子とでも言いますか…………」
まずったー。自分の設定何も考えて無かった。人に逢うんだからナニか考えておかなきゃダメだったじゃん、俺。
女性が俺の方を見てフシギそうな表情。
少しふくよかな中年女性。人の良さそうなフンイキでは有るが、今は少し不審に思ってるのか、眉を寄せている。
「迷った……ってヒルトンの町から来たの?……
あそこからモーン山地に行く用事なんて無いでしょうに」
「どうした、何があった?」
「ああ、迷ったって人が来てるの」
奥から中年男の方も近づいて来るようだ。おそらくこの奥さんの旦那さん。
窓から少し離れた場所に在る扉が押し開けられ、中年男がそこから顔を覗かせた。
「ああ、すいません」
俺は丁寧に頭を下げる。ハジメテ逢う人への礼儀。
しかし男はみるみる表情を硬くした。
「お前……その恰好……
脱走者か?!
あの鉱山から逃げて来たのかっ!」
「脱走者?!
スリーブドナードの鉱山から!」
人の良さそうだった奥さんもみるみる顔が強張る。
マズイ!
しくじった!
俺は何も言わずにその場を逃げ出した。
「待てっ!」
中年男から声が掛かるけど、今は待てない。多分よろしくないフンイキ。逃げるが勝ち。
俺は隠れている。
村人達が数人、俺を探している。あの中年夫婦が他の村人まで捲き込んだのだ。
「ホントに脱走者だったのか?」
「あの作業着、間違い無いと思う」
「フツーの迷子だったら逃げないでしょう」
「あのスリーブドナードの鉱山からは絶対逃げられない、って聞くけどな」
「ああ、捕まっている人間みな
鉱山から逃げ出したなら、ドカンと行くんだってよ」
「……しかし、俺はあの鉱山の監視官に注文されてワインを届けた事がある。
その時見た作業着と同じだった」
「……ならやっぱりどうにかして、逃げて来たのか」
村人達は松明を灯して木々の影や、納屋を探すけど俺は見つからない。俺は家の屋根の上に隠れていた。
確かに俺の左腕に仕掛けられている。収容所の周辺にもその
だけど、人が通る事の出来ない険しい崖っぷちにまでは仕掛けられていない。俺は
現在も同じ普通の人間が家の屋根に上る事は出来ないだろうが、俺は軽々と跳んで屋根の上に隠れたのである。
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